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『「勘弁してください(結婚してください)」 ~殺されるかと思ったら、一生お菓子を焼くことになりました~』  作者: 沼口ちるの


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第20話 図書館の怪人と、極彩色(カラフル)なマカロン

北の帝国図書館。 世界中の知識が集まるとされるその場所は、静寂と埃の匂いに包まれていた。


「……ここだな」


リディア様が重厚な扉を開く。 広大なフロアには、天井まで届く本棚が迷路のように並んでいる。 僕たちの目的は『地下禁書庫』。 ナンジャモンに関する記述があるとしたら、そこしかない。


「暗いな……それに、なんか空気が淀んでない?」


アンナが不快そうに鼻をつまむ。 確かに、奥へ進むにつれて、湿っぽくて陰鬱な空気が漂ってくる。 そして、禁書庫の最奥。 僕たちは「それ」を見つけた。


「……うぅ……どうせ僕なんて……」 「……生きててごめんなさい……呼吸しててごめんなさい……」


部屋の隅っこ。 本棚と壁の隙間に、黒いローブを纏った小柄な影がうずくまっていた。 その周囲だけ、明らかに温度が低い。 さらに言えば、半透明の幽霊たちが数体、心配そうに彼を取り囲んでふわふわ浮いている。


間違いない。 未来の四天王、『深淵のネクロラ』だ。 でも、僕の知っている「知的な参謀」の姿とは程遠い。


「……おい、なんだあのこけみたいな生き物は」


リディア様が心底嫌そうな顔をした。 ミゼリアも氷の槍を構える。


「危険です、リディア様。負のオーラが強すぎます。……呪われる前に排除しましょう」 「ひぃッ!?」


殺気を感じたのか、ネクロラがビクッと震えて、さらに小さく縮こまった。


「こ、来ないで……眩しい……僕みたいなカビ人間に光を当てないで……溶けちゃう……」


(……す、すごいネガティブだ)


未来の自信家ぶりはどこへやら。 どうやらこの頃の彼は、その強力すぎる死霊魔法の才能ゆえに周囲から気味悪がられ、ここに引きこもって本だけを友達(+幽霊)にしていたらしい。


「邪魔だ。そこを退け」


リディア様が容赦なく踏み込もうとする。 このままではネクロラが踏み潰されて(物理的にも精神的にも)終わってしまう。


「待ってください! ……彼は、僕に任せて」


僕はリディア様を制止し、リュックからある物を取り出した。 色とりどりの、可愛らしい焼き菓子。 『マカロン』だ。 ラズベリー、ピスタチオ、レモン、ショコラ。 宝石のような色彩が、薄暗い図書館の中で異彩を放つ。


僕はネクロラの前にしゃがみ込み、小箱を差し出した。


「……勉強、疲れない?」


「……ぇ?」


ネクロラが、恐る恐る顔を上げた。 瓶底眼鏡の奥の瞳が、おどおどと揺れている。


「頭を使うと、糖分が欲しくなるでしょ? ……これ、よかったら」 「……なに、これ……?」 「マカロン。脳のエネルギー補給に最適だよ」


「……脳の、補給……?」


ネクロラが、ゴクリと喉を鳴らした。 彼の膨大な魔力と知識欲は、常に脳を酷使しているはずだ。 慢性的な低血糖。それが彼のネガティブ思考の一因かもしれない。


ネクロラは震える手で、ピンク色のラズベリーマカロンを摘み上げた。 そして、小さな口で齧る。


カリッ。 ムチッ。


外はサクッと軽く、中はしっとり濃厚。 甘酸っぱいフランボワーズの香りが、彼の脳髄を直撃した。


「――――ッ!!?」


ネクロラの眼鏡がカッと光った。 ドクン、ドクンと脳が脈打つ音が聞こえそうだ。


「……す、すごい……! ブドウ糖が……急速に脳細胞へ行き渡る……! シナプスが……連結する……! 計算速度が……300%上昇……!」


「どう?」


「……君は、神か?」


ネクロラが僕の手をガシッと掴んだ。 その目からは、さっきまでの死んだ魚のような光が消え、狂気じみた知性の光が宿っていた。


「この構造……卵白と砂糖の配合比率……完璧だ。これがあれば、我輩の研究は数十年進む……!」 「よかった。じゃあ、これをあげるから……一緒に来てくれる?」 「行く! 地の果てでも、冥府の底でもついて行く! ……だから、あともう一個、ピスタチオ味をくれ!」


チョロい。 いや、天才ほど極端なものに弱いと言うべきか。


「……ほう。中々見どころのある目になったな」


リディア様が呆れつつも感心したように言う。 アンナは「またヒイロくんの変な信者が増えた……」とジト目を向けているけど。


こうして。 根暗で引きこもりの天才少年、ネクロラが仲間になった。 ナンジャモンの文献解析には、彼の頭脳(と糖分への執着)が不可欠だ。


さあ、役者は揃いつつある。 次は『ナンジャモンの封印』に関する具体的な手がかりを、彼の頭脳で解き明かしてもらう番だ。



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