第16話 早すぎるデレ期と、十字槍の勇者
12歳になった。 村の広場で、僕は国から派遣された使者より、うやうやしく『勇者』の称号を授与された。
「――よって、ヒイロ・ロードを正式に勇者と認める!」
ファンファーレが鳴り響く。 村人たちの歓声。母さんの涙。 でも、僕の心は冷静だった。 称号なんて飾りだ。重要なのは、これから世界中に散らばる『古代文献』を探しに行くこと。 あの「ナンジャモン」に関する記述……その弱点や封印方法を、何としても見つけ出さなければならない。
式典が終わり、僕はこっそりと村外れへ向かった。 旅支度は済んでいる。誰にも言わずに発つ予定だった。
「……で、どこへ行くつもりなの? ヒイロくん」
村の出口。 そこには、当然のように彼女が立っていた。 12歳になり、少女と大人の狭間で美しさを増した聖女、アンナ。 彼女は腕を組み、頬を膨らませて僕を睨んでいる。
「いや、ちょっと散歩に……」 「嘘ね。そのリュック、三日分の保存食と、調理器具一式(マイ・オーブン含む)が入ってるでしょ?」
バレてる。調理器具まで把握されてる。 僕は観念して溜息をついた。
「……文献を探しに行くんだ。世界の終わりを回避するための、重要な旅なんだよ」 「ふーん。世界の終わりね」
アンナは興味なさそうに言い捨てると、スタスタと歩み寄り、僕の腕にギュッと抱きついた。
「じゃあ、私も行く」 「えっ、ダメだよ! 危険だし、アンナちゃんには教会の務めが……」 「関係ないわ。ヒイロくんがいない世界なんて、私にとっては終わってるも同然よ」
アンナは僕の腕に頬を擦り寄せ、上目遣いで甘い声を出す。
「それに……今日の分の『いちごタルト』、まだもらってないもん。ヒイロくんと離れたら、私、禁断症状で国の一つや二つ滅ぼしちゃうかも♡」
(……早い! 早すぎるよアンナちゃん!)
前世の記憶では、彼女がここまであからさまにデレたのは15歳を過ぎてからだったはずだ。 それがどうだ。12歳にしてこの依存度。 「お菓子」という英才教育(餌付け)が、彼女の情操教育に劇的な影響を与えてしまったらしい。
「それに、私を守るんでしょ? 『最強』になるんでしょ?」
アンナがニヤリと笑う。 その言葉に、僕は苦笑した。 そうだ。誓ったんだ。
「……わかったよ。一緒に行こう」
「待たれよ!」
その時、背後から鋭い声がかかった。 現れたのは、儀式の警護に来ていた王立騎士団の小隊長だ。 フルプレートアーマーに身を包み、剣を構えている。
「勇者殿! そして聖女様! 勝手な旅立ちは認められん! 国の管理下に入ってもらう!」
大人の騎士が十数人。 普通なら子供が敵う相手じゃない。 でも、僕はため息をつきながら、背負っていた布包みを解いた。
現れたのは、身の丈を超える長大な槍。 穂先が十文字に枝分かれした、『十字槍』だ。 前世の記憶にはない、今の僕が選んだ相棒。 「守る」ためのリーチと、「払う」ための面制圧力を兼ね備えた武器。
「……どいてください。急いでるんです」
「生意気な子供が! 少し痛い目を見せてやる!」
小隊長が剣を振りかぶり、踏み込んでくる。 速い。一般人なら目にも止まらない踏み込み。 でも――
(遅い。ヴォルグの拳に比べれば、止まって見える)
僕は十字槍を片手で軽く振るった。
カァンッ!
「なっ!?」
小隊長の剣が、根本からへし折れて宙を舞った。 さらに、槍の石突き(柄の端)で、すれ違い様に脇腹を軽く小突く。
ドゴォッ! 「ぐはっ!?」
小隊長はボールのように吹き飛び、後ろにいた部下たちを巻き込んで転がっていった。 一撃。 手加減してこれだ。 今の僕は、すでに王国の精鋭騎士団と互角――いや、それ以上に渡り合えるレベルに達していた。
「……行くよ、アンナちゃん」 「さすがヒイロくん! かっこいい♡」
アンナは何事もなかったように僕の隣に並び、聖魔法で騎士たちの怪我を(一応)治癒してあげている。 アメとムチのコンビネーションも完璧だ。
「さあ、まずはどこの国へ行く? ヒイロくん」 「北の帝国図書館に行こう。あそこなら、古い伝承が残ってるかもしれない」
こうして。 最強の12歳勇者と、デレデレ聖女の旅が始まった。 目指すは「ナンジャモン」の情報。 そして、その道中で出会うであろう、かつての仲間(四天王)たちとの再会へ向けて。
僕の手には十字槍。 リュックには製菓道具。 隣には最愛の幼馴染。
二周目の旅は、前世よりもずっと賑やかになりそうだ。




