第14話 3歳児、魔力枯渇(MP切れ)に挑む
「ふぅ……ふぅ……」
ボロ家の隅っこで、僕は荒い息を吐いていた。 額からは大粒の汗が流れ落ち、視界がチカチカと点滅している。
今の僕の体は、わずか3歳。 身長はおよそ90センチ。 筋肉なんてないし、体力もない。階段を登るだけで息切れするような軟弱ボディだ。
でも、僕には『魔法』がある。 前世の僕が使えたのは、生活魔法レベルの『着火』と『洗浄』だけ。 攻撃魔法なんて一つも覚えられなかった。
「でも……これを使えば……!」
僕は震える指先を、埃まみれの床に向けた。
「……『洗浄』」
ブワッ。 一瞬、僕の手のひらから魔力が放たれ、床の埃が綺麗に消滅した。 範囲はわずか30センチ四方。 たったこれだけで、僕の小さな体からはガクッと力が抜ける。
(やっぱり、まだ魔力量(MP)が少なすぎる……)
3歳児の魔力の器なんて、お猪口みたいなもんだ。 前世の僕は、これを「才能がない」と諦めて、レベル上げもしなかった。 でも、今の僕は知っている。
『魔力は、使い切って回復させることで、器が広がる』
これは、前世でネクロラが雑談交じりに言っていた理論だ。 筋肉と同じで、限界まで酷使すれば、体はそれに適応しようとして成長する。 3歳という、成長期の今だからこそ……このトレーニングは爆発的な効果を生むはずだ。
「もう一回……!」
僕はふらつく意識を叱咤して、再び魔法を使う。 『着火』。指先に豆粒のような火が灯る。 『洗浄』。窓ガラスの汚れを弾き飛ばす。
ハァ、ハァ、ハァ……。 頭が痛い。気持ち悪い。 これが『魔力枯渇』の症状だ。普通の3歳児なら泣き叫んで気絶するレベルの不快感。 でも、身体を食いちぎられた痛みに比べれば、こんなもの「くすぐったい」くらいだ。
「あら? ヒイロちゃん、またお掃除ごっこ?」
部屋のドアが開いて、母さんが入ってきた。 優しそうな、村の普通の主婦だ。 彼女は、ピカピカになった床を見て目を丸くした。
「まぁ! 本当に綺麗になってるわ。……ヒイロちゃんは魔法使いの才能があるのかしら?」
母さんは冗談めかして笑ったけれど、僕は真剣だった。 普通の子供は、魔法なんて使えない。 魔力が安定するのは10歳前後と言われているこの世界で、3歳児が魔法を行使すること自体が、すでに「神童」の領域なのだ。
「(……もっとだ。もっと早く、もっと多く回せ!)」
僕は母さんに見つからないように、背中で指を組み、無詠唱で魔法を練り続けた。 空気中の塵を『洗浄』し続ける。 体内の魔力回路が焼き切れそうに熱い。
18歳までの15年間。 毎日、限界まで魔力を使い切って、器を広げ続けたらどうなるか。 前世ではスライムも倒せなかった『洗浄』魔法が、もし台風のような規模で放てるようになったら? それはもう、敵を分子レベルで分解する「消滅魔法」になり得るんじゃないか?
「……ふふ」
意識が遠のく寸前、僕はニヤリと笑った。 3歳児の不敵な笑み。 母さんは「あら、お腹すいたのかしら?」と首を傾げている。
こうして。 僕の二度目の人生は、オムツが取れる前からストイックな『魔力筋トレ』の日々で始まったのだった。




