第13話(新・第1話) 3歳の誓い
「――ッ!!!」
僕は飛び起きた。 全身が汗でぐっしょりと濡れている。 心臓が早鐘を打っている。 幻痛。体が食いちぎられる痛みが、まだ鮮明に残っている。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
僕は荒い息を吐きながら、周囲を見渡した。 そこは、魔王城の瓦礫の山……ではなかった。 薄暗い、木造のボロ家。 隙間風が吹く、狭い部屋。
「……え?」
見覚えがある。 ここは、僕が生まれ育った村の家だ。 どうして? 走馬灯? 天国?
僕は自分の顔をペタペタと触った。 肌に張りがある。 視線を落とす。 そこにあったのは、大人の手ではなく、紅葉のように小さな、子供の手だった。
「……手が、小さい?」
慌ててベッドから飛び降りる。 視線が低い。 鏡を探して覗き込むと、そこにはあどけない表情の幼児が映っていた。 茶色い髪。大きな目。
間違いない。 これは、前世の記憶を取り戻してすぐ……僕が3歳の頃の姿だ。
「もど、った……?」
僕は理解した。 死んだんだ。食べられて、消化されて。 そして、時が巻き戻ったんだ。
ズキリ。
頭が割れそうに痛む。 記憶が濁流のように流れ込んでくる。 リディア様との出会い。勘違いから始まった甘い生活。 アンナちゃんとの再会。四天王との日々。リキューさんの紅茶。
そして、ナンジャモン。 あの絶望的な「無力感」。 大切な人たちが、虫けらのように殺されていく光景。
「う、ぅッ……!」
僕は胃液を吐いた。 恐怖と怒りで、体が震える。 怖い。思い出すだけで、魂が震えるほど怖い。
でも。
「……生きてる」
僕は生きている。 リディア様も、アンナちゃんも、きっとまだこの世界のどこかで生きている。 まだ出会っていないけれど、未来で待っている。
僕は、小さな拳を握りしめた。 爪が食い込んで血が出るほど、強く。
「もう、嫌だ」
あんな思いは二度とごめんだ。 守られるだけの「最弱」なんて、もうたくさんだ。 お菓子を焼くだけじゃダメなんだ。 そのお菓子を守るための、平穏な食卓を守るための、圧倒的な力が要るんだ。
「……決めた」
僕は鏡の中の自分――3歳のヒイロを睨みつけた。
僕は最強になる。 ナンジャモンなんて、デコピン一つで消し飛ばせるくらいの、理不尽な強さを手に入れてやる。
でも、お菓子作りはやめない。 だってお菓子は、僕と彼女たちを繋ぐ大切な絆だから。 最強の力で敵を殲滅して、最高のお菓子で彼女たちを笑顔にする。 それが、僕の二度目の人生の目標だ。
「待ってて、リディア、アンナ」
僕はボロ家の窓を開けた。 朝日が差し込む。 前の世界では灰色に塗り潰された空が、今はどこまでも青く澄み渡っていた。
「今度こそ、絶対に……君たちを死なせたりしない」
3歳の体には不釣り合いな、修羅の光を瞳に宿して。 僕の、愛と復讐とスイーツ作りの二周目が始まった。




