第10話 最強の二人、敗北
空が割れるほどの轟音が響き渡る。 僕の目の前で繰り広げられているのは、神話レベルの戦いだった。
「消え失せろォッ! 『終焉の黒雷』!」 「浄化されなさい! 『聖域の裁き(サンクチュアリ・ジャッジメント)』!」
リディア様の放つ、世界を焦がすほどの黒い稲妻。 アンナが解き放つ、すべてを無に還す純白の光。 相反するはずの二つの極大魔法が、奇跡的な融合を果たしてナンジャモンへと直撃する。
光と闇の奔流。 魔界の地形が変わるほどの爆発。 これなら……これなら倒せるはずだ!
「……はぁ、はぁ、やったか!?」
アンナが膝をつきながら叫ぶ。 土煙が晴れていく。 そこに立っていたのは――
「……ごちそうさま」
ナンジャモンだった。 傷ひとつない。それどころか、満足そうに口の周りを舐めている。
「今の、ちょっとピリッとした。……でも、腹の足しにならん」
「な……ッ!?」
リディア様の顔色が真っ青になる。 食べたのだ。 人類と魔族の全力を込めた攻撃を、ただの「間食」として処理したのだ。
「……次は、俺の番」
ナンジャモンが軽く足を地面に叩きつけた。 ただそれだけ。 それだけで、衝撃波が世界を薙ぎ払った。
ドォォォォォンッ!!
「きゃぁぁぁぁっ!!」 「ぐぅッ!!」
アンナの『聖なる結界』がガラス細工のように砕け散る。 リディア様の『魔王の鎧』が紙のように引き裂かれる。 二人の体が、ゴミ屑のように吹き飛ばされ、瓦礫の山に叩きつけられた。
「リディア様! アンナちゃん!」
僕は駆け寄ろうとしたけれど、足がすくんで動かない。 二人は血まみれだった。 リディア様の綺麗な銀髪は赤く染まり、左腕が不自然な方向に曲がっている。 アンナの純白の法衣はボロボロで、意識がないのか、ぐったりと動かない。
「……弱い。不味い」
ナンジャモンが、倒れた二人の前に立つ。 見下ろす目はないけれど、その口が嘲笑っているように見えた。
「国を食った時の方が、まだマシだった。……お前たち、スカスカだ」
ナンジャモンが、リディア様の頭を掴んで持ち上げる。 万事休す。 首が折られる。殺される。
「や、やめ……っ!」
リディア様が必死に抵抗し、指先から魔法を放つが、それは線香花火のような弱々しい光にしかならなかった。 ナンジャモンはそれを鼻で笑い、大きく口を開けた。
「魔王の脳みそ。……珍味か?」




