タイトル未定2026/01/04 19:20
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
マスターが後片付けをしている時、リビングでスケッチブックに大門が描いた絵を流花は見ていた。
「七海と動物園に行った時、描いたんだ」
「たくさん描いたね」
「七海とぉ、流花お姉ちゃんとぉ、三人で行きたいな」
「そうだね。三人で、お出かけしたいね」
「うん!」
「じゃあ今度は、お姉ちゃんがお弁当を作るよ」
「ホント?」
「もちろん」
嬉しそうに笑った大門は、洗い物をしているマスターの方を確認するように、振り返った。
「どうしたの?」
大門は慌てて、マスターに背を向けた。
そんな大門に、流花は寄り添った。
「あのね……」
急に声を潜めて、大門は続けた。
「大門、見ちゃった」
「何を?」
「夜ねここでね、七海が泣いてたの」
「マスターが……泣いてた?」
「うん。ずっと、泣いてた」
「マスターが、泣いてた……大門君、このこと誰かに話した?」
大門は黙ったまま、首を横に振った。
「そう。じゃあ、マスターが泣いたことは誰にも言わないでね」
「うん」
「お姉ちゃんと大門君だけの、秘密だよ」
「秘密……わかった。大門、言わないよ。大門と流花お姉ちゃんだけの秘密」
流花は、そっと振り返った。
あのマスターが、夜に泣いていたなんて。
泣いていたのを大門が見ていた事に気付かず、そのことが流花に知れ渡ったと夢にも思っていないマスターは、キッチンで洗い物を続けていた。




