タイトル未定2026/01/04 18:59
流花はbar「ジェシカ」のホールの掃除をしていて、マスターはbarの灯を消そうとした時だった。
北神亮が来店してきた。
マスターと流花は、声を揃えて言った。
「北神さん!」
「こんばんは。マスター、白田さん」
亮はゆっくり歩きながら、マスターの目の前のカウンター席に座った。
流花はホールの掃除を続け、マスターは店の灯を消した。
マスターは、目の前の亮に聞いた。
「お帰りなさい。出張が終わったのですか?」
「いいえ。休暇を頂きました」
「そうですか。何になさいますか?」
「烏龍茶を」
マスターはグラスに氷を入れ、烏龍茶を注いだ。
亮は一気に半分ほど、烏龍茶を飲み干した。
「マスター。お願いがあります!」
「お願い?」
「もう少しで、私の同僚マリアがこの店に来ます。ほんの少しだけ、私の彼になってください!」
「それは、どういうことですか?」
「社内ではパートナーがいる社員ばかりで、彼はいないのかと聞かれ、ついマスターのことを話してしまいました。同僚のマリアがマスターに関心を持って、もうじきマスターを見に来ます」
マスターは力なく、椅子に腰掛けた。
「あのぉ……ボクは見せ物では、ないんですが」
ホールのモップ掛けをしていた流花の手が止まり、笑いそうになった
流花は、慌てて笑いをこらえた。
えっ、そこ?嘘をついたところを、怒るんじゃなくて?
来店を告げる鐘が、涼しげに鳴った。
「いらっしゃいませ」
背が高く、金髪で青い瞳の亮の同僚マリヤがやってきた。
「私の友人が、来ていると思うけど」
マリヤは、流暢な日本語で言った。
「いらしています。こちらに、どうぞ」
マリヤは、亮の隣に座った。
「何になさいますか?と言っても、ラストオーダを締め切ったので、飲み物しかお出しできませんが」
「ミネラルウォーター」
「かしこまりました」
マスターは冷えたグラスと、冷えたミネラルウォーターを、マリアの目の前に差し出した。
「ありがとう」
マリアはグラスにミネラルウォーターを注ぎ、ゆっくり飲んだ。
グラスをカウンターのうえに置くと、亮に聞いた。
「亮、教えてくれた彼?」
「ええ」
「初めまして」
マスターは軽く頭を下げ、亮の方を向いた。
「北神さん」
「はい」
「北神さんから海外出張の話しを伺った時、遠距離恋愛なんてボクには無理だと感じました」
突然のマスターの言葉に、誰もがマスターに釘付けになった。
「なかなか言い出せなかったけど、北神さんが休暇を取ってここに来ることを知り、これを機に今夜は気持ちを正直に打ち明けようと思いました」
そう言ったマスターは、視線を亮からそらして続けた。
「ボクが好きになった方は、ボクの側にいてほしいです」
マスターは、流花を見て言った。 流花はマスターの視線を感じ、動かしていたモップの手が止まった。
やだ……盗み聞きしていたこと、マスターに気づかれた?
流花は慌てて、モップ掛けを再開した。
「わがままで、独占欲が強くて、すみません」
マスターは、頭を下げた。
「正直に、話してくれてありがとうございます」
亮は財布を出し、お札をカウンターの上に置くと、店を飛び出した。
マリヤは慌てて、亮を追いかけた。




