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タイトル未定2026/01/04 18:10
夜の八時にマスターの携帯が鳴り、マスターは携帯に出た。
通話は、すぐ終わった。
通話を終えたマスターの手から携帯が滑り落ち、マスターはリビングのフローリングに両ひざをついた。
マスターの目に涙があふれ出て、嗚咽が漏れそうになり、マスターは慌てて両手で口をふさぎ、嗚咽が漏れるのを必死にこらえた。
それでも涙は、後から後からあふれ出てきた。
空港を出た水田菓子メーカー秘書課勤務の北神亮は長い時間高速バスに揺られ、bar「ジェシカ」の目の前に立っていた。
barは暗く、営業をしていないことは一目瞭然だった。
亮は以前、水田若菜と営業部の友光ちはるの三人でbar「ジェシカ」に訪れたことを思い出していた。
あの時も店は、営業をしていなかった。
平日のどまん中だから、店はやっていないことに亮は気がついた。
それでも、もしかしたらマスターに会える。
そんな淡い期待があったが、それは見事に打ち砕かれた。
それより……朝には出張先の同僚がやって来る。
彼氏はbar「ジェシカ」のマスターと言った亮の嘘を信じて。
同僚は「彼に、会いたい」と言った。
今更同僚に「あれは、嘘でした」なんて言えるはずもない。
いつまでも、ここに居ても仕方がない。
亮はキャリーバックを転がし、歩き出した。




