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それは天使か、悪魔か、童貞か その3

「君は……」


 声を掛けてきたのは、先ほど連行された男に絡まれていた件の少女である。


「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。君の方こそ怪我は無い?」

「はい、おかげさまでなんともないです。先ほどはありがとうございました」


 少女は穏やかな笑顔で答え、丁寧にお辞儀をする。


「ところで、本当に大丈夫なんですか? 私を庇った時にすごく辛そうなお顔をしていましたが」

「え? ……あ」


 ルークは少女に言われて気付く。両腕で防御していたとは言え、モロに攻撃を喰らっていた事を。思い出したらなんだか無性に痛くなってきた。


「……ルーク? あんたまさか、痩せ我慢して」

「ち、違うんだエリーゼ! これは本当に忘れてただけで」

「やっぱり、少し見てもよろしいですか?」

「え? ちょ、何を」


 睨み付けてくるエリーゼを早く宥めようと慌てたルークは、その隙を突かれて負傷した両腕を少女に触れられる。


 すると少女の手から伝うように、淡い黄金色の光がルークの両腕を包み込んだ。


「こ、これは……」


 そこから数十秒ほど経過した後に光は消え、


「痛くない……治ってる!」


 ルークは両腕から痛みを感じなくなっていた。


「どうやら完治できたみたいですね。本当に良かったです」


 ルークの腕を治した少女は、まるで我が事のように喜ぶ。その姿を見て、ルークは思わずドキッとしてしまった。


「ほう、これは凄い。治癒系統の加護でも高位に当たるな」

「うわっ!?」


 いつの間に居たのか。先ほど男をあっさり無力化していた風紀委員の男子生徒が、すぐ側で自身の両腕をまじまじと見ていた。


「あ、風紀委員の方ですよね? 先ほどはありがとうございます」

「ありがとうございます。すぐに対応して下さって」


 驚くルークをスルーし、少女とエリーゼは彼にお礼の言葉を口にした。


「いや、風紀委員として当然の事をしただけだ。寧ろ事前に防ぐ事が出来ずすまない。せっかくの入学式を台無しにしてしまった」

「い、いえ、謝る必要なんてありませんよ」


 腰を抜かしていたルークは立ち上がりながら、彼に向かって言う。


「元はと言えば、俺が出しゃばったから騒ぎが必要以上に大きくなったんです。……本当ならあなたのような人を探して連れて来るべきでした」


 此処は最高峰の教育機関と名高い王立学園だ。王国でも重要度が高く、それ故に警備も固い。

 自分は余計な事をしたのでは? ルークは今になってそんな事を思っていた。


「あの、そう卑下しないで下さい」

「え?」


 そんな俯いてしまっている彼に、少女は言う。


「もしかしたら間違った事をしたのかも知れません。ですが、それであなたが自分を責める必要は無いです」


 少女のつぶらな瞳は、しっかりとルークの眼を見ていた。


「あなたは誰かの為に動いて、そして成し遂げました。これは事実なんです」

「……」

「もっといいやり方があったんじゃって反省するのは良いと思います。ですが、やるべきじゃ無かったなんて思わなくて大丈夫ですよ」


 あなたは頑張ったんです。そう言って彼女は微笑んだ。


「そっ……か、うん、ありがとう」

「いえ、立ち直れたのなら何よりです」


 少女の全てを包み込むような優しい笑顔を見て、やっぱり初めて見た時の印象と相違ない人物だなとルークは思った。


「……君達の名前を聞いてもいいか?」

「……? 名前ですか?」

「ああ、俺はアレス・シュトロノーム。風紀委員の委員長を務めている」


 まさかの風紀委員長だったかと、ルークは密かに驚きながらも彼に返事をする。


「ルーク・アートマンです」

「セレナ・ユークリッドと言います」

「……エリーゼ」


 最初にルークが、次に少女改めセレナが、最後にエリーゼがルークの事をコッソリ睨みながら、それぞれ名前を告げた。


「ありがとう、もし良かったら風紀委員に入る事を検討してくれ。特にルーク君」

「え!? お、俺ですか?」


 突然風紀委員の委員長に名指しされたルークは困惑し、なぜ自分なのか思わず問いかけていた。


「ああ、これは俺の勘だが、君は今後もああいった場面を見たら首を突っ込んで行くだろう」

「うっ……否定出来ません」

「風紀委員長として、一般の生徒が揉め事に介入するのは見過ごせない。だから無用な面倒事を起こさない為にも、君には風紀委員という役職を持って欲しいんだ」

「な、なるほど」


 アレスの言葉には確かな善意があり、その内容も納得できる物だった。

 ルークも自分の行いのせいで誰かの負担になるのはなるべく避けたいと思っている。


「……その時はお願いします」


 故に彼は、風紀委員に入る事を決断した。


「ああ、その時は快く歓迎しよう。……それじゃあ、俺はそろそろ行く。風紀委員の仕事があるからな」


 ルークの返答を聞いてアレスは満足そうに頷き、そして去って行った。


▼▼▼


 入学した当日に風紀委員への内定が決まったルーク。


「そろそろ小休憩も終わりかな。……えっと、大丈夫セレナさん?」

「……?」

「いやほら、あんな事があった後だし、気分が悪いなら先生に相談した方がいいんじゃないかなって」

「なるほど、そういう事でしたか」


 あんな男にナンパされて、しかも間近で人が戦っている所を見たのだ。温和な彼女には刺激が強すぎたんじゃないかとルークは考えた。


 弱っている状態で寮の案内に着いて行けるかとルークは心配になり、こうして尋ねたのだ。

 そんなルークの言葉に、セレナは、


「ご心配してくれてありがとうございます。ですが大丈夫ですよ」(余計なお世話だヤ○○(ピー)ンハーレム○○○(ピー)系クソ主人公)


 心配いらないと(罵詈雑言)優しげな微笑みを(を吐いて)浮かべて答えた(いた)


「本当に大丈夫? 無理してるとかは」

「いえ、そんな事は無いですよ?」(大丈夫だつってんだろうが! なんだぁキサマ? そんなにヤル口実を作りたいのか? この腐れ変態ド外道がよォ!!)


……誤解の無いよう言っておくと、彼女……セレナは間違いなく微笑みの裏でこんな事を考えていた。


(クソッ油断した。単なる異世界転生かと思ってたが、まさか此処は何かしらの創作物を元にした世界なのか? そうじゃなきゃこんな○○○(ピー)系ヤリ○○(ピー)主人公の典型みたいな奴が存在する筈ねえ!)


 改めて彼女の自己紹介をしておこう。彼女の名はセレナ・ユークリッド、前世が男のTS転生者である。

 彼女が自身を転生者であると理解したのは、この世に産まれて一年経過した辺りの時だ。


(どうする、ヤるか? 奴の毒牙にかかる前に()っておくか?)


 なぜ彼女、或いは彼がこうまで焦っているのか。


(冗談じゃねえ! あんな……あんな奴に……)


 TS転生者あるあるのメス堕ちに警戒しているからか? はたまた此処は本当に創作物の世界で、その原作に心当たりがある故の危機感からか?


 否、そうではない。逆にそうであって欲しかったが、残念ながらそうではない。


(嫁を渡してなるものか!!!)


 彼が焦っている理由は、嫁を寝取られてしまうのではと思ったから。それである。


……またまた誤解の無いよう言っておくと、彼が嫁と呼ぶ対象はセレナ・ユークリッド。自分自身である。


「ルークしつこい!」

「グェッ!? エリーゼ、なんで頭を」

「あんたが鬱陶しいのが悪いんでしょ、そんなに心配ならアタシが様子見ておくから。……セレナさんもそれでいい?」

「はい、それでルークさんが安心するなら」(ほらほらほら、俺の嫁ほどじゃないがお前にもこんな可愛らしい幼馴染ツンデレヒロインが居るじゃないか。欲張ってハーレムなんて作るんじゃありませんってか作るな刺されて死ね)


 彼の前世は童貞だった。それもただの童貞じゃない。拗らせに拗らせて、転生して女になったから理想の嫁を自分で演じようと思うぐらいには拗らせまくったとんでもねぇ童貞である。


(チクショウ、嫁には健やかに育って欲しいと思ったから王立学園に入学したのに、まさか入学初日でこんなに問題が起きるなんて……)


 これは、拗らせTS童貞が異世界で理想の嫁を体現しようと奮闘するお話。


(でも俺は諦めない! 絶対に嫁とのラブラブ生活を続けるんだ!)


 ぶっちぎりにイカれた転生者が、異世界に混沌の渦を巻き起こすお話。


(あと嫁をナンパしたあのクズは後でシメる)


 最後に、こんな変態と知り合ってしまった者達へ一言。


 強く生きろ。

後半の内容に頭を痛めた方はブラウザバックする事を推奨します。

以降もこんな感じです。(死んだ目)

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