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理の魔術師は育てる。  作者: アイネ
第一章『邂逅』
2/16

②懐疑




G組の僕らの平凡はこうやって死んでいく。

新進気鋭のアダム君に対して、僕は出会してしまった後悔感が、巻き込んでしまったという懺悔の気持ちが、悪意がきた瞬間から滾ってきた。




「おいおいおいぃぃぃ!!!!!Gのゴミ野郎が、こんなところで何やってんだ!!!!!!あ゙!!!!!」


人を不快にさせる言葉遣い、刺すような侮蔑の言い方、周りのことを何も考えない音量、最恐の憎たらしい顔。


全てが最悪の組み合わせを発したのは、偉そうに踏ん反り返る、俗物集団の真ん中にいる男。着崩した制服は、心すらも乱れていることを表している。


ぞろぞろと歩いてきた男たちは、自己中心的に廊下の真ん中をのさばって、僕らの所へと歩いてきた。



 


「………ギャレン君、ごめんね。不愉快な思いをさせたのなら申し訳なっ……」

と最後の言葉を発する前の刹那、害意のこもった蹴りが僕の顔面に入る。あまりの一瞬にいつもの癖の防御の姿勢が間に合わなかった。


魔力が籠った蹴りの威力は僕の体を数メートル離れている後ろの支柱に向かって、直撃させた。ドン゙ッ!!と強い音が廊下の全ての材質に響く。



 

 

「おいおい、たったこれしきの蹴りでそんなに後ろに下がるなよ。ジーン君はそんなに俺様の蹴りが嬉しいのか?」

害意のある笑顔が伝播する。後ろの有象無象たちも僕を嘲笑するニタリとした顔で、侮辱の視線で。あまりの衝撃と痛さに倒れ込んだ僕でもその様子は分かる。


「こんなのいつもやってることだろぅ?流石に慣れろってぇー。まぁ魔力が少ない出来損ないのG組のジーン君には、簡単な防御術式を展開させることすら難しいか!!!!」


ゴスっ!!!と今度は僕の後頭部を踏んできた。衝撃から脳震盪によってまだ覚束ない状態で、ゴリゴリっと虫を蹂躙するように。


「ほらっ、いつもやってるように言ってごらん。”出来損ないの僕にもっと魔術を浴びせて下さい、練習台になります”ってね」





 


何度も繰り返し僕の後頭部を。煙草の吸い殻を捨てて燃えかすを消すかのような、執念さがその動作から感じられた。悪意の笑い声と相まって、何度も経験している僕でも、耐え難い時間だった。


「あーーーこうアリンコを踏むのも飽きてきちゃったから、これからはアリンコの肉体をもっと変えちゃおっか。どうせアリンコだし、ゴミだし、誰も気にしないだろっ――――――――――――」




 


と更なる不愉快な言葉が言い終わる前に、彼は気付いていたら動いていた。


 悪意に侵される可能性すらあるのに、彼は躊躇なく、確実に男の肩に手を置き、

「そこまでにしておけ、小僧。大した威力じゃ無いくせにみっともないぞ」


と放ったのだ。僕は疑った。彼は言い放ってしまったのだ。



 

 

「………あ゙?誰だテメーは」

「小僧がさっきから馬鹿にしているG組に今日から転校してきたアダムだ。折角ならアダムさんと呼べよ」

「………あ゙‼︎⁉︎」

 と一連の流れが終わるに瞬間に、感じたことの無い魔力が流れ込んできた。



「あ?」

風が切るような音がしたあと、気付くとさっきまで踏み込まれていた僕は、男から離れて、彼と一緒に数メートル離れた場所、僕らがいた廊下の近くにある広場にいる。




 

「あれ………どこ行った‼︎」

近場にはアダム君を見失ったギャレン君は驚きながら見渡して声の聞こえる方に振り返る。


「………確か、ギャレン君だったっけか?君の自身を強いと自己主張する気持ちはある程度は理解出来るが、自分より格下だけをだらだらと虐める魂胆は、それこそ生物的弱者の思想だぞ?」

彼は、いやこの際そんな事を言える彼をアダム君と言い直させてもらう。アダム君はまるで子供をあやすかのように、最大限の侮蔑の言葉を言う。



と気がつくと今度は、傷でひりついていた僕のでこぼこの顔面が、出会ったばかりの頃のような、新鮮な顔になっていた。この場合は、怪我が治っていると言った方がいいか。ギャレン君にやられた身体の具合や制服の汚れなど、まるで”過去に戻った”ような、状態になっていたのだ。




 

「いいか、ギャレン君よ。ほんの少しだけの魔術の優位性と僅かばかりの才能だけで、弱者に対してひけらかすのは、全くもってみっともないぞ。俺の目が腐ってしまう」


怒り心頭だ。ギャレン君の得意術式がまるで自然発露するかのように、魔力が表面上から激っているのが分かる。今にも発せられる高出力の魔力の纏いが、離れている僕でも空気中の緊張感の影響でわかる。


「おいおい、さっきまで虐めていたジーン君はギャレン君の戯言程度ならそんな顔にはなってなかったぞ。たった少しの俺の言葉だけで激情するなんて、存在自体が小物と見えるね」

「こん゙や゙ろ゙!!!!」


「ジーン君はここで見ててね」

そこから彼は瞬間的に僕を安全な場所に移動させ、身軽な身体でギャレン君の動きを余裕で躱していた。何か、その動きはまるで点のようだ。この吹き抜けの広場を悠々自適に点の流れで攻撃を躱すアダム君は、何も焦りも様子もなく、可憐に動く。


対してギャレン君は、常時高出力の魔力で纏った身体を動かしているのだが、何度も手応えなく躱される事に苛つき、


「どうした?そんなもんなのか、ギャレン君は?」


 攻撃される度に余裕の表情で喋るアダム君の反応に戸惑いを見せていた。




 

 

そんなやりとりをずーっとしている。

「なんでだ!!!なんで当たら゙ね゙ぇん゙だ!!」

「そりゃぁ、君が当てる方法を知らないからね〜。知らないからずっと君は馬鹿にされ続ける、ほら見てよ、君の醜態はみーんな見てるよ」

「お゙い゙!!!!食いやがれ!!」




 

数分後、 

「ハァハァハァ…………」

結局一撃も当てる事ができず、ギャレン君は完全に息が切れた。多分相当の魔力量があるギャレン君でもこんな長い時間高出力の魔力攻撃を躱され続けたら、維持すらも出来なくなる。


気付いたら野次馬が増えていた。広場には学年関係なく、この発端を聞きつけた生徒たちでごった返していた。僕らのクラメイトも関わりたくは無いためか野次馬の端の方に、それでも興味本位で何人かは見ている。

 

「おいおいあれはなんだよ」

「あの貴族のギャレンが手も足も出ないって」

「でもあの男も避けてるだけじゃん」

「その避けるが不可能だろうが」


野次馬の会話も増える。その会話は広場でざわざわとある種蒸すような感じで、広がる。当然会話は伝播する。自分たちが使っていた常套句を、ここで自分にやられるとなると、ギャレン君のプライドもバキバキにされる。

それがわかるように、どんどん顔が険しくなる。





 

 

「うーん、たったのこれしきでスタミナ切れになるのか。案外口ほどにも無い程度って事だね」

「はぁはぁはぁ………、てめ゙ーー、絶対許さね゙ぇ!!」

「うんうん、その気概だけは凄いね。それが実力に伴っていれば、ギャレン君は立派な魔術師だよ」



ドサッ………と息が切れたギャレン君は完全に膝を地面に着けた。恐らく直立の状態を保てるほど魔力とスタミナは残ってないんだろう。それでもギャレン君はまだまだ憎悪の視線を保つ。


「その矮小な魔力出力で息が切れるなんて、ギャレン君みたいな貴族は、さぞ実力も乏しいんだろうなぁ」


そう、ギャレン君は塚田一家、上級貴族の生まれ。

貴族が故に差別や格差に対する絶対的な思考がある。




 

 

「そんな君はいずれ、こうなるんだよ」

そんなギャレン君に向けて、アダム君は目を疑う行動にでた。


“ゴギャ゙ン゙ン゙ン゙ン゙ン゙ン゙ッ!!!!!

急に魔力の高まりを感じ、次の瞬間には彼たちのいる地面が瓦礫の残骸のような、ひび割れた状態となった。


アダム君がギャレン君よりも格上の高出力の魔力をもって、地面に拳を減り込ませていた。地震、地鳴り、地響き。野次馬たちがいる地面にも、その振動が伝わってくる。姿勢を保つ事が難しくなる程に。


「おいおいなんだよ、その魔力は!!!お前G組なんだろ!!!??一体なんなんだよ!!!」


「見ての通り、俺なりの君への親切な気持ちだよ。ただただ生まれ持った魔力だけをひけらかしていたら、この地面のように粉々になっちゃうよっていう、忠告さ」


「………てめー!!絶対にころ゙す!!!」

「お、それでも戦いを望むってことか、流石だな!!」




 

 

すると僕を見つめてた。

「ははーん、良いこと思いついた」

悪戯を閃いたように、アダム君は何かの小袋を取り出してギャレン君の近くにチャリンっと落とす。その音は明らかに金属、我々がよく耳にする、馴染みのある硬貨の音がしていた。


「そこには金貨が10枚入ってる。その金貨をギャレン君にあげるよ。その代わり明後日のこの時間に戦おうよ」


 

半月の笑みはここでも発動する。これは嘲笑の不敵さ。


「今度は魔術師らしく正々堂々と戦う。


 れっきとした魔術決闘だ」





 

『魔術決闘』

魔術師同士が互いの膂力誇示のための、または物事を簡潔に決着させるための、武力と魔力の混合力比べ。勇者を輩出した伝統あるこの王国に古くから伝わる解決方法の一つ。


この学院でも、生徒間の揉め事はこのしきたりに合わせて行われる事が多い。魔術師という、力が目に見えて分かる”種族”たちへの憧れのような、文化に近い。


 



 


「あと、その戦いにギャレン君が勝ったら、更にこっちの小袋に入ってる金貨30枚をあげる。わざわざやる必要のない格下と戦いなら、流石にご褒美もないとね」


「なんだと……」


だが、恐らくギャレン君が乗る可能性は少ない。実際さっきまでは魔力制御を取っ払った、完全に高出力魔力抜き出しの攻撃を、ギャレン君自身は一撃も当てられずにいる。


そしてその後に見せた明確な、自分より高出力な魔力攻撃。自分に当たっていたと思うと、身の毛が震え立つ。さっきの偶然の驕りや焦燥感によって勝敗を分けられたものではない。誰もそんな判断はしない。完全なる力の差での結果だった。


それは明らかに、アダム君がギャレン君を十分に倒せる力が確立された状態で遊んでいた、という事実だ。


そんな意味不明な相手の口車には、恐らく乗らないだろう。流石の激情のギャレン君でも、多分自分より格上である相手の裏を読んで冷静さを取り戻す。取り戻す瞬間に、更なる不明な世界が襲う。





「因みに君と戦うのは、そこにいるジーン君だからね」



「「………は?」」


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