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理の魔術師は育てる。  作者: アイネ
第一章『邂逅』
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①邂逅



ある春の日、皆が寝静まった王国で”とある魔導器具”が使用された。




強い魔力によって侵された空気中の魔素が目に見える形で若干歪む。


ピカッと、一瞬の光がけたたましく上空へと伸び、夜空をすり抜けるように星たちの寡黙で懸命な姿の中に消えていった。あまりの速さに音すらも聞こえない。いや、そもそも音すらも発せることを許さない光だったのかもしれない。


 


満天の空に向かって、こう言う。

「ようやく、ここまで来れた。後はお前の力だけだ」


 

城壁に囲まれた吹き抜けの場所に正装な男が、1人夜空を見上げている。その眼は何かを覚悟、又は何かを決心したような、落ち着いた眼差し。





「………呼んだのは、お前だったか。40年ぶりの再会なのになんだその格好は。そんな服着るような人間だったか?」

半月の笑みを浮かべて、正装の男の後ろにはとある”人”が気付けば立っていた。その一瞬さ、まるで時を飛ばして来たかのような、時々刻々と進んでいる世界を駆け抜けたようなその”人”は親しみ深くまた言う。




「俺を呼んだってことは、そういうことか。




で、何からやればいいんだ?」




「育てて欲しい。蔑まれた卵たちを……………」





―――――――――――――――――――――――





▫︎

「というわけで、今日から不意にこのクラスに転校してきたアダムだ。宜しくな」




ここは薄暗い教室。隙間風が靡く簡素で木造な室内には数十名の男女が綺麗に机を並べて座っている。


そこにみんなの注目の的、教壇の上で彼の独り言が放たれた。その独り言を受けて僕含めて全員懐疑的な眼をしている。失礼なのはわかっている、その理由も真意も込みで、分かっているが故に僕らはみんな自身にも嫌気がさしている。





反応のない僕らを見て、彼はまた言う。

「…………なんか、俺悪いことでもしたか?」


「あ、そういうことじゃなくて。あんまりここに来る人は良い理由なわけが無いから。僕らはどうしてもこんな風に動揺して…………、これはなんていうべきなんだろうなぁ。…………同情してしまうんだ」


流石に誰も反応をしないことに居ても立っても居られなくなり、最前列の1番前の真ん中にいる僕は労いの言葉と最大限の配慮のある言い方をした、というか、したつもりだった。でも出てきた言葉はやっぱり、不敬なものだった。




 初対面の相手、しかもこのクラスに入ってきた人に向かって言う言葉ではないことは、やっぱり僕も分かっている。分かっているからこそ、考えた末に出てきてしまったのだ。


「………同情ってのはよく分からねえが、とりあえず俺はこの学院の概要も設備もよく知らなんだ。誰か教えてくれねぇか?」


そうなると出る人は1人しかいない。みんなが心底誰かの顔を思い浮かべている状態でも沈黙はある。

「じゃあ僕が案内役を引き受けるよ」


僕はその分かり切った沈黙と化した空気が居た堪れなくて、彼の手を引っ張ってその場を抜け出した。彼もきっと突然の事で困惑しているだろう。僕が今この状況で出来る最大限の力で彼を引きながら軋む廊下を数分歩く。




 

ここは『アナベル魔術学院』


国内で唯一ある魔術を勉強、訓練出来る場所として存在している。広大な統一感のある白を基調とした、凛としたこの場所には、世界で研究されている魔術に対しての知識や叡智が随所に散りばめられた、夢のような場所だ。この国”シュゲイン王国”にいる16歳になる子供たちが必ず夢を見て憧れる場所でもある。


魔術の勉強だけでなく、将来国を背負う兵士になる選択肢も取れる様に、剣術や武術の勉強も出来る。現役の魔術師と国の軍の少将を務める様な人も講師として、やってくることもある。


とても幅広い学問を学べる所だ。





「ここが図書館だよ。国内の魔術知識が記載されてる本や魔導書、また魔獣関連の本も基本ここに全部ある。僕ら生徒だけここの本を特別に借りる事が出来るんだ」


僕は順々と歩きながら施設説明をしている。幸いこの場所、この土地は無駄に広い。転校生との拙い会話のラリーを気にするような時間なんて生まれないほど、説明出来る事が多い。この時僕は何かを忘れるような気持ちで話していたかもしれない。


隣の彼も親切に聞いてくれる。でも不思議なことに彼は自然体な雰囲気だ。初対面の時って、「初対面です」と顔に書いてある状態でお互い接することの方が多いと経験上思うが、彼にはそんな壁は一切なかった。




「へー、この学院は魔術を訓練出来る場所が何ヶ所もあるのか。そりゃ実践的な勉強も出来るわな」

 



分からないことは素直に聞いて、ぼくの話を一語一句逃さず聞いている。多分、人が良いんだろう。そんな彼を不憫に思いながらも、長々と説明は続く。





「てか、なんで君は案内役を名乗り出てくれたんだ?」

「一応クラス委員長だからね。名ばかりではあるんだけども。あ、僕は橋本ジーンって言うんだ。宜しくね」

「へー、良い名前だな。ジーン君、宜しくな」


僕らは他愛も無い時間を挨拶を終えた。この時の交わした握手は、なんだか不思議な気分だった。彼から出してくれた右手には、僕には僅かしか感じない魔力が彼自身の根まで込められていて、いつでもフルパワーで殴ってきそうな雰囲気がありながら、全く悪意のない手だった。


また暫く歩いたあと、彼は素朴で簡単な質問を言った。

「そういえば、この学院ってこんなに綺麗なのに、なんで俺たちの教室だけあんなに汚いんだ?」

「………それは僕たちが2-G組だからだよ」


 



と、その時。迂闊にも学院内のほぼ全生徒たちが利用ことのある廊下で僕らは立ち止まってしまったことに気付く。そのことに気づいた時には、全く別の、悪意がぞろぞろとやってくるのだった。




「おいおいおいぃぃぃ!!!!!G組のゴミ野郎が、こんなところで何やってんだ!!!!!!あ゙!!!!!」

この作品は、登場人物の殆どを、苗字が漢字となっています。「橋本ジーン」なんて変な名前だと思いますが、それの方が僕が面白いと思ってしまったので。


私Xをやっています。

@aene1919

このXでは作品の裏話、裏設定、魔術解説、質問の回答などを載せる予定なので、ぜひご覧下さい。

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