旧い記憶
実家を後にしてホテルに戻ったその翌日。
良く寝たと思いながらぐーっと伸びて体を起こす。
今日も今日とてやりたい事が1つ。
着替え等準備を済ませ、ホテルの朝食を食べてからとある人物に連絡を取った。
メアドが変わってないといいんだが、と思いつつ返信が来ることを願って部屋で時間を潰していると昼頃にスマホが震えた。
手に取って画面を見ると懐かしい名前が表示されていた。
メールではなく電話で連絡してくる辺り、あいつらしさを感じてくすっとつい笑ってしまう。
あまり感傷に浸っていると、せっかちなあいつのことだから電話を切ってしまうだろうと思い通話を押すと明るい声が聞こえてきた。
『リヒト、久しぶり!』
連絡を取ってきたのがリヒトだと疑わないのも変わらない。
こいつは、テオだった時も
『体が同じなんだから俺はリヒトって呼ぶ!』
と言って聞かなかったっけ。
今の名は吏桜だけど、きっとそう言っても混乱させるし説明は長くなるし結局リヒト呼びになるのが目に見えてるからそのままにさせておこう。
「ああ、久しぶり」
『元気そーだな!どしたよ、急に連絡してくるなんて?』
「実は今地元に帰ってきてるんだ、それで……」
続きを言おうとするとすごい勢いで遮られた。
『帰ってきた!?こっちに!?
それを早く言え、今どこ!?」
「え、○○ホテルだけど……」
『今から行く、待ってろよ!
着いたらまた電話かける!』
「お、おお……」
勢いに押し負けてろくな返事が出来ないうちに切られてしまった。
まあいいか、と思いスマホを置く。
「思い立ったが吉日即行動なの、今でも変わらないんだな……」
呆れたように呟きながらも、自分の口角が少し上がっているのに俺は気付かなかった―