2. 鳳条響の独白
私には彼氏がいる。
中学一年生の花火大会の日に告白されて付き合うことになった。
やっと。やっと京くんと恋人になれたことが嬉しかった。
今まで誰のものでもなかった京くんが今は私のものになっているのだ。
恋人になってからの京くんはより一層カッコよく見えた。とても大事にしてくれているのを目で、匂いで、肌で感じた気がした。
私も大事にするからね。
私の京くんは誰にも渡さない。
それなのに、ある日彼は学校を退学した。
私がその事実を知った時には、もうどこかへ行ってしまっていた。
なんで……?
なんで私を置いて遠くへ行っちゃうの?
私のお父さんでさえも、京くんがどこに行ったのか分からなかった。
退学の手続きが済み終わった頃にはもう周辺にはいなかったのだと言った。
あ………そっか。京くん家は確かお父さんと仲悪いんだっけ。
中学三年生になった夏休み。一日も京くんの顔を忘れたことはない。
ふと、お父さんに呼び出された。
お父さんが理事長を務める学園に京くんが入学するらしいという情報が入ったのだとか。
それを聞いただけで胸が踊った。
京くんのことを諦めようとも忘れようとも思ったことは一度もない。
けれどこんなにも簡単にチャンスがやってくるとは思わなかった。
ただの噂でしかないと皆して口々に言っているが、私にはこれがただの噂では無いことはすぐに分かった。
京くんは頭が良い。それだけじゃない、自分に不利になるようなことは決してしない人だということを私は知っている。
彼もまた、ひと時も私のことを忘れてなんかいなかったのだと確信した。
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目の前にいる京くんは、あの時と全く変わっていなかった。
顔だけ見れば、今の京くんが何を考えているのかまるで分からない。
だけど私は上辺だけじゃない京くんの全てを知っている。
その憎たらしいモノを見るような目の奥には恐怖の感情がある。
怯える京くんもまた、見惚れるほどかっこいい。
私を憎み、潰したいと思っている京くんを前にすると身体の奥がゾクッと震えてくる。
今、私の心は京くんで満ちている。