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堕ちた彼女は俺を許さない  作者: はにかみ
序章
1/9

1. 闇に堕ちた彼女

カクヨム主体で投稿していますので、よろしくお願いします。

高校へ向かうバスに乗ると、同じ制服を着た生徒ですでに席は埋まっていた。


手すりに手を掴まり、もう片方の手で適当にスマホをいじる。


「あれ……どこだろ」


隣で何やらカバンの中身を漁っている女子生徒がいた。


ガサゴソと何かを探しているが中々見つからないようだ。

段々とその表情は焦りに変わっていき、無我夢中で探し続ける。


「あの、どうかしたのか?」


余計なお世話と言われればそれまでだが、本当に困っているのなら見て見ぬふりはできない。


「え!?、あっ、えっと……その、生徒手帳を無くしちゃって……」


それであんなに焦っていたのか。

入学式より前もって自分の元に生徒手帳が学園側から郵送される。


入学式の直前に提示の指示が出ており、それが学園の生徒であるという一番の証拠になる。


確かに生徒手帳がないと入学式に出席することはできない。

しかし、ただ単に紛失しただけなのであればそれほど問題でもない。


「そんなに慌てなくても大丈夫だ。入学式前に紛失した申し出を伝えればいい」


「で、でも……」


「……俺も一緒に行ってあげるから。それで少しは不安も薄れるだろ」


相当テンパってしまっているのを見ると、一人で伝えに行けるだろうかと不安になってくる。


「あ、ありがとう……」


『まもなく、大樽高等学校前』


大樽高校は、公立でありながら寮生活が義務付けられている。

実家に帰ることができるのはお盆と年末年始の時のみで、それ以外は基本許されていない。


そのため、バスに乗っていた生徒は皆同じ新一年生だけということになる。

もちろん俺もだ。


バスを降りると、女子生徒とともに管理センターへと向かう。


「その……ごめんね、わざわざ付き合わせちゃって」


「だから気にするな。ただの人助けと思っててくれ」


他に用があったから、どのみちこっちに来ることにはなっていた。


「あっ。私、美佳。藍沢(あいざわ)美佳(みか)です」


織谷(おりや)(きょう)だ」


管理センターに着き、生徒手帳を紛失したことを話すと、すぐに手続きをしてもらえた。

電話番号や住所の確認で本人確認が済み、ほんの15分で新しい生徒手帳を発行してくれた。


「本当にありがとう。見つからなかった時はどうしようかと思ったよ」


「その時の藍沢の顔は、もう絶望したような表情だったからな。隣でそんな顔をされたら無視なんてできないだろ」


「あっははは……、入学式の前にこんな事になっちゃうなんて、ついてないなぁ」


大事な行事の前には何かしらトラブルがつきものだ。緊張して忘れ物をしたり、失くしてしまうなんてよくあることだろう。


「もうそろそろ入学式が始まるだろ。体育館に行った方がいいんじゃないか?」


「え、織谷くんも一緒に行くでしょ?」


「ちょっと管理センターに用があるのを忘れてた。悪いが、先に行っててくれ」


「あ、そうだったの?分かった、織谷くんも遅れないようにね」


「ああ、急いでいく」


体育館に向かう藍沢が角を曲がってから少しして、俺は管理センターの方向へと再び歩き出した。


管理センターを素通りし、その先の校舎裏へと進んでいく。


バスに乗っている時に送られてきた、送り主不明のメール。

そこに書かれていたのは、今この時間にこの場所に来いというものだった。


もっとも、それが誰によるものかは分かっている。


そのために、わざわざここに入学してきたのだから。


「あっ……()()京くんだぁ」


一年ぶりに背筋が凍てつくような感覚を味わった。


心臓を舐め回されているような、不快な声のはずなのに、どこか安心してしまう自分がいる。


あぁ、こいつは何も変わっていないんだ。


一年という期間があったのにも関わらず俺のことを想い続けていたのだ。


あの頃の鳳条(ほうじょう)(ひびき)だった。



─────────────────────



小学校三年生の夏休み。


「京くん京くん!見て、砂のお城!」


小さな公園の砂場で一生懸命何かを作っている響をぼーっと眺めていた。


「もう俺たち小三だぞ。砂場遊びなんてガキのすることだろ」


「いいのー。それに、京くんも一緒にいてくれてるじゃん!」


「お、俺は……その、お前が迷子になんないように見張ってるだけだ」


俺は響が好きだ。


けれどこの気持ちを伝えて、今の響との関係がもし崩れたらと思うと言い出せない。


響は学校でよくモテる。


中学校に入学した頃、上級生にも告白されているのを見て、響は世間一般から見てもすごく可愛いのだとこの時初めて知った。


響を取られたくない。誰の恋人にもなって欲しくない。


夜空を照らす輝かしい光に映る響の浴衣姿があまりに美しかった。


思い切って、花火大会の日に好きだと伝えた。


その瞬間から、幼馴染から恋人という新しくも深い沼に嵌った。


他の女子との関係を一切絶ってというお願いには、嫉妬から来るものだとわかっていたから自然と嬉しかった。


毎日一緒に登校し、待ち合わせをして一緒に下校する。

響と恋人になってからすること全てが新鮮に思えた。


春休み、俺は響の家に来ていた。

父親が日本屈指の鳳条財閥の会長というだけあって、その家はデカい。


平安初期から続く鳳条家は屋敷がその頃のまま残っており、修復を繰り返して今も尚健在の人が住む寝殿造だ。


立派な庭園の見える、だだっ広い縁側に足を下ろし二人で寛いでいる。


「二年も同じクラスになるといいなー」


寝転がり、家紋が入った天井を見上げながら何気なしにそんなことを口にした。


「京くんは私と同じクラスがいいの……?」


目は見えないが響がこちらを向いているのが分かる。


「そりゃあ一緒になった方が嬉しいに決まってるだろ」


彼女と次も同じクラスになれたら一年間がまた楽しいものになるはずに違いない。

そう思ってのことだった。


「なるよ」


「え?」


「私と京くんは同じクラスになるよ、絶対」


この世に絶対なんかない。ただ、そうだったらいいなとは思った。


春休みが明け、部活に入っていない俺たちは二週間ぶりに登校してきた。


ボードに張り出された新学年のクラス表には、俺と響が同じクラスに割り当てられていた。


響の言った通りだった。


後日、授業が開始した。


「よろしくね、京くん!」


偶然にも、隣の席は響だった。


それから一ヶ月ほどが経ち、強い違和感を感じるようになった。

各授業の担当教師から強い視線を感じるのだ。


授業中に何度も目が合うが、その度に逸らされる。

けれども別に嫌がらせをされているわけでも、避けられているわけでもなかった。


「ここだけの話なんだがな、鳳条家が関わってるって噂だ」


担任の岩井先生に訳を話し、返ってきた言葉に少しの間思考を巡らせた。


なんで響がでてくるんだ。響は無関係だろ。


その一週間後に、あれだけ気さくで人気のあった岩井先生は異動した。


「一緒だね、京くん」


そんなことは気にもとめずに、いつも笑顔を見せてくる響。


「なぁ、何かおかしくないか?」


「え、なにが?」


「先生たちからやけに視線を感じるんだ。岩井先生が異動したこともおかしいし、響なんか知ってるか?」


『鳳条家が関係してる』


岩井先生から言われたこのことは伏せて響に聞いてみる。

何か反応があればそれに少なからず関係しているということになるのか。


「あーそれ?だって岩井先生ったら変なところで勘づくんだから怖いよね。まあ…あの人には秘密にしてたから違和感があったのかもしれないけどさ」


人が変わったように嘲笑いながらそう言い続ける響に恐れを感じた。


いつも俺に対して微笑んでいた可愛らしい笑顔の面影一つなかった。


「やっぱ京くんは気づいちゃうよね〜、京くん頭良いからさ!」


一瞬見せた無邪気な笑顔は俺の好きな響そのものだった。


「お前、本当にあの響か?」


そう聞くしかなかった。


「何言ってるの京くん?私は京くんの彼女の響だよ?」


怖かった。


俺の知らない響を見た途端、今までの思い出は上の空だったのだろうか。

響のあの顔は、新たな一面と呼ぶにはあまりにも残酷で、醜く、儚かった。


俺は響の全てを好きでいられなかった。


逃げるようにして学校を退学し、遠いどこかの学校へと編入した。編入試験にはさほど困らなかった。


彼女から離れたい。ただそれだけだった。



─────────────────────



「京くんも私のことを想ってくれてたんだね」


「当たり前だ。お前のことは一日も忘れたことない」


この先どこまでも追いかけてくるだろう彼女を、俺はここで止めなければいけない。


「ふふっ、嬉しいなぁ……。でもさ京くん、私から()()()ことは、許さないからね……?」


一点の光も通さない深い闇に染った眼で俺を見てくる。

あの目を見るだけで、恐怖が押し寄せてくる。


けれど、俺は二度も逃げるわけにはいかない。


闇に堕ちた彼女がいる限り。

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