・6・戦闘らしきもの
さてどうするべきだろう。手元に武器はなし。目の前には怪獣。確実にこっちを見ている。しかもよだれを垂らして。どう見てもお腹が減っている。周りには障害物が多く、あの巨体で、うまく動けるとは思えない。
そして僕は足が割と早い。つまり逃げるのが一番。
僕は自分の結論に満足し、実行した。障害物と言っても崩壊した建物の壁やらなんやらだから、人間にくらいの大きさなら、楽に躱せる。200メートル位走って、立ち止まった。もうかなり離れたはずだ。そう思って後ろを向く。神に死を。そのぐらい願ってもいいだろう。だって10m位先にいたんだから。どうやら瓦礫に突っ込んで破壊しながら来たらしい。そんなの聞いてない。
「どんだけタフなんだよ・・・」
思わず独り言が漏れた。本当にこの世界は終末を迎えたんだ。実感するのが遅いけど。
ずっと感傷に浸っていてもしょうがないから、瓦礫の裏に避難する。ここで作戦を考えよう、と思った矢先、上からメリメリと、何かがきしむ音が聞こえた。
本能で飛び退いた次の瞬間、僕のいた空間は瓦礫ごと粉砕された。
「そこはワニそのままなの?・・・・」
つまりこの怪獣はワニの完全上位互換ってことだ。最悪だ。とりあえず逃げ回るしかないじゃないか。人間が考えたスキルには色々あって、こういうときに使えるものも、勿論ある。けど、それは基本的に対人、または大きくてもライオンくらいの動物を想定したものだ。建物を壊せるような生き物から逃げる技術なんてない。一体どうしろって言うんだ。
ひとまず怪獣から距離を取って、廃ビルの中に入る。僕が三秒前まで居た空間が次々と噛み砕かれていく。
ビルの端から端へと、どんどん飛び移って、怪獣の攻撃を躱す。いきなり目の前にワニの頭が現れ一瞬早く、僕の前方の空間を噛み砕いた。その頭を足場にして隣のビルに飛び移る。
そう思ってたら、ビルに体当りし始めた。あわてず、瓦礫を飛び石にして道の向かいのビルに飛び移る。このまま追い駆けっこを続ければ、怪獣のスタミナも切れるはず。そう思った矢先、ビルが崩れた。又、視界が真っ白になった。ここ数日で何度目だろう。
生暖かい息が顔に当たって、目が覚める。まだ食べられてないってことは、そんなに時間はたってないらしい。けど、すぐそうなるはずだ。
結局みんなより、5日多く生き残っただけだったな。でもそれでも良い。パブロフと仲直りはできてないし、死ななきゃいけない理由もわからないけど、死者の国には永遠の時間がある。全部やり遂げられるだろう。そう思って目を閉じた。
どのくらい時間が経ったのか分からない。一瞬だったかもしれないし、何年も経ったかもしれない。けれど、まぶたのうらになにか浮かんでいた。文字だ。数式みたいに見える。
E=mp×vmg
そう書かれていた。認識するとすぐそれは消えて、又、別の文字が出てきた。
w.........d.........w.........?
なんだ?何を望むか・・って・・。パブロフと仲直りしてから死にたい。それ以外特にないかな・・・。
i...g...t
一体何?これ・・。わかったつ、て・・・・。もういいから安らかに死なせてよ・・。
E=mp×v(a)mg・・・・r...y...h..s
手を上げろ?もういいって・・・。でもいつまで経っても消えない。仕方ないから手を上げた。
「うわっ!!」
何か、とても野暮ったい叫び声が出た。流石に目をずっと閉じてた人の手から光を出すのは、反則だと思う。
ダメージから回復して、目を開けると、またも野暮ったく叫ばされた。
怪獣が死んでる。顔に大穴を開けて