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・5・怪異


コンパスと地図で方向をだいたい見定め、あるき始める。ポーツマスまでは100キロくらいだから、4日もあればつくだろう。別にポーツマスについてもどこか行くあてがあるわけじゃない。行く価値も多分ない。けど、一応ポーツマスには昔の家がまだあるはずだし、ロンドンには世界人口の半分を殺した男(自称)がうろついてる。ポーツマスの方がまたまマシだと思う。




 街のあちこちから煙が上がってる。道は白に近い灰色の粉で覆われてる。このあたりから人間がが居なくなったのは5日くらい前のはずなのに、もう何年も前のことみたいだ。




聞こえそうで聞こえない音がずっと響いている。聞こえていると言うか、脳に直接響いてる。こういう音は苦手だったはずなんだけど。能を損傷したからかなのかな?よく分からない。




鳥の鳴き声も聞こえない。野良犬や野良猫の一匹位いるかも知れないと思ったけれど、三十分ほど歩いても、一匹も見当たらない。虫だけは何匹か見かけた。けどやっぱりネズミの一匹もいない。オオトカゲみたいな影なら見えたから、僕が怖くて隠れてるのかな?そんなわけないか。




 


 そのまま暫く歩くと、変な跡があった。ワニが尻尾を引きずったようにも見えるけれど、尻尾の太さが2メートルもあるワニがいるわけない。そもそもイングランドにワニはいない。動物園のワニも5年前くらいからもう居ない。




「怪獣?そんなわけ無いか。」




こんなときパブロフがいればまだマシなのに。




驚いた。パブロフと会話できるようになったのはここ数日のことなのに。僕の中ではもう当たり前のことらしい。思わず吹き出しそうになった。吹き出さなかったけど。そりゃそうだ。目の前に怪獣が出てきて笑いが漏れる人間なんて居ないだろう。そう、怪獣。僕の目の前にいるのはまさにそれだった。




 


どうしたら良いんだろう。棘で覆われた12メートルはありそうな尻尾。長さ五センチはある牙が200本くらい生えてるワニみたいな顎。胴回りが8メートルはありそうな、緑色の鱗で覆わた胴体はところどころに苔が生えている。やっぱり怪獣だ。30m超えのワニの怪獣。近代兵器を持たない僕ではどうあがいてもかなわない相手。それが目の前にいる。見つけてすぐ物陰に隠れたので見つかっては居ない。はず。食料は、無理に調達する必要がないくらいには揃っている。この場合の最適解は唯一つ。逃げることだ。そして僕はそれを実行した。そして失敗した。足元で砂利が絶望の音楽を奏でた。ワニはそんなに耳は良くないはず。唯一残った希望にすがって僕が怪獣を見るのと、その頭がこちらを向くのがほぼ同時だった。

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