・4・出発
暫くぼうっとしていた。
二時間か、三時間か、わからないけれど多分そのぐらい経ってる。パブロフに打たれた頬がまだ痛い。
パブロフの親は僕の母さんのリスだったし、生まれた日も同じで、パブロフのほうが二時間ぐらい早かった。パブロフの母リスはお産で死んじゃったから、僕の母さんが育てた。僕達はおたがいに最初の友達だ。なのに、こんな喧嘩別れみたいなことになってしまった。何でこんな事になったんだ?僕は何も悪いことはしてないのに。わからない。わからない。本当にわからない。
ずっとは半開きになっていた口が乾いてきた。もう丸一日はトイレにも行っていないはずなのに、何故か尿意は湧き上がってこなかった。
そのまま2日ぐらい経った。
流石に動かなきゃいけない。家を出ることにしよう。バックパックにズボンとパンツ、上着、シャツを数枚適当に突っ込む。最後に、なんとなく、ただの自己満足にすぎないけどベッドを整えて、部屋を出る。階段を下ってキッチンにはいる。缶詰とボトルの飲料水を一週間分くらい入れる。
「あとは・・ああ、歯ブラシだ。」
2日ぶりに出す声は思ったより低かった。
バスルームに行って歯ブラシをカバンに入れる。ふと思い立って、包帯を取って鏡を見た。見るんじゃなかったとあとから後悔したけど、意味がない。
「これは・・ひどい・・・」
前頭部が吹き飛んで、頭蓋骨が露出していた。部分的に骨も陥没している。
「これだと、前頭葉まで行ってるかもしれないな・・・・」
ていうことは、僕が一昨日言っていたことはこれが原因か。能が破損すればそりゃ変なことを言い始めるに決まってる。パブロフも怒るわけだよね。頭を叩こうとして、直前で踏みとどまる。危ない危ない。いま頭を叩いたらいよいよ死ぬことになる。
とりあえず父さんが使ってたプロテクターをつけよう。それと、包帯と軟膏、痛み止めを追加でバックパックに入れる。
「こんなもんかな。あと一応聖書と、黒の聖書、大きいフードの服とか、かな」
それらを持って家を出る。空は相変わらずの、真っ白な曇り空だ。
しっかり傷の状態を確認しなかったから、パブロフは遠くに行ってしまった。
百人に聞いたら百人が僕を大馬鹿だと言うんだろう。僕はどうしようもない、馬鹿だ。