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09 <聖女>が残したもの

ミリーが拘束されてから三日が経過した。

その間にエヴァの手でミリーの聴取は続いていた。

しかし、ミリーが体調を崩したためそれ以上は進んではいない。

王都では<聖女>に関する醜聞は大々的に報じられた。

結果としてジャンカルロの評判が悪化の一途を辿っていた。

長子が<聖女>と呼ばれる神官を殺害したのだ。

これ以上の理由はなかった。

人々が悪鬼のごとく噂を立てるもので神祇局もその対応に追われている。


法務局の一室ではビョルンはこれまでの経緯を見直していた。

机に広げられた証拠や証言の書類の数々を見ながら、彼は冷えた紅茶で喉を潤している。

ビョルンはこれまで見てきた中でも珍しい印象を持っている。

被害者と加害者が自分を何かしらの真実へ導こうとしている。

しかしその真実がもう少しで見えるのに手が届かない。

ビョルンの脳裏には


・サリーは<聖女>の<祈り>の力を持っていたのか

・サリーはヒ素中毒者であったか。また、ジャンカルロは彼女が中毒者だと知っていたか。


があり、これらを鑑みて


・アリソンがジャンカルロとサリーの娘であり、ミリーの姉妹である。


と結論づけることができる。

だが、ミリーは血の繋がる者を殺害するだろうか。

ミリーの評判はマウレタニアや学園内では悪評は存在しない。

むしろアリソンと仲が良かったと言う。

では、二人は何を知ってほしいのか。

それはほぼ推測はできているのだが、まだ確証を得ていなかった。

「ビョルン様、アトルシャン長官がお呼びです」

部屋に入ってきたエヴァに声をかけられたビョルンは彼女と共に長官室へ向かう。

長官室に入るとアトルシャンがビョルンに書類を渡す。

「君の思った通りだった」

一度前置きを入れてからアトルシャンが話を続ける。

「サリー氏には<祈り>の力があった」

「やはりそうでしたか」

「あと、彼女は頭痛持ちだった。これは彼女の同僚たちが覚えていた。治癒院の診療記録にも保管されていた」

「そこには何が書かれていましたか?」

「ヒ素に関しては書かれていない。だが、薬の処方箋には劇薬の名前があった。それはヒ素に近いものだった」

「それがヒ素系のものだとしてもおかしくはありませんね」

劇物は解毒剤や抗炎症剤として配合に使われることがあった。

今では劇薬を使うことは人体に大きな影響を与えるのではと疑問を呈す人々がおり、最近では劇薬を使わない処方が多くなってきている。

「サリー氏はジャンカルロ氏と交際を始めてから、<祈り>の力を隠すことなく使い出したそうだ。しかし、彼女が妊娠してしまい、<祈り>の力を使うことを拒んだため、ジャンカルロ氏と別れたそうだ」

「その後は、ジャンカルロ氏がミリー出産後に強引に彼女を引き取ったと言う訳ですね」

「その通りだ。ジャンカルロ氏は神官になった当時から<聖女>の存在を信じており、論文でも<聖女>の存在があると発表をしていた。その上、<祈り>の力を持つサリーと出会い御仁は狂われた。それが当時の人々の印象だったよ」

「人と言うのは自分が望むものが目の前に現れればより妄信的、狂信的な行動を起こします」

「それで君はジャンカルロ氏がサリー氏を殺したと考えているのかい?」

アトルシャンもビョルンの調査を鑑みてそのように推測したのだろう。

「はい。これで大半の謎は解けました。あとは一つだけ解かないといけない謎があります」

「それはあれかね?」

ビョルンはその問い掛けに頷くのみであった。


昼になりビョルンはエヴァと共に昼食を取るためカフェへ足を運んだ。

いつものように昼食用のランチを頼んで空腹を満たしていた。

そこにジュリアンもカフェで昼食を取るためカフェに訪れていた。

ビョルンはジュリアンを同席させる。

ジュリアンはエヴァの想いを知っているので一度お断りをしたのだが、ビョルンに促されてて同席した。

「そちらは大丈夫ですか?」

「あまり良くはありませんね。神官が同じ神官を殺害したのですから・・・」

「この話は止めませんか?食事中ですし」

エヴァが空気を読んで話を変える。

「ジュリアン殿は神官になる前に法務官に就かれていたのですよね?」

「そうです。兄が亡くなってしまい跡継ぎが私しかいなくなってしまったものですから」

そう言うとジュリアンは首元にかけている神官の剣を外す。

「これは私の家に伝えられている神官の剣です」

神官の剣の中央にはトランティニャンの紋章が刻まれている。

「神官の家柄は各家にある神官の剣を代々引き継いでいます。私の場合も兄から引き継いだこの神官の剣を受け継ぎました」

ジュリアンは神官の剣の鞘部分に手をかける。

鞘の部分が蓋になっており、そこを開くとジュリアンの両親の名前が刻まれている。

「その部分が開くのですね」

「はい」

ジュリアンが微笑みながら頷いた。

そのような中でビョルンはジュリアンの神官の剣を右手で触る。

「ビョルン様、どうしましたか?」

ジュリアンが不可解な行動を起こしたビョルンに尋ねる。

「ジュリアン殿、神官の家柄は代々、神官の剣を受け継ぐのですよね?」

「そうですが・・・」

「もし、あなたが自死を選んだ場合も家に戻すのですか?」

「ビョルン様、私は神官です。そんなことはしません」

「例えです。もし、ジュリアン殿が自死をしなければならなくなった場合、この神官の剣はご実家に戻すのでしょうか?」

ビョルンの質問にジュリアンは戸惑いながらもこう応える。

「・・・もし・・・私が自死を望むなら実家に戻すと思います」

「他の神官も同じ気持ちになりますか?」

「そうだと思います」

ビョルンが立ち上がる。

「ど、どうしました?」

エヴァがビョルンの唐突な行動に驚く。

「エヴァ、ジュリアン殿、一緒に来て下さい!」

そう話すとビョルンは走り出す。

「ビョルン様!!」

エヴァもビョルンもすぐにビョルンの後を追う。


ビョルンが足と止める。

続けざまにエヴァたちが追いつく。

「ビョルン様・・・どうしたのですか・・・」

エヴァが息を切らしながら訪ねる。

「・・・ここです」

ビョルンがその場所に視線を向ける。

「・・・救貧院」

ジュリアンがビョルンの向ける先に気付くとビョルンを見る。

「この中に私が探すものがあります。それが見つければ今回の事件の全容が明らかになるでしょう」


ビョルンたちが救貧院の一角にある礼拝堂を調べる。

「ありました!」

エヴァが声を上げる。

ビョルンとジュリアンはエヴァのいる祭壇に向かうとその上に神官の剣が置かれていた。

「これがアリソン嬢が持っていた神官の剣でしょうか?」

「もしそうなら、彼女は・・・」

もしアリソンのものなら彼女は自死を選んだ可能性が出てくる。

「中をみましょう」

ビョルンは鞘の部分にある蓋を開ける。

そこには<サリー>の名前があった。

「アリソン嬢の神官の剣でしたか・・・

ジュリアンとしてはアリソンが神官でありながら自死を選んだ可能性が高くなったことに憂いている。

「裏の蓋も見ましょう」

続けて神官の剣を覆すと、今度は反対側にあった鞘の部分にある蓋を開ける。

誰もがそこの刻まれた名前に見てビョルンの推測が当たっていたと理解する。

「・・・これがアリソン嬢が抱えていた事実だったのですね」

ジュリアンが小さく呟く。

その意味の大きさにジュリアン自身、驚きよりも悲しみが心の中を包んでゆくのを感じた。

ビョルンはアリソンの神官の剣をしっかりと握り締めると話す。


「これですべては揃いました。エヴァ、明日の昼にミリー嬢の審問を行います。関係者を集めて下さい」

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