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08 <聖女>に手をかけた者

ミリー・アルミリアートが自らアリソン・パレンティ殺害を名乗り出たことで、法務局や近衛騎士団はもちろんのことすべての神官をまとめる神祇局は恐慌に陥っていた。

特にミリーの父親であるジャンカルロは思いがけぬ事態に直面したためか精神的に混乱状態になっており、すぐに法務局に乗り込んで娘に会わせるよう要求した。

しかし容疑者になったミリーは拘束されており、そのような要求を受け入れられるものではなかった。

法務局の職員がジャンカルロの要求の受け入れが厳しいと伝えると彼は今度は職員に掴み掛り、応援に駆け付けた騎士たちに一時拘束される事態まで起こってしまった。

王都では<聖女>を殺したのが同じ神官であったと言う話がすぐに貴族階級や騎士階級だけでなく市井の者たちの元まで伝染病のように波及していた。

もはやどうにもならない状況の中でビョルンはエヴァと共にミリーを聴取する。

「何故、アリソン嬢を殺害したのですか?」

「・・・嫉妬したんです」

ミリーは淡泊に応える。

「アリソンが<聖女>と呼ばれるのが許せなかった」

「しかしあなたも<聖女>の候補になっているではありませんか」

「私には・・・<聖女>の力はありません」

ミリーは自らの立場を否定する。

アリソン殺害の動機としても理に適っている。

しかしそれだけの理由かはビョルンは疑問に思っていた。

「では、あなたはどうやってアリソン嬢を殺害したのですか?」

ビョルンはまず殺害方法を確認しようとする。

「ヒ素を飲ませました」

「前にも話をしましたがアリソン嬢はヒ素中毒者です。薬物の常用者に分量を間違えずに服用させるにはそれなりの手段が必要かと思います。何よりヒ素を入手するには尋常ではない手段が必要です」

「・・・アリソンにヒ素を渡していたのは私なのです」

「それは彼女に頼まれてですか?」

その問い掛けにミリーは頷く。

「つまりあなたの立場であれば彼女にヒ素の分量を調整できると言うことですか?」

「はい」

ミリーは素直に認める。

しかし、一般の神官がヒ素を入手する方法はそう簡単ではない。

実際、近衛騎士団の方でもヒ素の入手先は調べてもらったが、その痕跡は見当たらなかった。

「ヒ素はどこで入手しましたか?」

「家にある物を使いました」

「それはアルミリアート家にあるものですか?」

「はい。農薬生成の際に使用するものを使いました」

「しかし、ヒ素は猛毒です。服用すると即効性が強いものですよ。アリソン嬢は気付いて良いと思いますが?」

「彼女は<聖女>の<祈り>を使う際に体に異常をきたすと聞いておりました」

「異常とは何ですか?」

「頭痛が生じると聞いております」

「その解消方法としてヒ素が必要だったと言う訳ですね」

「はい。ヒ素と頭痛を抑える薬を混ぜると痛みが和らぐと話していました」

「それであなたはアリソン嬢に頼まれてヒ素を渡していたと」

「倫理に反することだと理解していました。ですが、彼女が王都に呼ばれて王グスタフや貴族院に謁見すると聞いた私は自分の才能のなさに絶望したのです。そして・・・アリソンが羨ましかったのです。私には<聖女>の才能がないのは気付いておりました。ですが父は私には<聖女>の力があると信じており、彼女に続けとばかりに圧力を受けたのが耐えられなくなってしまいました」

「それでアリソン嬢に死亡量に達するヒ素を飲ませたのですね?」

「・・・申し訳ございません」

ミリーは只々俯くのみであった。


ミリーはそのまま近衛騎士団の屯所へ移送された。

彼女は貴族用の牢へ入れられ、近くにはミリーが自死しないように女性騎士が交代で監視することになった。

「彼女は嘘をついていますね」

ビョルンはミリーの乗る移送用の馬車を見ながら話した。

「私もそう思います」

エヴァも同意する。

「アリソン嬢殺害の動機としては問題ありません。しかしミリー嬢がヒ素を渡すとするなら彼女はどうやって、致死量に達するヒ素を飲ませたと言うのでしょうか?」

アリソンが頭痛を抑える薬を自分しか作れないと考えると、ミリーが調合を知ることは難しいはずであった。

この辺りが偽証の部分と二人は見ていた。

「現場の様子を見ればアリソン嬢が自ら服毒しなければ厳しいでしょう」

「もし二人が会うとすれば、モニエ嬢が外に出た宿屋の時だけになります」

「そこにアリソン嬢とミリー嬢が会ったとすればこの事件は別の視点で見ることができます」

おそらくミリーはアリソンにヒ素を渡した。

ミリーがアリソンに嫉妬すると言うのなら、何故宿屋までヒ素を渡しに行ったのか?

犯人と疑われる危険を冒す必要などミリーにはないはずであった。

「何よりアリソンの胸元には神官の剣が見当たりませんでした」

「そうなると宿屋でアリソン嬢はミリー嬢に神官の剣を渡したと考えて良いかと思います」

「しかし彼女は持っていなかった。どこに置いたのか・・・」


しばらくしてパウロがアランとレナートを連れて法務局を訪れた。

ビョルンたちはアランたちよりサリーの助産師の家を探し出したと報告を受ける。

すでに助産師は亡くなっていたが、息子が助産師が記録していた出産記録を保存しておりアランたちはそれを証拠として彼より借りてきた。

出産記録にはミリーの名前があり、彼女はやはりジャンカルロとサリーの娘であった。

「この辺りはジャンカルロ親子は秘密にしていなかったです」

「もう一人の子供ですが・・・名前はありませんね。サリー神官の名のみですね」

「通常考えれば、サリー氏とジャンカルロ氏の子供だと見るべきです。しかし・・・そうだとしても父親の名前だけでなく、子供の名前まで隠す必要がありますかね?」

ビョルンは出産記録を置くと、サリーの死亡記録と救貧院の記録を広げる。

「ところで、ミリー嬢はアリソン嬢が亡くなった日に王都にいましたか?」

「ああ。ミリーは王都に宿泊していたのを確認できた」

パウロが宿泊記録を見せる。

そこには確かにミリーの名前が記入されていた。

「宿の従業員もミリー嬢の事をはっきりと覚えていた。アリソン嬢が宿屋で泣いた頃、ミリーは外に出ていたのも確認できている」

「・・・やはりアリソン嬢もミリー嬢もあえて今回の事件を起こしたとしか思えませんね」

「それは俺も思った」

この場にいる誰もがアリソンとミリーの行動があまりにも分かりやすいと言う疑問を呈していた。

もし二人があえて今回の事件を起こしたとするならば何が目的なのだろうか。

「やはり・・・サリー氏の事件しか解決の糸口がないかもしれません」

ビョルンの言葉にその場にいた皆が改めて資料を見直す。

「サリー神官は出産後にすぐに子供を里子に出していますね」

「しかし、その資料は見当たらない」

「ジャンカルロ氏から子供を隠したかったのでしょうか?」

「出産後に救貧院に孤児が来ておりますね」

「赤子か・・・」

レナートが呟く。

「どうしました?」

「ビョルン様、サリー神官は里子に出していないと考えることはできませんか?」

「その理由は?」

「サリー神官は自分の子供を里子に出したと周囲に話している中で、捨て子を救貧院が預かることになっています。これはわずか七日後のことです。あまりにも出来すぎています。しかも、捨て子の記録のみで自分の子供の戸籍がありません。この捨て子がもしサリー神官の子供と考えるなら、彼女は救貧院で自分の子供を育てることが出来る上、ジャンカルロ氏の目を誤魔化すことを考えていたと推測できるのではないですか?」

「君はアリソン嬢がサリー神官の娘だと言いたいのですね?」

レナートは頷く。

「もし、その考えを想定するならジャンカルロ氏がサリー神官を殺害する動機になり得ます」

「どうしてですか?」

アランが問う。

「私が思うにサリー神官は<聖女>の<祈り>の力を持っていたのではと考えています。恋人であったジャンカルロ氏は知っていて当然です。この辺りは先日、私より願い出ており、アトルシャン長官が前長官含め神祇局の関係者に聞き取りをして頂いています。数日中にはわかるでしょう」

「・・・サリー神官もヒ素中毒者の可能性がありますね」

それはサリー神官を力を受け継ぐだけでなく、その力の代償として苦しみを与えられた因子とすればアリソンはサリーの事もになる。

「そこまでして<聖女>と言うのは必要なのですか・・・」

アランの言葉に皆が悲しみに包まれる。

「これはあくまで推測の範囲です。まだ確定ではありません。それまでは地道に調査を続けましょう」

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