07 <聖女>を盲信する者
ジャンカルロ・アルミリアートと長子であるミリー・アルミリアートが王都が到着したのは予定よりも2日遅れた9日後のことであった。
行程が2日遅れたのは天候悪化による交通状況の悪化のためであった。
その間、ビョルンはアリソンの亡き後に体調を崩していたジーノが話せるまでに回復したとジュリアンから聞いたので、すぐに彼の病室へ足を運んだ。
「こんな時に倒れてしまい申し訳ありません」
「いえ。お気持ちはお察しします。その後の体調はどうですか?」
「落ち込んでばかりではいられません。来週には現場に復帰します」
「無理はしないで下さい。自分の体調は自分でしかわからないものですから」
ビョルンの気遣いにジーノは感謝する。
その後、ビョルンはアリソン死亡に関する状況をすべて説明した。
「私たちはアリソン嬢の出生が事件の鍵になると考えています」
その話を聞いたジーノ何かを話そうとするが動きが止まる。
「ジーノ殿?」
「・・・アリソン嬢は前より救貧院に行きたがっていました。その理由ですが・・・」
「どうしましたか?」
「生まれ育った場所を訪れる理由ではないのです」
「それはどういうことでしょうか?」
「サリー神官のお墓参りと聞いておりますが、別の理由があるように思えました」
「あなたがそう思う訳は何ですか?」
「サリー神官が亡くなった日、アリソン嬢の隣に神官の剣が置かれていたのをご存じですか?」
「いえ・・・」
ビョルンはその話を聞くのは初めてであった。
「それはアリソン嬢が語ったのですか?」
「はい。それはサリー神官のものですか?」
「アリソン嬢から聞いております」
「そうなると・・・」
アリソンの遺体の側にはサリーの神官の剣はなかった。
「犯人が持ち去った可能性がありますね」
「おそらくは・・・」
ジーノはその後もアリソンの話を続けたが新しい情報を得ることはできなかった。
ジャンカルロ親子が到着後、彼らは謁見準備のため神祇局へ滞在した。
ビョルンはジュリアンより夕方に少しの間だけジャンカルロ親子の時間が取れたことを伝えられた。
夕方になり、ビョルンは神祇局の応接室でジャンカルロ親子と面会した。
初めて会うジャンカルロ親子であったが、父親の印象はあまり良くなかった。
長年、法務官として様々な人々と会ってきたビョルンであったが、ジャンカルロを見るとその両目は紅く充血しており頬は痩けていた。
おそらく普段よりあまり眠ることができずにいるのだろう。
一方でミリーは父親と違い肌艶は良く健康面に不安が見られなかった。
「お疲れの中、申し訳ございません」
ビョルンは礼をとるとジャンカルロが話し出す。
「<聖女>殿が殺害されたと言うのは誠ですか?」
その口調は寝不足のためか通常の人間よりの早口であった。
「我々はそのように考えております」
「では、その容疑者は誰ですか?」
「それがまたわかっておりません」
「それで私たちを疑っているのですか?」
ジャンカルロが苦笑する。
「我々は関係者全員に話を聞いております。その結果を鑑みて犯人を捜しております。今回もアリソン嬢を知るあなた方に話を聞くのは当然のことです」
ビョルンに制しられジャンカルロが舌打ちをする。
「それでアリソン嬢の何を聞きたいのですかな?」
「まず一つはアリソン嬢を<聖女>として見初められたときっかけを教えて下さい」
「私が西属州の第二都市マウレタニアの神祇局の長官であるのは知っていますね」
「もちろんです」
「7年前に私は王都の救貧院に一人の少女が<祈り>で病人を治癒したと噂を耳にしました。私はその話を聞き、救貧院に赴きました。そこでその少女がアリソン嬢であると知りました」
「実際はどうだったのですか?」
「私の目の前で病人を治癒しました」
ジャンカルロが恍惚な表情を浮かべる。
「私は神官になる前より<聖女>は存在すると信じておりました。それが目の前で証明されたのです。私は神に感謝したのは言うまでもありません」
「それでアリソン嬢をマウレタニアの神職学校に入学させたのですね?」
「当然ではありませんか。<聖女>とはいえ、神官でもないアリソン嬢に市井の人々が<聖女>だと認めるはずもないでしょう?」
「つまりそれなりの地位が必要だったと」
「その言い方はいかがなものでしょう」
ジャンカルロがビョルンを睨みつける。
「では、次の質問です」
ビョルンは彼の敵意を無視し話を続ける。
「あなたとサリー神官の関係です」
「それでしたら私は大丈夫です」
ミリーが笑う。
「私は父とサリー神官の間に生まれた娘です」
すでにジャンカルロ親子にはサリーの件は秘密ではなかった。
「では、サリー神官が亡くなった日にあなたは王都に滞在していましたね。それは何故ですか?」
「それを聞いてどうするのかね?」
ジャンカルロが不満を漏らす。
「サリー神官は何者かに殺害された可能性が出てきております」
「ほう、私がその件に関わっていると?」
「関わっているかどうかは法務官である私が判断します。サリー神官とお会いしましたか?」
「・・・会った」
「それはどうしてですか?」
「ミリーの親権に関してだ。サリーがミリーの親権を求めてきたのでその話をするために彼女と会った」
「それがいつですか?」
「記憶にない。だが、私はサリーの殺害に関わっていない。そもそもサリーが殺害された理由は何だね?」
「神官の剣がなかった。これで十分では?」
ビョルンの返しにジャンカルロが初めて動揺する。
ジャンカルロが知らなかった事実のようであった。
「・・・それなら確かに殺害されたと思うのは仕方あるまい」
ジャンカルロが納得する。
「ところでミリー殿はアリソン嬢を知っていますか?」
「もちろんです。同じ神職学校の同期ですので」
「あなたもアリソン嬢の<祈り>を目撃しましたか?」
「はい。私のこの目で見ました。あれは確かに奇跡でした」
ミリーは父親と違い冷淡に応える。
「では、アリソン嬢がヒ素中毒者だったのはご存じですか?」
ビョルンは秘密の一つを彼らに投げかける。
それは二人の反応を見るためだった。
「なっ!?」
先に反応したのはジャンカルロであった。
それは初耳であったと思われる反応であった。
だが、ミリーは両手を口元に当てて驚くのみであった。
その上でビョルンから視線を外そうとしない。
・・・ミリーはアリソンのヒ素中毒者を知っていた?
ビョルンはミリーの態度にそのような印象を覚えた。
「・・・彼女もか・・・」
ジャンカルロの呟きが聞こえる。
・・・彼女も?
その違和感をビョルンは見逃さない。
ただ、ここではジャンカルロに問わないことにした。
ここではあくまで聞き取りのみだと割り切っていた。
「サリー神官とアリソン嬢の死に関係があるのか?」
ジャンカルロが問う。
「可能性は高いかと。あとはアリソン嬢の両親が戸籍にないのも我々は調べております」
「アリソン嬢は孤児だと思うのだか?」
「しかし戸籍を見るとあまりにも不自然なのです」
「孤児ならば両親の名前がないのは当然ではないか」
「ですが、アリソン嬢の後見人はサリー神官と言うのも注目すべきところだと私たちは考えております」
「サリーはアリソン嬢のことをあまり話さなかったのでそこまで考えていなかった・・・」
ジャンカルロの言葉がその場を取り繕っている印象しかない。
「お話はこれで終了となります。今後もお聞きすることがあると思います」
「私たちは王グスタフと貴族院との謁見後にマウレタニア戻るまでは対応しましょう」
こうしてビョルンによるジャンカルロ親子の聞き取りが終わった。
ビョルンはほぼジャンカルロが今回の事件の中心人物であると確信した。
ただ、ミリーの存在が気になっていた。
ビョルンがアリソンのヒ素中毒者の件を話した時の反応があまりに薄かった。
何かミリーが話すきかっけとなる要因が欲しい。
それがあればミリーは秘め事を話すかもしれない。
その考えの中で事件が進展する。
翌日、エヴァがビョルンに駆け寄る。
「ビョルン様、大変です!」
「どうしましたか?」
エヴァが一息入れると大声で叫ぶ。
「ミリー・アルミリアートがアリソン嬢を殺害したと自首してきました!!」




