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03 <聖女>を失った者たち

神祇局はビョルンの予想通り混乱をきたしていた。

アリソンが亡くなっただけではない。

彼女は何者かに殺害された可能性が出てきたのだ。

神官の誰もが頭の中の思考が正常ではなくその場の状況が把握できないほどに取り乱しており、中には理性がなくなった者さえいた。

その中に法務官であるビョルンたちが現れると彼らは一様に怪訝な視線を向けた。

その態度を見るだけで神官たちは彼らの中に怪しい者がいたのではないかと言う不安や苛立ちが各自に浮かんでいる。

これもビョルンには想定内のことであった。


・・・この状況になると動きはあるか。


不審な者は近衛騎士団ではなく法務官が来ることを予想もしないはずだろう。

すでに神祇局の周囲には変装した騎士たちが待機している。

むしろすぐにでも不審な者が動いてもらった方がありがたいところだ。

「ビョルン様、こちらへ」

ジュリアンが神祇局の局長室へ案内する。

中に入ると神官長であるアブデラティフ・ゴンドリーがすでに待機していた。

「お忙しいところ恐縮です」

アブデラティフが礼をする。

「いえ、神官長殿も今回の件でご心労お察しします」

「私も今回は対処に苦慮しております」

「はい。ですので今回は近衛騎士団よりの依頼で私が担当することになりました」

「・・・そうなりますと・・・我が局に事件の関係者がいるのでしょうか?」

神官長も法務官が出てくることに不安しかないようであった。

「はい。しかし私としては神官長殿やジュリアン殿、ジーノ殿の立場を考えております。なるべく事を荒立てるつもりはありません」

「そこまで考えておいでなのですね」

「はい」

ビョルンの意図を知りアブデラティフは安心する。

「それで私は神官長に聞きたいことがあります。本来ならジーノ殿に聞きたいのですが倒れられたと聞いておりますので」

「私もジーノがあそこまで衝撃を受けるとは思いもしませんでした」

そうなるとジーノはアリソンの秘密の一片を知っているかもしれないとビョルンは思う。

「神官長殿、今回はアリソン殿がなぜ王都に呼ばれたのか私は知りたいのです」

ビョルンが尋ねると神官長はアリソンの王都召喚された経緯を話し出す。

「アリソン殿が西属州の第二都市マウレタニア周辺で<聖女>と呼ばれていたのはご存じですね?」

「はい」

「彼女が<祈り>を捧げると患者が治癒されると噂されるようになったのは二年前からなのです」

「二年前ですか?」

エヴァが確認する。

「そうです。最初は<祈り>だけで治癒されるなど誰も信じておりませんでした。神に仕える身である我々神官としては<祈り>で患者が治癒されるのは神の信仰心が認められたものだと喜ばしい限りですが、我々としては昔とは違い医学を認めておりますので彼女を大きく評価することはできずにおりました」

「確かに現在では医学の進歩は進んでおります。しかしながら・・・患者の心を癒すには<祈り>は必要な場合もあると思います」

「我々としてはもちろんその辺りは考慮しております。ですが今年に入り動きがございました」

「動きとは?」

「ジャンカルロ・アルミリアート殿をご存じですか?」

「いえ」

「この方はマウレタニアの神祇局長を務めております」

「ジーノ殿の上司にあたる方ですね?」

「はい。そのジャンカルロ殿がアリソン殿のことを大々的に<聖女>と市井の人々に広く伝え出したのです」

「不思議ですね。どうして急にそんなことを?」

「私にもわかりません。ただ、アリソン嬢に対してジーノ以上にジャンカルロ殿は依存・・・献身が強かったと思います」

「それでジャンカルロ殿はアリソン殿を王グスタフに謁見させようと動いた訳ですね」

「私としては<聖女>と呼ばれる以前にアリソン嬢の<祈り>を見届けたいと考えておりました。これは神官長としての役目だと思っておりました」

「なるほど」

ビョルンはその言葉に納得する。

アブデラティフはアリソンの<祈り>を鑑みて本当に<祈り>を効果があるのか知りたかったのだろう。

それを踏まえアブデラティフは宗教と現実の境界線を理解している者だとビョルンは知る。

「ジャンカルロ殿とは会うのは可能でしょうか?」

「今、王都へ向かっていると思いますので二、三日中には到着すると思います」

「では、到着次第に面会させて頂けると助かります」

ビョルンが話し終えると扉が叩かれ、市民姿のアランが部屋に入ってくる。

「神官の一人が逃亡を図りましたので身柄を確保しました」

「そうですか・・・」

ビョルンはアブデラティフに視線を向けると彼は落胆していた。

「神官の名前は?」

「プルースト・モニエ嬢です」

「モニエが・・・」

アブデラティフはさらに消沈する。

「ジュリアン殿、この後にモニエ嬢との立ち合いをお願いしても良いですか?」

ジュリアンが頷く。

「神官長殿、最後に一つだけお聞きします。アリソン殿が王都で誰かと会いたいと話したことはありましたか?」

「いえ、彼女はただ・・・」

「ただ?」

「救貧院に行きたいと話していました」


神祇局を出たビョルンたちは近衛騎士団の屯所へ向かっていた。

「救貧院の名前が出ましたね」

エヴァが話すとビョルンたちは頷く。

「これで事件当日の夜の動きはわかってきましたね」

「しかし、あまりにもわかりやすい動きです」

アランが疑問を呈す。

ジュリアンがビョルンに戸籍謄本を渡す。

そこにはアリソンの出生が書かれている。

「ジュリアン殿、アリソン殿は救貧院の出身ですね」

「はい」

ビョルンはエヴァに戸籍謄本を渡す。

エヴァがそれを確認すると今度はアランに渡す。

誰もがこうも簡単に救貧院の名が出てくることに不審を抱いている。

「単純でわかりやすいですね」

「はい」

「アリソン殿はわざと私たちを導いているようです」

「私もそう思います」

ジュリアンも頷く。

「では、彼女は我々に何かをさせようとしているのでしょうね」

「そう考えるのが自然の流れかと」

「やはり、ジャンカルロと言う人物が気になります」

「ジュリアン殿はジャンカルロ殿のことはご存じなのですか?」

「一言で言えば<狂信的>な方だと私は見ております」

「つまり神に対する信仰心が強い訳ですね」

ジャンカルロの挿話をジュリアンが語るには、彼は信仰心で人々を救うことのみを考える神官であると言う。

そこには神に見初められたと思われる少年少女を見つけると強引に親元から奪い神職学校へ入学させることが多々あったそうで、場合によっては誘拐と言われてもやもなしと言われるほど強引な行動に移すことがあると言う。

しかし、見初められたと言う少年少女たちはジャンカルロの視点のみで判断されるため、その力があるかどうか疑問であると言う。

「ジャンカルロ殿はあまり良い人物ではないですね」

アランが呆れている。

「そのような人物がアリソン嬢を見初めた。では、彼女が亡くなったらどうなるでしょうか?」

ビョルンが両手を合わせながら口元に置く。

「・・・復讐に走る可能性があります」

アランが応える。

「いや、そんな単純なものではないと思います」

ジュリアンが話に割り込む。

「どうしてですか?」

「実はジャンカルロ殿の長子であるミリー・アルミリアート嬢にも<祈り>で治癒できる<聖女>として市井の人々に広く伝え出しております」

「今度は自分の娘をですか?」

エヴァやアランが驚く。

「実際はどうなのですか?」

ビョルンがジュリアンに尋ねる。

「そこまでは・・・」

ジュリアンは首を横に振る。

「今度は自分の娘を<聖女>にするつもりでしょうか?」

「それは彼が王都に来てから確認しましょう。それまでは我々はアリソン嬢の件を調べましょう」

その言葉に誰もが頷き返した。

〇主な登場人物


ジャンカルロ・アルミリアート

・・・西属州の第二都市マウレタニアの神祇局の神官長。


ミリー・アルミリアート

・・・ジャンカルロ・アルミリアートの長子。


アブデラティフ・ゴンドリー

・・・王都の神祇局の神官長。

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