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01 <聖女>と呼ばれる女性

今回は聖女をテーマにしております。

作品は中編と考えております。

「聖女に会いにいきませんか?」


神官ジーノ・ホルニヒの誘いに終身法務官であるビョルン・トゥーリは<聖女>と言う言葉に関心を寄せていた。

ユリウス王国の西属州の第二都市であるマウレタニアから戻って来たジーノが<聖女>と呼ばれる神官アリソン・パレンティを連れて王都にやってきたのは初夏にかかる頃のことだった。

<聖女>と噂になっているアリソンはこれまで多くの人々を<祈り>で治癒してきた。

<祈り>は治安を維持する旅団の騎士たちだけでなく老若男女問わず市井の人々さえも治癒したともっぱらの評判であった。

その噂は王都にまで届いており、王グスタフや貴族院がアリソンに興味を示したためジーノは彼女を伴って王都まで案内した経緯があった。

「ビョルン様は<聖女>を信じます?」

補佐官であるエヴァが尋ねる。

エヴァも<聖女>と呼ばれるアリソンに興味があるようだった。

「患者を治癒するのは医師です。これは事実であり変わることはないです。ですが、彼女の<祈り>には何らかの形で効果があるのでしょう」

祈りとは本来、人々の心を癒すものであるとの印象をビョルンは持っている。

それは生活や仕事、すべての日常に対しての心を安定させるものであり、心にゆとりがなければ医師の治療も捗らず、肉体は正常なのに心を病んだまま亡くなることもある。

「そうですね。でなければここまで評判になりませんものね」

エヴァは納得する。

「エヴァは興味があるようですね?」

「ええ。どのような状態であれ祈れば治癒できるとなればどんな人物か知りたいじゃありませんか?」

「そうですね・・・<祈り>で治癒できると言うだけでも真実を追う我々にとっては触れてみたいものだと考えますからね」

ビョルンもアリソンの<祈り>に興味を抱いていた。

<祈り>で患者の怪我を治癒できると言うのなら、この世界には新しい力や存在が産まれた証拠になる。

多くの人々が救われる可能性が生じる。

今後も<聖女>が産まれる可能性もあるのだ。


翌日、ビョルンとエヴァはジーノに誘われて神祇局にいるアリソンに会いに行った。

応接室にいるアリソンはビョルンたちを見ると礼をする。

アリソンは凛々しい佇まいで二人を出迎える。

その姿は<聖女>として自信に満ち溢れている。

「アリソン様、こちらが終身法務官を務められていますビョルン・トゥーリ殿と補佐官のエヴァ・ハヴィランド殿です」

「ジーノ殿より噂はお聞きしております。これまでも多くの事件を解決している方々であり、すべてにおいて平等に罪を裁く方々だと」

「私たちは法務官として当然のことをしたまでです」

ビョルンは微笑み返す。

「ビョルン様は私に興味がおありですか?」

「はい。ジーノ殿よりあなたの話を聞きました。是非ともお会いしたいと思いました」

「では、私の噂はご存じですね?」

「はい。あなたが<聖女>と言う話を」

「実際、私と会ってどう思いましたか?」

「あなたが<聖女>かどうかは私には分かりません。ですが・・・あなたは自信に満ち溢れていらっしゃる。揺るぎない自信に」

「それは褒めて頂いているのでしょうか?」

「もちろんです。あなたは多くの人々を祈りで救ったと聞いています。その事実だけでもあなたは誇って良いと思います」

「その通りです。しかし、私は医師ではありません。人によっては私の祈りは欺罔(ぎもう)していると噂するものがいます」

「なるほど」

ビョルンはアリソンの人となりの一片を知る。

彼女は祈りだけでは患者を治癒できない現実を理解しているようだった。

自分は医師ではない。

あくまで祈りしかできないのだと。

それを理解した上での発言なら彼女自身は自分の立場を弁えているのだろう。

「私はあくまで祈るだけですので、それを誇張されては困るのです」

「では、あなたは自分が<聖女>ではないと言いたいのですか?」

「<聖女>と呼ばれることは光栄です。私はその事を否定しませんわ」

そう話しながら微笑むアリソンの姿を見ながらビョルンは彼女に何か感じ取っていた。


神祇局を出たビョルンたちは一息入れるためにカフェに入った。

そこでダージリン紅茶を飲みながら互いにアリソンに対する感想を述べる

「アリソン嬢は<聖女>と呼ばれて誇りをお持ちですね」

「はい。これまでに多くの人々を救ったのですから当然かと思います」

「アリソン嬢はいつからこのような力を持ったのでしょうか?さすがに今回は聞けなかったですが、次回にお会いした時は聞いてみても良いかと思います」

「それもそうですが、私は別の事を彼女に聞いてみたいです」

「それは何ですか?」

「彼女は何か秘密を持っているようですね」

「そうなのですか?」

「ええ。それを私の前で話そうとしていたようですが、今回は躊躇したようです」

「ビョルン様はどう思われたのですか?」

「アリソン嬢は自信に満ちた態度とは別に無理をしているような素振りを見せていました」

ビョルンは紅茶をスプーンで一回りかき混ぜる。

「私から視線を逸らそうとしませんでした」

「・・・そうですね。ずっとビョルン様を見ていました」

エヴァもその時の事を思い出していた。

確かにアリソンはエヴァにまったく視線を向けなかった。

「エヴァやジーノ殿がいるのに私から視線を外さないでいたのは、何かを話したいのに最後の一歩が踏み出せなかったから」

「何かあったと考えるのなら、明日にでもお会いした方が良いのでは?」

「そうですね。この後、ジーノ殿にお願いしましょう」

ビョルンは紅茶を飲み。

思えばアリソンの視線は異性への好意とは思えないものであった。

もし彼女が抱える秘密があるとするなら、これは知るべきだとビョルンは考えた。

だが、ビョルンの意思とは別にアリソンの秘密を知る機会を失ってしまった。

ビョルンたちの元に近衛騎士団の主任団長であるパウロ・バルドーネから凶報が届いたのだ。

それは以下の内容であった。


・・・聖女が亡くなった。


と言うものであった。

〇主な登場人物


ビョルン・トゥーリ

・・・主人公。終身法務官。法を司る者として今回の<聖女>殺害事件を担当する。


エヴァ・ハヴィランド

・・・法務官。ビョルンの補佐官も務める。ビョルンに想いを寄せている。


パウロ・バルドーネ

・・・近衛騎士団の主任団長。ビョルンの幼き頃からの友人である。


アラン・グルーバー

・・・パウロの部下。元旅団の斥候役。


レナート・シュナイダー

・・・パウロの部下。元旅団の斥候役。


ジーノ・ホルニヒ

・・・西属州にある第二都市であるマウレタニアの神官。


アリソン・パレンティ

・・・<聖女>と呼ばれる神官。王グスタフに謁見のためジーノに連れられ王都へ。その後、王都で殺害される。これまで市井の人々を自らの祈りで治癒してきた。

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