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8月15日

 

 夏休みも中盤に入った頃、倭はせっかく夏なんだし皆で水遊びをしようと誘い森を抜けた河原に向かっていた。


「やぁ」


「き、貴様……!」


 向かいから歩いてきた男性に声を掛けられた。どうしてかナイチが異常に反応しその人を睨み付けていた。よく見るとラヴィッチや響も表情が険しくなっている。

 誰なのか何となく察したがナイチに尋ねると彼は恐る恐る口を開いた。


「…()()()()()()()()()。サラン様の次に恐れられている奴……」


「彼もアリーシャ隊の一人だよ」


 コークと呼ばれる人物は、何故か両眼を包帯で巻き付けており顔を伺うことが出来なかった。目は見えているのだろうか。

 若草色の髪の毛を靡かせ、この季節にそぐわない黒のワイシャツに赤いネクタイを締めたその姿は全てが謎に包まれていた。


「ふ、面白い肩書きだな、まぁいい。私がサラン様の次に強いコーク・パブリックだ」


「いや自分で言うんかい」


「役立たずの馬鹿共のせいで気分が良くないんだ。……理由は分かってるな?」


 コークが意味深ににたりと笑うとナイチがゾッとしだした。とはいえ自分でサランの次に強いと言うくらいの実力があるのはきっと確かなのだろう。


「ふん、簡単に倒せると思うな」


「人数的にはこっちが有利だよっ!」


「変身するわよ!」


 そう言ってライ厶達が一瞬で変身を済ませる。

 どのような戦闘が繰り広げられるのか怖いが自分は何も出来ないので倭は皆の後ろで見守ることに徹することに。


魔術師(お前達)だけを狙うと思ったか?」


「え……」


 出来るだけ遠い所に離れようと走ったつもりなのに、気付けば倭はコークに捕まっていた。

 両腕を後ろで押さえられ身動きが全く取れない。


(この人……怖いくらい手が冷たい……!)


 血の気を感じないとはこの事だ。体温が全く感じられないのだ。恐怖で必死に抵抗しながら叫んだ。


「やめて……っ!離してよ……!!」


「煩い女だ。黙らせてやろうか」


「……っ!!??!」


 倭の耳元でそう囁くと突然後ろから鈍痛が襲い、初めて受けた痛みの衝撃で悲鳴を上げてしまった。


「ぃやあぁあああ……ッ!!痛い……ぃああぁあ……ッ!!!!」


「倭ちゃん……!!?」


「やま……!!」


 痛すぎて訳が分からない。背後から何をされたのか把握出来ない為余計に痛みを感じた。視界が歪みその場に倒れ込んだ。幸い意識は辛うじてあるが激痛で声が出せず動けずにいた。血の味がする。


「何も出来ないのに関わるからこうなるんだ」


 コークは倭の頭を掴み、顔色を伺ったフリをして地面に押し付けた。


「……もう我慢できへん、限界や!!」


「茜……!!」


 すると茜が普段は見せない怒りの表情でコークに殴りかかろうとした。無力の倭を狙ったことに腹を立てたのだろう。

 しかしその拳は呆気なくコークに掴まれてしまう。


「なんだ、お前も喰らいたかったか?望んでいるのならくれてやる」


「……え?」


 茜が拍子抜けした声をあげてすぐに、身体の何処かが抉られるような音と共に倒れてしまった。


「……っ!?」


「茜さん……!」


 緑達は、一体何があったのかわからない様子でいる。それは攻撃を食らった倭も同じ思いだ。


 コークは…武器を何も出していなかった。それなのにどうやって倭と茜に攻撃が出来たのか。


「さぁ次の犠牲者は誰だ?いないのなら私が自ら選んで―――ッ!!?」


 ゆっくり焦らすようにこちらに歩み寄るコークの言葉を遮ったのは誰かが投げた一つの()()()()()だった。


「…これは、スタンガンか」


「あぁ、そうだよ」


「……しまっ……!」


 なんと投げたのは鎖椰苛で、スタンガンで気を取られている間に背後に回り、コークの胸元を手持ちのナイフで突き刺した。

 元々は水遊びしに行くだけだったというのにナイフとスタンガンを常備しているとは如何なものなのだろうと内心思ったが突っ込む余裕は無かった。


「ふ、力無き弱者は寝てろ。電撃返しだ」

 

「っな…!!?」


 するとコークは何処からか()を握り、鎖椰苛に向かって打ち付ける。当然それは当たって、身体を痺らせながら彼女は倒れた。


「みー、レイ…、奴が何かやらかす前に行くぞ……!」


「……えぇ!」


 ライ厶が思い切りコークを突き飛ばし、よろけた隙を見てレイがカードを投げて爆発させる。姿が見えない程の煙を巻き上げたがその中からコークが特に痛がった様子もなく現れレイに向かって鞭を振った。

 すかさず緑が術を唱え、コークに痺れを与えさせる電撃を喰らわせた。しかしやはり彼は余り痛がる様子もなく鞭を振るい続けていた。


「何なんだコイツ……、っふ!攻撃が当たっているはずなのに……っく、全く怯まない……!」


 ライ厶がコークに肉弾戦でパンチを与えながらそう嘆く。

 その通りなのだ。コークは全員の攻撃を食らっているにも関わらず怯む様子がない。身体に傷や血等が付いているがノーダメージといっても良いくらい動きが鈍らないのだ。


「だから言っただろう、私はサラン様の次に強いと……っはぁ!!」


「きゃぁあっ……ッ!!!!」


「くぅ……ッ!!!」


 コークは余裕そうに鞭を振るうとライ厶とレイに打ち付け痺れさせる。

 緑が再び術を唱えて炎の旋風を巻き起こし彼に喰らわせた。しかし見た目はボロボロでも全くピンピンしていた。それも鞭で旋風を薙ぎ払っていた。


「なかなかしぶといが……これはどうか」


 そう呟くとコークはネクタイを大きく緩め、ブラウスのボタンを上から順に外して行った。


「ちょ、ちょっと貴方何してるのよ……!!」


「私がここまでしてやるんだから光栄に思え」


 レイが恥ずかしそうに頬を赤らめたが特に気に止めていないコークはボタンを四つほど外し終えるとまた不気味に笑った。

 すると直後に自分の後頭部の辺りから導線のようなものが出てきてレイに方向を定める。


「ONE CODE」


 彼がそう囁くとそこから光の圧のようなものが真っ直ぐに放たれレイ目掛けて貫いた。


「きゃああぁああっ……ッ!!」


「レイ先輩……!!」


「TWO CODE」


 コークの新たな武器と技に順応できずに吹き飛んだレイを緑が心配そうに見遣り名前を呼んだ。

 コークの後頭部から再び別のコードが現れ、それは緑の方を向いている。


「……っ!いやぁああああ……!!!」


 ハッと彼の方を向いた時には既に遅く、そのコードから炎が流れ出て彼女を覆った。


「くそ……みーまで……!おのれ……!」


「SIX CODE」


 ライ厶が殴り掛かろうと地面を蹴った。するとコークは右の袖を肘まで捲るとそこからコードが勢いよく伸び、ライ厶の両手首を締め上げ宙吊りにした。


「く……離せ!!!」


「FIVE CODE。これは一瞬痛むだけだ、安心しろ」


「っご、ふぁ……ッ!!!」


 ライ厶の訴えは虚しく無視された。

 今度はコークの左の袖口からコードが伸び、そこから目に見えない波動がライ厶の腹部を重く貫き思い切り吐血した。


「……く、そ……っ!」


 一瞬にして三人が戦闘不能に陥った。コークは機嫌良さそうにラヴィッチ達に向き直る。


「腕があると思ったがこんなものか。本当にラヴィッチ・イザードらはこいつらに倒されたのか?」


「……」


 コークの問いにラヴィッチ達は気まずそうに無言を貫いていた。

 ちなみにラヴィッチは戦闘はしたが途中で仲間になると戦闘放棄したので倒されていない。

 ナイチもほぼラヴィッチとしか戦闘をしていたので倒されていない。

 響は明日香に庇われたので倒されていない。


「…まぁいい。ここからは元アリーシャ隊との後半戦か。みっちり調教してやる」


「それはこっちの台詞だ……!!」


 気味が悪い程の笑みを浮かべるコークにナイチが歯向かい魔術を唱え攻撃を与えようとする。


 それは真っ直ぐに彼に向かって当たったかと思ったが…。


「どうした?」


「!!」


 コークは瞬間移動でナイチの目の前に現れ瞬時に下腹部からコードを伸ばし突き刺した。


「ククッ……そんなものか?」


「何だって?コーク」


「……!?」


「はぁあ……ッ!!!!」


 ナイチに気を取られて気が付かなかったのか、コークの背後にラヴィッチが近付き思い切り背中を剣で切り付けた。更に横から響も術をかけ憑依した腕で殴り付ける。


「もうやめない?コーク……。僕、嫌だよ」


「……ちぃ……っ!煩いぞ……!!ONE CODE!!!」


「うわ……っ!」


 余裕が無くなっているのかコークは先程ライ厶達に喰らわせたコードの技をラヴィッチ達にも披露した。


「これでも喰らえ!!」


 ナイチは高く飛び跳ねると銃を構えコークに向かって撃つ。しかしそれはコークの足の一歩先に埋まり外した。


「外したようだな」


「ふん、よく見ろ!!」


「……っ!?」


 すると一瞬でそこに魔法陣が現れ、動きを止めさせるとナイチが銃を連発し、銃弾が自由に四方八方に舞いコークの全身に突き当たりダメージを与えた。


「く……っ、この……ッ!!?」


 コークの言葉は、茜のパンチと鎖椰苛のナイフ捌きによって遮られた。


「お!今度は当たったで」


「このコード、切れるぜ?ナイフで」


「ゆっきー!鎖椰苛ちゃん!」


 口から溢れた血を拭いながら鎖椰苛と茜が笑いあっていた。二人は何とか意識を保っていたようで安心した。


「でしたら……切りましょう?みんなで」


「お嬢!みっちゃん!ライさん……!」


 レイがカードを投げ、器用にコードを寸断する。

 みんな姿はボロボロだが何とか無事だったみたいだ。ラヴィッチが安堵の声で名前を呼んでいた。


「私もさやんきーから借りたナイフで頑張るね…!」


「やま…!本当に良かった……」


 正直患部はめちゃくちゃ痛いし動きたくないが、自分に出来ることがあるならやるしかないと身体に鞭を打ってコードを切っていくことにした。


「馬鹿だな……私が持つ限り、これは無限に伸びるぞ」


「だったら……!」


 明らかに状況は彼の方が劣勢だと言うのに勝ち気でいる姿のコークのコードを倭はナイフで断った。


「何度でも切ります……!!」


「ククッ……面白い、かかって来い……!」


 そして全員でコークに攻撃を与えつつコードを寸断していった。


「ねぇ…在原ちゃん……!あの人何処からコードを出してるの……?」


 ふと切り続けていて疑問に思ったのだ。無限に伸びるあのコードは術なのかどうなのか不思議だった。


「彼は……身体の中に人工知能が搭載されているんだ。……っふ!…でも、ロボットって訳ではなくて半分機械、半分人間って感じで。理由はよく分からないけど……はぁっ!!!」


 ラヴィッチがコークに攻撃しながら答えてくれた。

 それなら全ての疑問に納得がいった。

 拘束された時に彼から体温を感じなかったのも、機械のおかげである程度の痛みにも堪えられていた事も。

 恐らくあのコードも術ではなくて身体から直接伸びているものなのだろう。


「……あれ?このコード、伸びないよ!」


「……なに?!」


 緑の一言に一番驚いていたのはコークだった。自分が思っている以上に体力の限界が狭まっていたようだ。背中側から伸びていたコードは切れたまま火花を散らしていた。


 そう思った途端に、全てのコードから火花が出始めコークに焦りの表情が見える。


「あと少しやでっ!」


「小癪な……ッ!!!!」


「そいや……!!!」


 茜が浮ついていると怒り叫んだコークの腕からコードが伸び襲いかかろうとした直前で鎖椰苛がナイフでそれを切り落とした。


「ったく、油断してんじゃねぇよ」


「さや団長……ごめんっ」


 コークの動きが明らかに鈍った所でラヴィッチが問いかける。


「君はどうしてサラン様の下についているの?」


「…………」


「何故サラン様に…」


「お前達なら分かっているだろう……!!!!?私は……()はサラン様を尊敬、いや…敬愛している!!ただそれだけだ!!彼女は俺を必要としてくれている……愛してくれている…!!俺の居場所はあそこにしかないんだ……!!」


 コークが初めて声を荒らげて答えた。

 一人称が俺に変わっていたが、今のが素の呼び方なのだろう。

 そしてその様子を見て分かった。きっとこの人は愛されたかったのだ。だから愛を与えてくれたサランに従っていたのだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()


「コークさん…サランの目的って何かわかりますか?」


「何を今更。そこの魔術師の血を集めることだろう」


(ほらやっぱり……この人は……いや、在原ちゃん達含め誰も知らない)


「…血を集めてどうしたいのかは知ってますか?」


「……!」


 倭が核心に迫るとコークは黙り込んでしまった。図星だ。サランの傍にいたであろう彼ですら知らないということはアリーシャ隊全員が理由を知らないで従っていたという訳だ。


「…今思うと、僕達はサラン様の目的を知らないでずっと付いてきていたんだよ」


「……っ……」


 コークは自信喪失したのか弱々しく俯いていた。

 よほどショックを受けたのか。


「……!!貴様ら下がれ!!!」


「えっ?!」


 ナイチがコークの異常に気付き、倭達を遠くに避難させた。


「……それ、でも……っ、おれ、は…………」


 各コードから火花が物凄い音を立て、彼の身体から止めどなく煙が出ているがコークは悲しげに一人呟いていた。


「サラン……様を……っ、あい、し……」


 言葉を紡ぎ終える前にけたたましい爆発音がして彼は自爆した。

 コークの両眼を覆っていた包帯が解け、一瞬だけ顔を伺うことが出来た。といっても遠目だからハッキリとは分からなかったが、彼の目から大粒の涙が出ていたのはしっかりと確認することが出来た。


 彼の姿は跡形もなく消え、破けたネクタイだけが地面に落ちていた。こんな残酷な死に方は辛すぎる。皆、素直に勝利の喜びを分かち合うことが出来なかった。


「どうして私達まで悲しくさせて消えちゃうのかな……っ」


 涙が止まらなかった。救ってあげることは出来なかったのだろうか。

 半分人間だったのなら、その手を温める事は出来たかもしれないのに。


 ―――


「……そうね、コークにも皆にも言ってなかったわね……」


 サラン様に呼ばれたので部屋に向かった。

 彼女は部屋に飾られた自分とコークの写真を眺めながら静かに泣いていた。

 あのコークが死んだ。とても信じ難かった。


「サラン様…」


「……!あら、ごめん……もう来てくれたのね」

 

 サラン様は仮面を外して泣いていたようだが気配に気付くと素顔を見せまいとすぐに仮面を装着してこちらを向いた。


「次は()()で良いんですね?」


「……えぇ。貴方は私についてきてくれるのね……?」


「当然っスよ!ここにいるみんな、サラン様についていきますから!」


「ありがとう……お願いね」


 オレが元気付けるように言うとサラン様は申し訳なさそうに微笑んだ。

 正直な話、あのコークが殺られてしまったのだからオレに勝機はないと何となく結論付いていた。

 だがサラン様の悲しい顔を見ていたら、力になりたいと思い弱気な自分を捨てることにした。


「ねぇ、他の皆も呼んできてくれるかしら?……内緒話をしてあげるわ」


「内緒話?」


「そう。私の()()……。ラヴィ達に言っちゃダメよ?」


「!」


 それはつまり、血を集めて何をしたいのかという話だ。

 コークにも誰にも伝えられていない内容をついに聞かされる。つい言葉に詰まったが、すぐに呼んできますと踵を返した。


 サラン様が寂しそうに空を見上げ一人呟いていたが最後まで聞き取れなかった。


「……コークの目、一度でいいから見てみたかったな。……大丈夫、コークはきっと()()()()()。女の勘だけど、ね」



水遊びは出来ずに終わりました!


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