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7月5日

 

「こんにちはっ!」


 いつも遊んでいる公園でみんなで仲良く談笑していると後ろから手本のようなハキハキした声で挨拶され誰かと思い振り向くとラヴィッチだった。


「おー!ちびっこや!」


「お久しぶりです」


 行儀よくぺこりと会釈をし眩しい位の笑顔を向けられる。


「…あれからサランって人の様子はどうなの?」


「んー、変わりはないですね。どうやら様子見しているようです」


 レイがラヴィッチと仲間としてこうして言葉を交わすのは初めてだ。

 以前ライ厶から仲間入りの旨の説明を受けた時は信じられないという表情をしていたが今もまだ信用していないのか警戒しているようにも見えた。


「おい」


「ん……?……ッ!」


 鎖椰苛がラヴィッチにズイッと近付くとどこに潜ませていたのかスタンガンを勢いよく彼の胸元に突きつけようとした。

 ラヴィッチの反射神経で当たらずに済んだが鎖椰苛は特に気にする様子もなくスタンガンを持ったまま仁王立ちしている。


「オレ達に敬語使うんじゃねぇ」


「もー!紛らわしいし怖いし武器を出すんやないって!!」


「わ、我らは敬語を使わないからな」


「うん、だから敬語やめてくれたら……鎖椰ちゃんも治まると思うから……」


 ライ厶と緑がフォローを入れる。

 するとラヴィッチはじゃあ敬語やめるねと案外すんなり受け入れてくれた。


「みんなのこと何て呼んだらいいかな?」


「普通でいいじゃない」


 んー、と人差し指を口元に当てしばらく考えると一人一人に向かって呼び名を命名される。


(やま)ライム(ライさん)(みっちゃん)(ゆっきー)鎖椰苛(さやか)レイ(お嬢)……で、どうかな」


 倭含め一同が黙り込む。なかなか砕けた呼び名にある意味新鮮さを感じていた。


「ちょっと馴れ馴れしい……よね、ごめん!」


「むしろ大歓迎やで~!!」


「堅苦しいよりはいいと思うよ」


 しどろもどろになるラヴィッチを茜が正面から思い切り抱き締めた。他人行儀よりはこうしてあだ名で呼び合う方が親しみを感じられて良いと思った。


「……何で我はさん付けなんだ」


「オレは呼び捨てなのにな」


「あら鎖椰苛さん、不服なの?だったらちゃん付けで呼んであげたら?」


「え……うん」


 それより先に腕離してゆっきー!とラヴィッチがジタバタし、茜が悪びれた様子もなく謝る。

 そして鎖椰苛に向き直ると輝かしい笑顔で「鎖椰苛ちゃんっ」と呼んでみると気恥ずかしくなったのか鎖椰苛は顔を真っ赤にさせた。


「てめぇいつか潰す……」


「え!?」


「ちびっこ、あれはただの照れ隠しや」


「茜!!!」


 茜が鎖椰苛に語気を荒げて呼ばれるもへいへーいと間延びした返事で軽くあしらうだけだった。

 鎖椰苛の扱いをよく理解しているというか…。


「あ、そういえば僕、君達の学校に通うことにしたんだ。それならもし校内で何かあったとしてもすぐ駆けつけられると思ってね」


 どうやって一人で学校の手続きをしたのか物凄く気になるが追求しないでおいた。例の組織の情報を持っているラヴィッチが同じ学校内にいるなら彼の言う通り何かあっても心強いだろう。


「それで…さすがにこの本名だと色々面倒臭いから名前を考えて欲しいんだ」


「偽名か……クロ、考えてやったらどうだ?」


「やま、お願い」


 外国人のような片仮名の名前ではなくて日本人のような名前を考えてくれと言われ、ラヴィッチの顔を見つめながら考え込む。


「……在原(ありはら)……伊吹(いぶき)……」


「どうしてその名前が浮かんだの?倭ちゃん」


「えっと……私の好きなアニメのキャラクターの名前を組み合わせただけというか……」


 悩みに悩んで倭の好きなキャラクターの名前を組み合わせることにした。もう直感である。

 ラヴィッチはその名前を復唱すると再びキラキラした笑顔でいい名前だよ、ありがとう!とお礼を言った。


「ならオレは在原って呼ぶな」


「私は在原君にするわね」


「あたしは……うーんと……あーくん、でいいかな」


「我は伊吹と呼ばせてもらうぞ」


「ウチはちびっこ!」


「え、変わってない……まぁいいけど。やまは何て呼んでくれる?」


 各々が好きな呼び方で呼び合っている。今更ながら本当にすごいと思う所は、倭達は一人称も相手の呼び名も誰一人被らないのだ。

 そして倭が彼に何と呼んでくれるか問われ今度は即答で返す。


「在原ちゃんかな」


「何故にちゃん付けなんだよ」


「えー!だってちゃん付けでも違和感なくない?!」


 倭がそう言うとラヴィッチは、それはつまり女の子に見えるってことだよねと項垂れてしまった。否定はしない。見えるからだ。


「そういえば在原君は今どこに住んでいるの?」


「えっと……」


 何故かラヴィッチにじーっと見つめられる。全く意図が分からず目を逸らしたが茜が今度は興奮した様子で騒ぎ立てた。


「んなっ!?やまピーとちびっこってもしかしてそんな関係やったん!?どこまで!?」


「あっかは黙ってて!!!!」


「あばぁ!!!!!」


 鼻息を荒くして誤解を招くような発言をする茜の頭を緑が愛読書の分厚い聖書で叩いた。さすがに効いたのか声すら上げなくなった。


「緑、倭絡みだとホント容赦ねぇよな」


「……まぁ、なんというか住む所が無いというか……。やま、急で悪いんだけどしばらく居候させて欲しいんだよね…」


「…じゃあ、今日はとりあえず家来ていいよ?お母さんが何ていうかわかんないけど……」


「ありがとう……!」


 ラヴィッチが捨てられた子犬のような悲しげな表情をするものだから断るに断れなくなってしまった。というかまだ親の許可も取っていないのに大丈夫だろうか。一応男の人だし。


「……倭ちゃんって確か妹さん、いたよね」


「え?うん、仕事でほとんど毎日家にいないけど……」


「あら、若いのにアルバイトに励んで偉いわね」


 緑の言う通り倭には妹がいる。と言っても仕事をしていて夜通し家にいないが。だからみんなにも会わせたことはなく、妹がいると言うと必ず驚かれる。


「あーくんが倭ちゃんに何かしそうになったら妹さんに止めてもらおうかな」


 そんな一人言を呟いた所で今日はお開きにし、倭とラヴィッチは同じ帰路についた。母親に何て説明したら納得してもらえるか必死に考えながら倭は歩いていた。


「た、ただいまぁー……」


「おかえり倭……あら、その子は……」


「はじめまして、在原伊吹です。突然お邪魔してすみません、ご迷惑なのは承知の上ですが事情は後で話すのでしばらくここに居させていただけますか?」


 倭が説明しようとするとラヴィッチが饒舌にペラペラ喋ってくれた。確かに言葉遣いは完璧だが事情を話さずに母親は納得してくれるのだろうか。

 恐る恐る親の顔を見ると、あらあらぁとニヤニヤしながらずっと居てくれていいわよと呆気なくオッケーをいただいてしまった。


「とりあえず先にお風呂入ってきなさい?一緒に」


「~~ッ!!!??!?」


 母親がイケメン好きなお陰で特に突っ込まれることなくラヴィッチを居候させてもらうことは出来たがまさかこの展開になるとは思っていなかった。


 ―――


「……」


「……」


 そして倭達は今向かい合ってお風呂の湯船に浸かっている。流れでこうなってしまったが、一応倭も女性だし彼も男の子だ。色々まずい気がする。

 そしてこの後どうすればいいのだ。身体を洗わなければならないしそうなるとバスタオルを外すことになるし。


「やま……髪の毛洗ってほしいな」


「ぶふっっ!!!?」


 彼も彼で倭が異性ということを理解しているのだろうか。こちらが一人試行錯誤しているというのに突拍子もないことを言い出すのだから考えている事がわからなくなる。本当についこの間まで敵だったとは思えない打ち解けぶりだ。


「それくらい自分でやってよ!私逆上せそうなんだから…!」


「…………」


 そっぽを向いて突き返すと黙ってしまった。浴室内に水が滴る音だけが聴こえる。少し冷たい態度だっただろうか。

 申し訳なく思いラヴィッチを見ると頬を火照らせ瞳を潤わせ甘えた声でこう言った。


「……だめ?」


 上目遣いでその言い方はずるいと思う。断るこちら側が悪い人に見えてしまう。

 渋々彼を洗い場の椅子に座らせ私も立ち膝でラヴィッチの後ろに移動した。

 なるべく裸は見ないように急いでシャンプーを泡立て洗髪に専念する。


「やまの手…柔らかくて気持ちいいな」


「そ、それはどうも……」


「僕の手、男だからやまみたいに柔らかくならないよ……柔らかくなれーっ」


 天然なのだろうか。

 今回ばかりは倭がツッコミ役に徹することになるから色々と物申させてもらうが手は瞬時に柔らかくなったりはしませんよ在原ちゃん。

 男、というワードを出したのでふと思ったが初めて彼と会った時、一瞬女の子と勘違いしそうになったのだがそれは言わない方がいいと何となく察した。


「えぇー、僕を女の子だと思ったの?ちょっと凹むなぁ」


「読心術……!?」


「ふふ…もう流してもいいよ」


 さりげなく倭の心の声を読み取られてしまい心臓が締め付けられる感覚になったが話題を逸らすべくシャワーで泡を流した。

 すると今度はラヴィッチが倭の髪の毛を洗ってくれるとの事なのでせっかくならと甘えることにした。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」


「あ、ごめん…強かった?」


「あひゃひゃひゃひゃ……在原ちゃ、くすぐったい!!!」


「あ、ごめん…弱かった?」


 わざとやっているとしか思えない力量に振り回される一方だ。頭から血でも出てるんじゃないかと思うくらい痛くて涙が出てしまった。

 それでも何とか髪の毛を洗い終えることができ、シャワーで流してもらい一応お礼を言った。


「じゃあ次は…」


「え?」


「身体を……」


「ちょ……!!NONONO!!私まだ心の準備というか決心とかそういうのついていないから――!」


「あっ、危ない!」


 ラヴィッチがナチュラルに身体を洗おうと肩に触れてきたので振り向いて咄嗟に抵抗して暴れようとするとつるりと床に足を滑らせ視界が反転した。


「……大丈夫だった?」


「……あ!……うん、ごめん」


 倭が目を開けるとラヴィッチが自分を押し倒したような体勢でそこにいた。幸い何処もぶつけた所などはなかったので一安心だがラヴィッチが上からどいてくれる気配がなく別の意味で不安になった。


「こうやって間近で見ると……やまってすごく可愛くて綺麗だね」


「……っひぇ!?」


 倭の頬にそっと手を触れさせてさわさわと撫でられる。この体勢でそういうことを言わないで欲しい。自分に気があるのかと勘違いしてしまうではないか。

 というか自分ばかりこんなに慌てふためいて恥ずかしい。


「も、もう!何言ってるの!!私先に上がるからね……!!」


 勢いでラヴィッチの身体を押しやりそそくさと脱衣場へ避難した。


(なんなのあの子は…!意味がわかんないよ!)


 すぐに風呂から上がられてもまた困るので急いで着替えをして部屋に戻っていようと支度をする。何も考えないように髪の毛をわしゃわしゃとタオルで乾かすも脳内に浮かぶのはやはりラヴィッチの顔だった。


 どうしていきなり彼があのような事を倭に言ってきたのか。

 無意識なのかわからないが、何故か嬉しく思えてしまった。胸に手を当て心臓がいつもより速く脈を打っているのを感じる。


(って、私にはみどりんがいるんだ!みどりんは私の嫁!)


 そう再確認しておいて緑は女の子なのに何を言っているんだ、と自分に疑問を抱いた。


 ―――


 ここ最近考えてしまう事がある。

 倭は緑が好きだ。だけどそれは友達としてなのか、恋愛対象としてなのかわからなくなっているのだ。

 前まではどちらかというと恋愛対象に近い感情だったと思う。

 しかし今、ラヴィッチという存在が間に入ったことにより自分の気持ちがよく分からなくなっている。

 現にこの間の彼との混浴事件以降、倭の頭の中は彼のことばかり浮かんでくるのだ。


 こうして頭を悩ませていたら無意識に倭は緑の自宅の前まで足を運んでいた。気持ちを確かめたいからか、相談したいからか。


「あれ?倭ちゃん、家の前でどうしたの?」


「!」


 ちょうど何処かへ出掛けていた緑が倭の後ろに現れた。

 今用事が終わって帰ってきた所だから良かったら上がってとこちらに手を差し伸べたが気持ちがごちゃごちゃになっていた倭はつい彼女の手を払い除けてしまった。


「あ……っ」


「倭……ちゃん?」


「ごめん……!」


 いたたまれなくなったのでそのまま走り去る。大好きな緑のことを考えたらどうしてか直視出来なくて突き放してしまったのだ。

 いつもの公園に入り、木陰に身を潜めた。


「みどりんは……私の事どう思っているのかな……。さっきの最低な態度で嫌いになったりとか……」


「なってないよ」


 聞こえるはずのない声が背後からしたので振り向くと緑が優しい表情でこちらを見下ろしていた。気配が全くしなかったので驚いた。お得意の瞬間移動だろうか。


「あたしは倭ちゃんのこと、どんなことがあっても嫌いにならないよ。絶対」


「なんで……そんなに優しいの?私さっきみどりんに酷いことしちゃったのに……」


 全く気にしていないとハッキリ言われ彼女の寛大な心に泣きそうになった。そんな倭に笑顔を崩さず緑は話し続ける。


「あたしはどんな倭ちゃんも好きだから、気持ちは変わらないよ。一番好き」


 ストレートに告白されつい頬が赤くなってしまう。緑があまりにも堂々としているから、自分も彼女を好きでいていいんだと安心させられる。


「私もみどりん大好き、だけど……変、じゃないかな?

 私達……女の子同士だよ……?」


「うん、それがどうしたの?女の子メインの物語だから何も問題ないと思うよ?」


「……?なんのこと……?」


 ―――


「……」


 倭と緑(二人)の会話を()は離れた所から盗み聞きしていた。たまたま深刻そうなや倭の顔を見てしまったから何かあったのかと気になり追うと、緑と話し込んでいたからつい隠れて聞いてしまったのだ。

 てっきり戦闘関連の内容だと思っていた為、話を聞いてなんだそんなことかと少し興醒めしていた。


「ふん、盗み聞きか。趣味が悪いな」


 そして僕の背後から聞き馴染みのある声がし、敢えて振り向かずにそのまま話す。


「久しぶりだね、名前……なんだっけ」


「……!?ナイチ・コーストだ!」


「あははっ、そんな名前だったね」


 もちろん本当に名前を忘れた訳ではなくからかって言っただけだ。ナイチは()()()()()()()僕にツッコミを入れフルネームで名前を言う。相変わらず律儀だ。

 ここでやっと僕は彼の方を振り向き、それでと冷たく言い放つ。


「今はもう僕の敵のナイチが何でここに来たの?」


「……っ、貴様……」


 わざとらしく()という所を強調してみると予想通りナイチの表情が険しくなった。


「え?違うの?じゃあ僕達の仲間になってサラン様を止めるのに協力してくれるのかな?」


「……今日は貴様に話があって来ただけだ」


「……なに」


 彼が言わなくても何を言いたいのかは大体わかっている。こうやって直々に話をしに来るということはきっとそろそろ彼との戦闘が近付いてきているに違いない。


「次に貴様らと闘う相手は……俺になった」


「…そうなんだ、へぇ」


 ほら予想は的中だ。ある程度覚悟していたからそこまで驚きはしなかった。


「…貴様は、こちらに戻ってくるつもりはないのか?アリーシャ隊に」


 そう言われるのも想像はついていた。今更戻れる訳もないし、僕の意思はナイチが説得した所で変わらない。

 話を切り上げようと彼の横を通り過ぎる。


「戻るつもりはないよ。僕が言うのも変だけど、アリーシャ隊は間違っている」


「……、俺達戦友ではないのか!?俺は貴様と戦いたくないんだ……!こんなの望んでいない…俺達の関係はもう戻らないのか……ラヴィッチ!」


 ふと足を止める。名前を呼ばれて懐かしい気持ちになった。

 僕とナイチは小さい頃からアリーシャ隊にいて育ち、共に戦友として日々鍛錬に励み強くなって行った。

 そんな戦友を、敵として迎える。それは正直僕だって辛い。


「……戻る方法は、あるよ。次戦って、君がこっち側についてくれるならね」


「……ラヴィッチ…」


「僕だって、戦いたくないさ」


 歩を進めその場を立ち去った。

 危ない所だった。あのまま面と向かって話をしていたら、()()()()()()()()()に気付かれる所だった。



倭がラヴィッチを意識し始めました!!ガールズラブのこの話はどうなってしまうのか!



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