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6月20日

 

「……え?」


 たまたま人気のない路地裏を抜けた広場を倭はライ厶達と歩いていると、突然レイが血に塗れた姿で上から落ちて地面に叩きつけられた。


「い、いやぁああああッ!!!」


「レイ!しっかりしろ!」


 ライ厶が抱きかかえ意識があるか確認する。とりあえず脈はあるようで気を失っているだけだと告げられ少しだけ安堵するが一体何があったのかと騒然とした。


 すると頭上から息をつくような声が聞こえ、見上げると電信柱の上に誰かが立っているのが見えた。


「あんた誰や!」


「初めまして、僕はラヴィッチ・イザード。レイノーラ・ステイブルーを倒したから後は連れ去って任務完了なんだけど……」


 そう言うと軽々とそこから飛び降り倭達のいる場所に着地し重たそうに見える剣をこちらに向けた。


「強そうな人達いるからついでに殺っちゃおうかな」


「……この人……」


 朗らかな笑顔で残酷な事を口走るその人物に倭は既視感を覚えていた。

 水色の髪色、童顔な顔立ち、ニットの服に小さなリボン。間違いない。


「倭ちゃんの知り合い?」


「いや……少し前に私の夢に出てきた人そっくりで……」


 まさか夢の中で見た架空の人物が実際に存在していたとは思わなかった。それが何の意味を持っていたのかは知らないが敵として出会ってしまったことが少し悲しかった。


「クロ、鎖椰、ゆう、お前達はレイを守ってろ!

 みー、行くぞ!」


「う、うん……!」


 ライ厶と緑が前に出て一瞬で戦闘服に姿を変えた。

 急いで倭達はレイを離れた場所に移動させ戦闘の様子を見届けることにした。


 この間の姫川先生の件以来平和な日常を過ごせていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか。

 ラヴィッチと名乗った彼は先程、レイを倒して後は連れ去れば任務完了だと言っていた。

 つまり誰かに命令されて来たということになる。何故レイが狙われているのか、検討もつかない。

 彼も魔術師なのだろうか。


「はぁぁあああッ!!!」


「ぅわあっ!!!」


 ライ厶が俊敏な動きで彼に近付き腕を掴んで上手投げのように綺麗に地面に身体を打ち付けさせた。その力は柔道選手等とは比べ物にならない力で地面にヒビが入るほどの威力で改めてライ厶の強さを実感した。


「炎の精霊よ、あたしの敵を貴方の炎で焼き尽くせ」


 その隙に緑が小さな声で呪文を唱えると彼の足元に魔法陣が出現し轟音と共にそこから炎が巻き上がり灼熱と化した。彼の苦痛の声が聞こえたあたり、緑の魔法もバッチリ食らったということだ。

 倭が知らなかっただけで、二人は戦闘スタイルが全く違うものの息が合っていて思わず圧巻されてしまった。


 しかし直後に炎の中から彼が飛び出て剣を振りかざした。緑が即座に反応し本を開き呪文を唱えバリアを作り出し攻撃を阻止する。

 すぐに彼の背後にライ厶が回り込み、背中に拳を叩き付けた。カウンターで彼が剣を横に振り切りつけようとするがライ厶はバク転をしながら距離を取り華麗に避けた。


「あー、二対一って自信ないんだけどなぁ……!」


 ライ厶と緑の攻撃をまともに食らっているはずなのに、彼の動きは衰えることなく今もバリアを張り身を守っている緑に剣を振り続けている。

 動きが速い彼の攻撃に堪えるのに精一杯のようで緑の表情に焦りの色が見えたのがわかった。


 その表情を見逃さなかった彼は、掌を前に掲げるとそこから電撃を放ち、バリアを一瞬で破壊させた。


「そんな……っ!!」


「僕、魔法も少し使えるんだよね……!!!」


「きゃぁ……ッ!!!」


 剣を一振して緑を切り付けた。ズシャッという音と共に腹部を切り付けられた緑は痛みのせいか反撃が出来ず身体を震わせその場で立ち止まってしまう。


「やっと一撃当てられましたね」


「……ッ!!みー!大丈夫か!」


 再び緑に剣が振りかざされる前にライ厶が彼に回し蹴りを食らわせ遠くに飛ばす。


「……お、女の子が……足蹴り……っ」


「そういう戦闘法なんだからいいだろう……!!」


 ライ厶が不服そうに叫びながら彼の頭上まで飛び跳ねると後頭部にかかと落としをする。彼はまたもや地面にヒビが入るほどの足技を直で受けたものの体力がまだあるようでライ厶に向けて掌から電撃を放って反撃をした。

 ライ厶は電撃を食らって痺れながらも拳や脚を使って彼にダメージを与え続けている。綺麗なチャイナの戦闘服が所々破けて汗や血を流している所を見ると彼女の体力も徐々に減ってきているのが素人の倭でも伺うことが出来た。

 だがそれでも攻撃を続けているのは恐らく緑に呪文を唱える時間を与えているからなのだろう。


 しかし不思議なのは緑だ。ライ厶が時間を稼いでくれているのに彼女は呪文を唱える所かあの分厚い本すら開かずに佇んでいるのだ。


「みーたん!どうしたんや!?」


「……本が…持てない……彼の剣の攻撃を食らってから……っ、力が、入らなくて……っ魔力を…吸い取られている感じが……するの…」


「よくわかりましたね。この剣で斬られたら、魔力を吸い取られてしまうんですよ」


「そんな……っ」


 緑は身体をガクガクと震わせ今にも泣きそうになっている。ただ斬られただけではなく剣自体に術が掛かっていたようで彼女は魔力を奪われてしまったのだ。


「てめぇ悪趣味だな……!人の得意分野のものを奪っちまうなんてよ……」


「使えるものは使うまでですよ」


 鎖椰苛が罵倒の言葉を投げつけるが全く刺さらず微笑みながら返事をするだけだった。


「……っ、力が……な、い……ぃや……やぁあぁ……ッ!!!」


「みーたん…精神がめちゃくちゃになっとる……このままじゃ次はライっちが……」


「平気だ、下がっていろ!我が一人で相手になる……!」


 緑が混乱し叫び声を上げた。茜がすぐに駆け付けて少し離れた場所まで緑を避難させる。

 これで戦える人物はライ厶だけになってしまった。

 こんな状態になってでも、逃げずに立ち向かうその姿が倭は余計自分を惨めに感じさせられた。


「さや団長、ウチ……包帯とか持ってきてるからみーたんの傷の手当てしとくわ!」


「おう……!オレは携帯ナイフ持ってるからそれライにやるよ!」


 皆がそれぞれ自分の出来ることをやり始めているのに、倭は何もしていない。

 私だけ、何も出来ていない。助けたいのに!どうしたらいいの!と倭は焦燥する。


 必死に考えようと頭を働かせているとグシャッという嫌な音が耳に入ってきた。見るとライ厶の腹部に剣が貫かれていた。


「っ、ぐぁあ…ぁああぁあ……ッ!!!」


「ライ!!!!」


 その剣は勢いよくライ厶の腹部から引き抜かれ、大量の血が飛び散り地面に色を付けていく。彼女はその場に倒れ込んでしまい、苦痛の声を上げながら彼を睨みつけるが反撃をする余裕が無く動けずにいた。


「ふふ……じゃあトドメを刺してあげますね……!」


「……い、や……っ」


 ライ厶は覚悟を決めたのかグッと瞳を閉じた。彼は剣を上に持ち上げると思い切り振り下ろした。


 (駄目だ。何も出来ない。間に合わない。駄目。駄目。

 みどりん、ライちゃん、レイちゃんにこれ以上苦しんで欲しくない。足が動かない。助けたい。怖い)


「だめ……だめぇええええええええ……ッ!!!!!」



 ……。


 目を開けると、一面が光に包まれて温かかった。ライ厶に剣を振り下ろしていたはずの彼は少し遠くに飛ばされていて片膝をついていた。


「ライちゃん……!?」


 ライ厶に駆け寄ると、彼女は何故か無傷で服装もチャイナ服に変わりはないが若干変わっていた。

 それは緑も同じで腹部の傷が消え、服装が違うものになっている。

 何故だろうか。


「クロ、何をしたんだ?」


「わ、わかんないけど……みんなの役に立ちたいって思ってたら……っ」


 目を閉じていたから分からなかったがライ厶曰く、倭が叫んだ直後私を中心に明るい光が広がり、負っていた傷が完治し戦闘服が変わったらしい。

 全然頭が付いていかないが、何か助けになれたのなら良かったと倭は思った。


「倭ちゃん、力湧いてきたよ」


「みどりん!」


「クロは充分役に立っているぞ?ありがとう」


「ライちゃん……!」


 倭を挟んで二人が微笑みかける。先程までの苦しそうな表情が一変して、とても綺麗に見えた。


「レイっちの服も変わってるで!傷も消えとる!」


「でも目は覚めねぇみたいだな」


 振り返ると確かにレイも同様に姿が変わって傷も完治していた。目覚めはしないようで引き続き茜達が様子を見ていてくれている。


 ライ厶はレイの姿を見て安堵の表情を浮かべると彼に向き直って口を開いた。


「どうしてレイをこんな目に遭わせた?任務完了と言っていたが誰かに命令されて来たのだろう。理由はなんだ?」


「……」


 すると彼は自分に勝機がないと確信したのか剣をどこかへ消してしまった。こちらに数歩歩み寄ると少し悩んだ顔をしつつも話してくれた。


「……レイノーラ・ステイブルーを抹殺して連れ出せと命令されました。()()()は優れた魔術師の血を集めようとしているんです。

 ……父親のいない魔術師の」


「レイ嬢が……!?」


「ちっ…!」


 ライ厶は大きく舌打ちをした。何故父親がいないということを敵側が知っているのかは分からないがライ厶も父親がいないのだから今後狙われる対象となるだろう。ただ魔術師だから、という理由では無かったようだ。


「……の…な……い」


「……みーたん?」


「そんなの許さない……!!!」


 緑が初めて声を荒らげた。拳を固く握り、怒りをあらわにしている。よく見れば涙を流していた。


「あたしも……お父さんがいないけど……」


「……みー……!」


「あたしは絶対に血を分けさせない……!!頼まれても絶対……!!そんな酷いことをするなら……全力で阻止するから……ッ!!」


 ボロボロと涙を流しながら怒鳴る緑を見て、これはもう内輪だけの話で済まされない、日常には戻れない程大きな話になってきているのだと理解した。


 そして緑が本を開き、呪文を唱えると彼女の目の前に魔法陣が浮かび上がりそこから閃光を放ち彼を貫こうと一直線に伸びた。


「……そのことなんですけど」


 それだけ言うと、彼は無抵抗でその光を避けることなく身体を貫かせた。まさかの行動に一同が息を飲んだ。

 身体がふらつき、血を吐きながら彼が放った言葉は予想外のものだった。


「…僕、こういうことしたくないんです」


「……は?!どういうことだよ」


「負けを認めて、君達の仲間になります」


「え……」


「長年あの方の元に居ましたが、あの方のやっていることに疑問を抱くようになっていて正直ここに来るのも、そこの女性を抹殺するのも躊躇っていました…。君達の姿を見て、僕は純粋にそっち側に居たいと思ってしまいました」


 散々残酷に戦っておいて今更手のひらを返すとは少し卑怯だと思う。だけど彼がとても嘘をついているようには見えなかった。


「お願いです、僕と一緒にあの方を止めるのを手伝って欲しいんです」


「え……」


「いいよ」


 一同が返答に困っている中、倭は即答で承諾した。

 決断の早さに、まずライ厶が間に入る。


「クロ!こいつは今の今まで敵だったんだぞ!そんなことを言って後で裏切るかもしれない!!」


「私はラヴィッチ君を信じる。

 もし裏切ったら私が貴方を……殺すから」


 倭のキッパリとした言葉に皆が驚いた声を上げていた。それに、今後ライ厶達が狙われるのは確実で戦闘は避けられないのだから味方は多く付けた方が有利だと思ったのだ。


「…いいんじゃないかな?」


 緑も倭の思った事を察したのか頷いてくれた。とりあえずラヴィッチを仲間として受け入れてくれる流れになってくれたようだ。

 茜が彼に近付き、頭をポンポンと撫でた。


「ほな、よろしくな~ちびっこ!」


「僕十八ですけど」


「うそん!!!!」


 茜より数センチ小さいラヴィッチは子どもに見られた事が不服だったのか言葉に怒気を含んだ声音で静かにそう返した。


「あの方はきっとこの様子を遠くから見ています。恐らく近い内に他の手下が僕達の所に来るはずなので僕は隠れて様子を見ます」


 何か動きがあればすぐに行きますと小声で言うと、そそくさに帰ろうと背を向けてしまった。まだ話は終わっていないとライ厶が引き止める。


「おい。()()()とは…どんな奴なんだ」


「……」


 ラヴィッチは足を止めて、少し考える素振りを見せるとこちらを振り返った。


「あの方の名前は、サラン・ジューリエル・アリーシャ。僕達は彼女をサラン様と呼んでいます。仮面を被っていて誰一人として彼女の素顔を見たことがない謎多きリーダーです」


 全く聞いた事のない名前だ。ライ厶と緑の顔を伺うと二人も誰なのか分からないと言った表情をしていた。当然茜や鎖椰苛も知らないようだ。


「そしてサラン様の手下として付いている僕達をアリーシャ隊と呼びます」


「そのまんまやな」


 サランという人だけでなく、その手下までがライ厶達を狙っている。何人いるかも不明だしいつ襲いかかられてもおかしくない状態に恐怖心をおぼえるが、引き下がるつもりは毛頭なかった。

 もう少し組織の話を聞きたかったが未だに目を開けないレイが心配になったのでひとまずお開きにして今日は帰ることになった。


 ―――


 翌日。学校に行くのにいつもの場所で待ち合わせをしていると、レイとライ厶が先に待っていた。


「皆さん、ごめんなさい」


 開口一番にレイが謝罪し頭を下げる。

 それより彼女の怪我は大丈夫なのだろうか。倭が心配で聞いてみると貴女の不思議な力で治してくれたんだもの大丈夫よと微笑まれた。


「…ライムから聞いたわ、昨日のこと」


「!」


「また厄介なことになってしまったわね…。元はと言えば私が負けたのがいけなかったのだけど」


 自嘲気味に笑って溜息をつくレイに、自分を責めるなとライ厶が肩を持つ。


「その事なのだが、今後アリーシャ隊の奴らとの接触は 避けられなくなるし戦闘も増える。我らはあの少年と共にリーダーを止める事に協力していく」


「……ライちゃん」


 彼女がこの先言おうとしていることは分かっていた。戦闘が増え、確実に狙われる自分達の傍に倭や茜や鎖椰苛という一般人がいては危険すぎるという事を言いたいのだろう。


「我はもうお前達を危険な目に遭わせたくないんだ」


「言いたい事はわかるけど、ここまで来て引き下がれないよ、ライちゃん。お願い、手伝わせて?力技じゃ適わないけど、出来ることがあればなんでもするから」


「ウチも、他人事のように思われへんのや。みんな一緒なら怖ないで?」


「オレも必要なら闘う。喧嘩は強い方だからな」


 倭達三人も思いは同じだった。正直怖さは拭いきれないが今更見ないふりなんて出来ない。傍に居て支えたい。


「ふふ……きっとそう言うと思ってたわ」


「みんなで終わらせようね」


 エイエイオーとみんなで一致団結し、学校へ向かう。

 倭は、皆と一緒なら大丈夫。私に出来ることは全力でやろう。そう誓ったのだ。


 ―――


 学校へ歩いて向かう彼女達を、ラヴィッチ()は影から眺めていた。

 サラン様を裏切った事で恐らく僕も狙われる対象になったのは間違いない。だが、後悔はしていないしやはり自分は彼女(こっち)側の人間になるべきだと思った。


 中心になってニコニコ笑っている一人の人物を見る。


「……黒花、倭……。僕は、()()()()()()に会っているのかもしれないよ」


 そう我ながら意味深に呟き、身を潜めた。


 ―――


「ラヴィったら家出しちゃったのね♡反抗期かしら♡」


「どうやったらそんな考えになるんです、サラン様」


 アリーシャ隊(この組織)からラヴィッチ君が抜けてしまった。サラン様はどうしてか嬉しそうな口振りでいるが()()()にとっては別にどうでも良かった。


「貴女を裏切って情報をバラされているのですよ?」


 サラン様の隣にいる男は当の本人よりも焦りや憤りを感じているようで怒りをあらわにしている。それはサラン様に対してなのかラヴィッチ君に対してなのか、はたまた両方になのか。

 そんな正反対な態度の二人に近付きリーダーの名前を呼んだ。


「サラン様」


「あら、()()。どうしたの?」


「あたし、アイツらの中でどうしても一人だけ潰したい奴がいるんで個人的に殺ってきてもいいですか」


「それが貴女がここに入ってやりたかった目的だもの、いいわよ♡ただ、まだ様子を見たいからもう少し待っててくれるかしら?」


「はい、良い時言ってください」


 サラン様の許可も貰った所で彼女の部屋を後にする。手のひらを広げ、そこに小さなモニターが浮かび上がる。

 あたしが憎くて大嫌いで殺したいとずっと思っている女。


「……優紀茜……コイツだけはあたしが……」



ラヴィッチが仲間になった!

アリーシャ隊を止めるぞ、という所で第一章区切ろうと思います!

ここからまだまだ登場人物が増えていきます!


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