4月25日
気が付けば倭は見知らぬ場所にいた。真っ暗で目を開けているのに何も見えない。先程まで普段通り自宅にいたはずなのにここはどこなのだろう。
「暗いよ…ここどこ……」
わけも分からず辺りをキョロキョロ見渡し手探りで道を進んでみる。段々と目が暗闇に順応してきたのかぼんやりと薄暗く周りを確認することができた。
どこかの建物の中のようだ。だが確認できるのは机や椅子、テーブルなど殺風景な物しか無く場所の特定ができない。
少し歩き続けると目の前に扉が現れた。出口かと安堵したが同時に不安が過ぎる。こんな誰もいない場所で謎の扉。
「なんか死亡フラグ立っている気がする……」
この扉を開けたら起こりそうな出来事を瞬時に考える。
①開けたら何者かが襲ってくる
②開けたら物が倒れて押し潰される
③開けたら誰かが待ち構えている
④開けたらブラックホールに繋がっていて引きずり込まれる
どれも非常にまずい展開だがこのままここで待機するのも体力と精神力の限界が来てしまう。とりあえず少しだけ扉を開けてみて確認しよう。何か行動しないとずっとこの状態だ、それは勘弁である。
深呼吸を数回して震える手でドアノブをギュッと掴んだ。ガチャッと小さく音を立てドアを少し開け、薄目で向こう側を確認してみる。
どうやらそこは小さな個室のようで部屋の中央にある古びたソファに幼い顔立ちの少年らしき人が座っていた。
即座に扉を閉め、心の中で叫ぶ。
(③だ!!!明らかに待ち構えてるよ!!!)
襲って来るのではないかと思い恐怖で呼吸が浅くなったが、何故か倭は彼の姿をもう一度見てみたいと思ってしまった。勝手な想像だが待ち構えて襲いかかろうとしている割には悪そうな感じがしなかったからだ。
再びドアノブに触れ、そっと開ける。先程の少年は変わらずソファに座り、俯いていた。
顔立ちが幼く、倭より何個か年下のように見える彼は、レイのような綺麗な水色の髪の色をしていて猫耳の様なものを生やし口元を見ると牙も確認できた。淡い黄色のニットを着用し胸元に小さく赤いリボンが付けられていた。
可愛らしいな、と率直に思った。だが彼は表情が暗く悲しんでいるように見えた。
とりあえず話しかけられる余裕が無かったので一旦引き返して別の出口を探すことにした。
「怖すぎるんだけど……!こ、こんなときは好きな歌でも歌って気を紛らわそう……!」
気分だけでも明るくしていこうと好きなアーティストのポップな歌を口ずさむ。
―ピシャアァアアアア……ゴロゴロゴロ……!!!!
即座に倭の歌声を遮るかのように雷が落ち大雨が降ってきた。
さすがにメンタルが駄目になってきたかもしれない。不運なことに常に常備している携帯は無いし公衆電話らしいものも見つからない。誰に連絡するにも手段がないのだ。ハッキリと言ってしまえば打つ手なし。
項垂れながら一本道を歩いていくと少し先に扉があることに気が付いた。その扉のすぐ横には窓があり雨粒で濡れていることから外に出られるのだと確信し無我夢中で走った。
その時突然目の前に壁が立ちはだかる。ブレーキが利かずぶつかった衝撃に顔を歪めたがその壁には自分の姿が写っていて大きな鏡だと後から理解した。
何故いきなり鏡が、と若干の苛立ちをおぼえるが自分が写るその鏡にもう一人見知らぬ人が写りこんでいることに気がついてしまいハッと息を飲んだ。
髪の毛が異常に長く地面に触れるほどまでに伸びていて白いワンピースを身にまとっているその姿はまるで日本の典型的な幽霊を連想してしまい身体がピシャリと動かなくなる。そしてそれが鏡越しに見えるということは倭の背後に居るということになる訳だ。
ホラー映画の見どころシーンかのようにゆっくりと後ろを振り返ると予想は的中で顔面が血塗れになった女性が倭の背後でニタニタと笑みを浮かべていた。
「ぃやぁああああああッ!!!!!」
……
という所で目が覚めた。先程までいた場所とは打って変わって日差しが部屋を明るくし、雀の可愛らしい鳴き声も聴こえた。
かなり汗をかきパジャマがじめっと湿っていて気持ちが悪かった。頬を触ると涙の跡でカサカサしていた。
「夢オチ多いよ~…………っ」
この間のライ厶達が闘っている夢といい妙にリアルすぎて心臓が止まりそうだ。まだ眠っていたかったが時計を見ると起床時間間際だったので重たい足取りで学校に行く準備をした。
―――
現在いるこの場所が何処なのか見当がつかない。そして目の前にいる女の詳細も分からない。何一つ分かることがなく悔しさと苛立ちで繋がれた両腕の鎖が重たく金属音を鳴らした。
ライムは一瞬の気の緩みでこの女に捕まってしまった。どこかに連れ込まれ身動きが取れないように両腕を頭上に纏められ手錠を掛けられている。どうやって切り抜けるべきか頭を働かせとりあえず対等に会話ができる相手なのかどうか試すべく声を掛けた。
「おい、いつまでこの体勢にさせるんだ」
「ん?まだそのままだね」
優勢なのが分かりきっているからか上機嫌に返事を返してくれたが憎くてたまらない。恐らくこの手錠はライムの力で破壊することができる。だが彼女との距離が近いのですぐに囚われてしまうのが目に見えてわかるのだ。
「我を殺すなら好きにするがいい」
「……へぇ」
あえて挑発するように吐き捨てる。その言葉に気を良くしたのか、そうかいそうかいと頷くと手持ちの剣を背中から引き出し刃先をライムの首元に突き付けた。
「じゃあ……逝ってもらおうかい」
「……っ!」
ショートカットの髪を小さく揺らしながらギラギラとした瞳で我を見つめてくる。桃色の髪色で一見可愛らしい雰囲気だがやっている事は至極最低だ。
「……と思ったけどまだ殺らないよ」
再びライムに背中を向けて目の前に大きなモニターを映し出す。そこには平穏に授業を受ける倭の姿があった。
ここが何処なのかも分からないし、助けも呼べない。
ライムは考えた。自分の正体を倭達に知られてしまったら。
――この日常は崩壊する――
だったらライムがここで死ねばいい。そうすれば何事もなく終わる。
(すまぬ……我はもう、戻れぬ……)
―――
「ライっち、今日どしたんやろな」
「こないだも階段から落ちたっつってたし、体調悪いんじゃねぇの?」
「心配だね……」
放課後になりいつものメンバーで下校中。
先生からライ厶は今日無断欠席していると告げられ何かあったのかと不安になっていた。
倭達も携帯でメッセージを送ってはいたが誰一人既読にもならずもちろん返事は返ってこなかった。
すると歩道を歩いていると突然目の前に大きなモニターのようなものが出現した。驚いて後ずさるがそのモニターに映し出されていた人物に思わず声を上げた。
「ら……ライちゃん!?」
「ライム!?」
レイが普段聞けないような驚いた声を発する。
モニター上のライ厶は両腕を上に上げられ拘束されたまま黙って瞳を閉じていた。
「どこにいるの…ライムちゃ……ッ!?」
緑がモニターに触れると手が画面に溶け込むように埋もれて見えなくなった。なになに?と茜が興味深そうに一緒に触ると同じ様に埋もれた。
「……入れるのか?どういうことだよ」
「……行きましょう」
レイは躊躇わずその中に入っていった。姿は画面に溶け込んで消えてしまったのでやはり侵入することができるようだ。
「ま、まって!レイちゃん!」
目の前の魔法のような出来事に頭がついて行かないが、ここに入ればライ厶に会えると確信したので倭達も跡を追うように飛び込んだ。
飛び込んだ先は何も無い真っ白な空間。
その先に、モニターで見た通りライ厶が立ち膝で俯いていた。
「ライちゃん!!!助けに来たよ!!!」
倭の大きな声にやっと気付き、パッと顔を上げた。
その顔は憔悴しきっていて、だけど倭達が来たことで少し安心したのか表情が和らいだ。
「なんで来たんだ……ッ!!!!」
だがすぐに険しい表情に戻り逆に突き返される。
今すぐそちらに行って拘束具を外してあげたいが隣の女性に制される。
「ふふ、紺野ライムはね……あたしにまんまと騙されたのよ」
「あんた誰や!?」
「まぁまぁ続きを聞きなよ」
ショートカットの髪型、口元に黒子。全く知らない人だった。
女性は茜の質問に答えることなく話を続ける。
「コイツ、お父さん死んでていないんだよね。だから生き返らせたい?って聞いたらまんまとついてきちゃってさ~!
あっはははは……!ばっかじゃないの?死んだ奴なんて生き返るわけないじゃんね!!っははは…!!」
「うるさい……余計な事を話すな……ッ!!!!」
どうやらあの女性の言っている事は事実のようでライ厶が鬼の形相で叫ぶ。
ライ厶のお父さんが亡くなっている事は初めて知った。彼女から告げられることも無かったし、だが家庭の事情なのだから言いたくなかったのだろう。他の皆も驚いた顔をして立ち尽くしている。
「貴女の目的はなんですか…?」
緑が静かな口調で問いただす。相手を逆上させないように冷静な態度を保っているのだろうか。
「あはっ、簡単さ。あたしより強いヤツがいたら気に食わないから殺してやるってだけだ、よ……!!!」
「っぐぁ……ッ!」
「ライ……ッ!!」
女性が話し終わると同時にライ厶の腹部に蹴りを入れた。無防備に拘束されたままのライ厶はそのまま痛みを受け入れることしか出来なかった。
「あははははっ!そうそうその面!いい顔するねぇ!」
「……貴女、名前はなんて言いますの?」
レイが怒りを抑えつけるように拳を固く握り締めながら何者なのか質問した。ライ厶に惚れたと以前言っていた位だから危害を加えられて腹を立てているのだろう。
「あたしの名前かい?姫川 祐々希だよ」
「はぁ!?てめぇなんて乙女みたいな名前してやがんだよ今すぐ改名しろよ!!」
「う、うるさいね!!さりげなく失礼なこと言うんじゃないよ!!」
多分ここにいる全員が鎖椰苛と同じ事を思っていたであろう。代表して突っ込んでくれてそれに姫川という人も乗って少し場が和やかになったが何も解決していない。
そもそもあの人は強い力を持っている。あのモニターも彼女の魔法で作られた物だということはわかった。映画の世界のような展開にどうしたらいいかわからない。
膝が震え恐怖に堪えていると倭の真横をレイがスっと通り過ぎ前に出た。
「……レイ」
「……大切な貴女を助けるためだもの、隠していられないわ」
レイが静かに右腕をふわりと上げると彼女自身にノイズのようなものがかかり、制服姿からドレスのようなワンピース姿に変化した。
「……えっ?」
思わず声に出てしまった。その姿は倭が先日見た夢の中のレイと同じ格好をしていたからだ。そして一瞬で早着替えをした手早さが魔法のように見えた。
「さっさとライムを返しなさい……!」
レイはどこから取り出したのかトランプのようなハートマークが描かれたカードを姫川に投げ飛ばした。それは弧を描き姫川の頭上で大きく爆発し煙を上げた。その衝撃で爆風が起こり身体が持っていかれそうになるのを緑が私を抱き締め防いでくれた。
「最初の死人はあんたかい、レイノーラ・ステイブルー……!」
「気安く私の名前を呼ばないでいただけるかしら……!」
レイが黒煙の中にカード数枚を再び投げるとそれは光を放ち花火のように色鮮やかに燃え盛った。
今更だがどうしてレイは魔法使いのように変身をして常人離れな不思議な力を発動して闘えているのだろうか。
それに茜や鎖椰苛は倭と同じように何が何だかわからない展開についていけない状態なのに、ライ厶は何故か冷静で。
まるで最初からレイが魔法を使えていることを知っていたようにも感じて。
「さすが強いねぇあんた!でも、こうしたらどうかなぁ?」
「……ッ!?」
レイの攻撃をそれなりに受けていた姫川は口から垂れた血を手の甲で無造作に拭うと、ライ厶を無理やり立たせ彼女の胸の前に自分の手のひらを翳した。
するとそこから光が灯され灼熱の炎のように燃え上がった。
「あんたがあたしに攻撃したら、コイツを殺る」
「……っ、卑怯よ……ッ!」
「じゃああんたがくらいな!」
「っ、きゃぁああぁぁあ……ッ!!!」
姫川の手がレイに向けられると瞬時にそこに宿されていた炎は彼女に襲いかかり吹き飛ばされた。
「レイちゃん……!!」
レイはそのまま地面に強く叩き付けられ痛みで動けなくなったのか蹲ってしまった。頼みの綱と言える人物が戦闘不能になってしまいいよいよ焦りが込み上げてくる。
次に狙われるのは……。呼吸が苦しくなった。
「みー!!行け!!!!」
「……うん」
倭の身体を安心させるかのように抱き締めてくれていた腕が離れていたことに今気付いた。ライ厶が緑を呼んだことに驚きバッと後ろを振り返るといつもの制服姿ではない別の衣装を着た彼女が分厚い本を開いて片手で持ち、そこに佇んでいた。
緑が頷いた直後に辺りは薄暗くなり上から鋭い雨のようなものが降り注ぎそれは全て姫川を突き刺した。
「っぐ、ぅうう……ッ!」
さすがの姫川も彼女からの反撃を予想していなかったのかダメージをモロに受け、身体の様々な所から血を流していた。
「み、みど、りん……?」
「倭ちゃんが驚くのも当然だよね……って、あっかも鎖椰ちゃんも……。あたしもライムちゃんもレイさんも……魔術師なの」
「ま、じゅつ、し……?」
思わず緑が言った単語をそのまま復唱してしまった。そのくらい、倭の出来の悪い頭では理解できなかったからだ。
もちろん冗談で言っていることではないことはわかっている。今までの出来事が全てを証明している。
「……なぁ、魔術師って漫画とかでよくあるヤツだよな?」
「せやで……ウチらの友達にそんなすごい人がおったなんてな」
「倭さん、茜さん、鎖椰苛さん。隠していてごめんなさい……」
脇腹を抑えながらレイがゆっくりとした足取りで私たちに近付き謝る。近くで見ると怪我の範囲が広すぎてかなり痛々しかった。
「……やっぱりあれは夢じゃなかったんだね」
「……あぁ。あれは現実だ」
呆気なく夢ではなかったことを肯定され口を噤む。ライ厶の額の包帯やガーゼも階段から落ちた訳ではなく戦闘で出来た怪我だったのだ。
倭とは世界が違いすぎて身を引きそうになったが、同時に受け入れたいとも思えた。
「我らの正体を知って恐れただろう、この戦闘が終わったら距離を置いても……」
「私は受け入れるよ」
少し離れた場所にいるライ厶の突き放す言葉を遮って私の気持ちを正直にぶつける。
確かに驚いたが、だからなんだと言うのだ。
「魔術師だからとか、関係ないよ。離れる理由にはならない。何年一緒にいると思ってるの?そりゃあレイちゃんとはまだ知り合って間もないけれど。みどりんはみどりん。ライちゃんはライちゃん。レイちゃんはレイちゃんで……私の大事な友達に変わりはないでしょ…っ…?」
長々と話し続けながら涙ぐんでしまった。えぐえぐと服の袖で涙を拭っているとポンっと誰かが倭の頭を撫でた。
「せやで。魔術師ってだけで友達切るなんてありえへんやろ」
「むしろかっけーじゃねぇか、誇りに思えよ、そんな特別な力持ってんだから」
鎖椰苛も私の肩を叩き、三人にそう伝える。皆思う事は同じだ。
「……あのさぁ、勝手に青春ごっこ始めないでくれないかねぇ……!!!」
「!?倭ちゃん危ない……ッ!!!」
姫川を無視し話し込んでいるのを好機に鋭い波動のようなものを倭に向けて放ってきた。
咄嗟に倭を守ろうと緑が前に出て、その攻撃をモロに食らった。鋭いそれは緑の首を思い切り切り付けた。綺麗に切れ目が入りそこから血を溢れさせる。彼女がゴフッと噎せ返ると口からも大量の血を吐き出し前のめりになった。
血の匂いと首の傷がグロッキーで思わず嘔吐きそうになるのを堪え、緑の肩に触れようとするとゆらりと上体を起こした。
「…ターゲット、姫川祐々希」
いつものおっとりとした口調ではないことに違和感を感じ斜め後ろから緑を伺う。すると彼女は瞳からハイライトを失わせ無表情で両手を広げそこにぼやんと薄黒い火の玉のようなものを浮かばせ姫川にそっと振りかざした。
それは姫川を囲うように足元で円を作るとゆらゆらと舞い上がり大きくそびえ立ち一瞬で彼女の身体に襲いかかって包み込む。
「ぅあああぁあああ……ッ!!!」
ただ包まれるだけではなかったようでザシュッという切り裂く音と共に苦痛の声が聞こえてきた。
その炎はふわりと消えると、全身血塗れの姫川が苦しそうに倒れていた。相当なダメージを受けたのだと辺りに飛び散る血がそれを物語っている。
そして緑も、炎が消えたと同時にその場に倒れ込んでしまった。レイが駆け付け、掌から穏やかな光を灯すと緑を包み込んだ。どうやら傷を癒す魔法のようで少しずつではあるが首の傷が癒えて行くのがわかった。
あの冷酷な目をした緑を初めて見た。彼女は魔法を使うとあのようなまるで生気のないアンドロイドみたいになるのだろうか。
「オレのダチをこんな目に合わせやがって……なぁ、レイ嬢、気付いてるよな?」
「えぇ、もちろんよ」
二人が頷き合うと鎖椰苛は姫川に近付き見下ろしながらヒールで踏み付けた。
「何しちゃってんだよ、姫川センセー」
「えぇ!?!?」
「コイツは二年の英語教師だ。つっても最近まで休職してたから途中まで誰だか思い出せなかったけど」
予想外の展開にまた置いてけぼりにされそうだった。この人は鎖椰苛とレイの学年の先生。だとしたら尚更どうしてこんな事を仕出かしたというのか。
姫川は意識はあるようで鎖椰苛に踏みつけられながら途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「……あたしはね、アンタらみたいな年頃のガキが嫌いなんだよ……調子に乗ってうざくて。あたしにはたまたま能力があったから、それでこの学校で一番強そうな奴を呼び出してぶっ飛ばしてみようって思って」
「いやそれ教師の言うセリフちゃうやん!!!!」
「う、うるさいね!!もうしないし懲りたからさっさと帰れ!!」
動悸がめちゃくちゃすぎる姫川先生に一同が呆れた。しっしっと追い払う姫川を無視して未だに拘束されていたライ厶の傍に行き手錠を外してあげた。
「ライちゃん……!大丈夫!?」
「あぁ……我は特に問題ない。それよりもすまなかった…」
「大切な友達なんだから、勝手に居なくなったらダメだよ。ライムちゃん」
ある程度傷が癒えた緑が首をさすりながらライ厶を優しく叱る。どうやら普段通りの彼女に戻ったようだ。
「我ら魔術師はともかく、クロ達に怪我がなくて良かった…。今後何かあったら必ず我らが守ってやるから安心してくれ」
「ありがとう!」
驚くことが多すぎて頭がキャパオーバーしているが、受け入れていこうと思う。
ただ、闘いで友達がまた傷付いてボロボロになる姿はもう見たくないとも思った。
果たして平和な日常は倭の元に帰ってくるのだろうか。
―――
「ふふっ、やっぱり強いわね。彼女たち」
「そりゃあ魔術師ですから強くなくては困ります」
とある館の一室。
戦闘を繰り広げていた魔術師達をモニターで観察しながら能力の高さに感心している目の前の男女の姿を少し離れた所から見ていた。
僕の存在に気付いていないのか無視しているのか、呼び出した割には何も話をしてくれなくてどうしたらいいのかわからなくなる。
「私が気になるのはね……この水色の魔術師かしら」
「そうですね、私も気になります」
「だから貴方に命令するわ、ラヴィ。レイノーラ・ステイブルーを抹殺してここに連れて来なさい」
「!」
女王の部屋に呼び出される位だからいよいよ命令されると覚悟はしていた。さっきまで彼女は隣の男と話し込んでいちゃついていた癖に突然女王の顔をするのだから掴めない。
結構前からあの魔術師達のことは僕らもモニター上で観察し続けていたがこうして女王から指令を受け行動に出ることになるのは僕が初めてになる。
どうして僕を選んだのかが分からない。彼女の考えている事が全く理解することができない。
「……はい」
二つ返事だけしてくるりと踵を返し部屋を後にする。足取りは重かった。女王の目的の為に僕も強くなったのだから戦闘は特に問題ないはずだ。
「出来るのか?貴様に」
廊下を歩き自室に戻ろうとすると先程の話を盗み聞きしていたのか、銀髪の青年が僕に突っかかってきた。
「本当は嫌なんじゃないのか、戦うのも…命令に従うのも」
「……君はどうなんだい?」
「俺か?あの方が満足する結果を出すだけだ」
彼は僕と違って堂々としている。自慢のサラサラな髪の毛をなびかせながらそう答える彼が少し憎く感じた。
「僕だって……やって、みせるさ」
拳をぎゅっと握り、自分に言い聞かせるように呟いて彼の横を通り過ぎた。
本当に出来るのか?戦闘を恐れている訳では無い。僕が恐れているのは女王だ。
先程僕は女王が考えている事が分からないと言った。それが怖いのだ。
――だって僕は女王の素顔を見たことがないから――
登場人物がどんどん増えていきます。
最後だけ僕っ子少年視点でした。
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