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4月2日

 時は少し戻って4月。

 入学式を終え、ドキドキのクラス発表の日。

 少し緊張した面持ちで廊下に名前のリストが貼られるのを、倭は親友の緑とライムと茜と一緒に心待ちにしていた。

 彼女達とは小中学生の頃から親しく、この稿志涼高校(こうしりょうこうこう)にも皆で絶対入ろうねと約束し必死に受験勉強をして無事に全員合格する事ができたのだ。

 あと重要なのは同じクラスになれるかどうかである。

 そわそわと落ち着きなく廊下で待機しているとすぐ横から鎖椰苛が顔を覗かせてきた。


「オレんとこはもう張り出されてたぞ。二ーAだった」


「ほぅ、Aか。玄関から近くていいな」


 いいなと思う部分そこなのかと思わずライ厶に突っ込みを入れたくなったが倭の頭は何故か思考停止していた。


「あれ!?さやんきー2年生だったっけ!?」


「はァ!?今!?今知ったのかよそれ……!?」


 物凄い形相で倭を睨み付けてくる彼女に、なんとなく同年齢のイメージがインプットされてと正直に答える。

 今更だけど確かに鎖椰苛は入試の時一緒に居なかった。ごめんごめんと謝るがこちらを睨みつけるその視線は緩むことなく少し怖気付いてしまった。


「まぁまぁ、勘違いや思い込みは誰にでもあることだよっ。だから落ち込まないで?倭ちゃん」


「うぅ……みどりん優しい……」


 緑がいつものふわりとした表情で倭を励ますので心が温まる。

 すぐ隣でライ厶も、我はちゃんと知っていたからなと鎖椰苛を宥めていた。


「団長、今日はちゃんと制服着てるんやな」


「ん……まぁな。たまにはちゃんと着ていけって親がうるさくてな」


「メッシュとイヤーカフスは死守したんかい」


 茜が話を逸らすように鎖椰苛の服装について突っ込んでくれたお陰で彼女も少し穏やかな表情に戻ってくれた。

 そう、鎖椰苛は普段からいかにもヤンキーですと言わんばかりの学ランジャケットに中はパンクなシャツを着て過ごしている。

 そんな彼女がしっかりとブラウスにニットカーディガンを着用している事に驚きを隠せない。

 彼女を説得させられる両親は怖いタイプの人なのだろうか。


 そうこうしているうちに各教室の廊下の壁にクラス発表の紙が張り出された。皆で緊張しながら名前を確認しに行くと一-Cの名前欄に、何と倭達全員の名前が載っていて思わず抱き合って喜びを共有した。

 これで私の学園生活はより楽しいものになる。そう確信して倭はつい頬が緩んでしまった。


 そして迎えた放課後。

 本格的な授業は次週からなので軽いオリエンテーションや自己紹介、各教室を案内されあっという間に帰宅時間になった。


「みんな同じクラスでほんとに良かったよね!」


「席も近かったしな」


「ふふ、嬉しいなぁ」


「あー、また早起きしたりだりぃ生活すんのか……」


「団長てクラスに友達おるん?」


 これからの学園生活を想像してはみんなで笑い合っていた。勉強は得意ではないが俄然通うのが楽しみになり頑張ろうと倭は心に誓った。


 すると前から見知らぬ女性が走って来る事に気が付く。特に気にすることなく談笑を続けているとその人は明らかに不自然に倭にぶつかって来た。


「ぃたっ!」


 完全に気が緩んでいた為そこまで強い衝撃ではないのに尻もちをついてしまった。

 しかしおかしい、倭達は普通に歩道を歩いていたが人がすれ違うには充分な間隔があったのだ。

 走っていた位だから前をよく確認出来ないほど急用で急いでいたのだろうか。

 大丈夫!?と真っ先に緑が倭に声をかけ顔を上げるとハッとした顔の女性がこちらを見下ろしていた。

 その女性の髪色は透き通るような淡い水色で腰まである長髪を風になびかせていた。

 あまりにも綺麗で見とれてしまっていると茜が、やまピー立てるん?と手を差し伸べてくれ我に返った。


「あ、あの……すみませんでした」


 ぶつかった原因は倭自身にもあったのだろうととりあえず謝罪すると女性はクスッと挑発するように笑いその場を立ち去ってしまった。


「なんだ今の、愛想わる」


 鎖椰苛が聞こえるように言葉を放つが聞こえないフリをしたのか本当に聞こえていないのか構わずあっという間に姿も見えなくなった。


「……」


「……っ」


 その場にいた緑とライムが何故か険しい顔付きで佇んでいたがあの女性の態度に腹を立てているのだろうと解釈して敢えて問わなかった。


 ―――


 その日の夜、倭はふと目が覚めた。

 部屋に掛けられた時計を確認すると時刻は短針が一の文字を少し進んだ位置にあった。


「あぁ……まだこんな時間か……良かった」


 まだ眠っていられる事に安堵し再び布団を被ろうとしたが窓の外の違和感に気付いた。

 カーテンはかかっているが、その隙間から閃光のような物が漏れて見えるのだ。

 雷かと疑問に思うがそこから聴こえてくる音がソレとは明らかに違うことに気付かされる。

 まるで何かを叩いているような重だるい音や閃光の直後に聴こえてくる轟音。

 不安と少しの好奇心でカーテンをゆっくりと開けた。

 すると私の目に映ったのは。


 ―――ライ厶と、今日出会った無愛想な長髪の女性が闘っている光景だった―――


 ライ厶はチャイナ服のような格好で他人の家の屋根を軽快に飛び跳ねながら女性に殴り掛かっている。

 そしてその女性もドレスのような格好で軽々とライ厶の攻撃を躱しつつカードを投げ付け、それを爆発させた。

 魔法のようで、余りにも現実離れしすぎた光景に目が離せなくなっていた。


「ライちゃん……ッ!?」


「っ!?」


 どうしてライ厶がここに居るのか。どうして普通に跳んだりできるのか。何故今日会った女性と闘っているのか。何者なのか、理由は。怪我をしているが大丈夫なのか。

 聞きたいことが山ほど浮かぶが纏めきれず倭は窓を開け彼女の名前を呼ぶことしか出来なかった。呼ばれた本人は一瞬こちらを振り返りまるで見られたくなかったかのような焦燥した顔をして立ち止まった。


「ふふ……余所見はいけないわよ?」


 その一瞬の隙を見て長髪の女性が再びカードをライ厶に投げ付けると先程と同じ様に大きな轟音と共に爆発し黒煙が上がった。


「な、なに……何が起こってるの……」


 爆発に巻き込まれたライ厶はどうなってしまったのか。衝撃で黒煙が上がり続け火花のようなものが飛び散っているのが見えた。同時に煙独特の鼻をつくような臭いに噎せそうになり涙目になる。


「やったわね」


 姿は見えないが満足気な長髪の女性の声が聞こえ、ライ厶は死んでしまったのかと不安を掻き立てられた。

 どうすればいいのだろう。救急車?警察?もしかして私も狙われる?友達に電話して助けてもらう?親に言う?

 心臓がバクバクして痛みで張り裂けそうだ。身体が動かない自分が悔しい。


「それはどうかな」


「「っ!?」」


 思わず女性の驚く声とシンクロしてしまった。

 少しずつ煙は巻かれ、二人の姿を確認することができた。ライ厶は女性の背後に回り、腕を後ろに拘束させ身動きを取れなくさせていた。

 無事だったと安心したがライ厶の額からは多量の血が流れて顔の輪郭を伝っていた。あの爆発に巻き込まれ流れたものだろう。冷静な口調と澄ました顔だがダメージは大きいに決まっている。


「……っ、く、いつの間に……」


「まぁ昔から母上に伝授されていてな」


 長髪の女性は初めて余裕そうな笑顔を消し、悔しさに顔を歪ませていた。


「目的はなんだ」


「……特にないわよ。ただ(わたくし)と同じ魔術師の気配がしたからどんな実力を持っているのかとお手合わせ願っただけ。もう降参するわ」


 ふ、と目を閉じ負けを認めた彼女の言葉全てに疑問を抱く以外なかった。彼女の言っていることが何一つ理解できない。


「……っと、それよりまず()()を……」


 ライ厶が倭の名前を呼び、女性を拘束していた手を離した。

 そしてこちらへ向かおうとするがあの女性が一枚のカードを手に持っているのが見えてしまった。


「隙ありよ!!」


「ライちゃん後ろ……ッ!!」


「……っ!?」


 そこから倭の意識はシャットダウンした。

 ただ意識が無くなる直前、分厚い本を持ちながら何かを叫ぶ緑の姿が見えた気がしたが追求する事は出来なかった。


「……はっ!?」


 そして次に目を覚ました時、倭はしっかり布団に入っていてカーテンも窓も閉められていた。

 確認の為窓を開けてみたが昨夜ここで闘いが繰り広げられていた形跡は全く無かった。

 どうやらリアルな夢を見ていたようだ。


 ―――


「おはようあっちゃん、さやんきー、みどりん!」


 朝の登校時間。いつものメンバーで待ち合わせをして学校に向かっている。


「おっは~!今日もやまピーは可愛ええなぁ!……あ、団長もかっこかわええで?」


「はぁ!?うぜぇこと言うんじゃねぇ、あとその呼び名なんとかしろ!!」


「まぁまぁ、鎖椰ちゃん」


 緑が鎖椰苛を宥めていると背後からおはようと簡潔な挨拶の声が聞こえた。

 振り返るとライ厶だったが額にはグルグル巻きの包帯、頬にはガーゼが貼付されていた。


「ライっちどしたん!?」


「ちょっと階段から派手に転げ落ちてしまった」


「え、ライでもんなことあるんだな」


 やってしまったと後頭部をわしゃわしゃ掻きながら苦笑いをするライ厶の姿に昨日の事を連想してしまった。

 だがしかしあれは夢で、きっと彼女が転んで怪我をするという予知夢でも見たんだろうと納得し心の中で留めておいた。


 ―――


 放課後。皆で下校する為、玄関口で待ち合わせをしていた。

 後は鎖椰苛が来れば帰れるのだが今日は少し降りてくるのが遅い。


「あっ、団長きたで」


 茜が一番に気付いて倭も廊下の先を見つめた。

 すると彼女の隣には昨日倭にぶつかって来たあの女性が何故か一緒に歩いていた。

 ヤンキーとモデル並みなスタイルの女性が共に歩いているだけで周りからざわめきが起こっている。


「は?」


「えっ」


 ライ厶と緑も不思議な顔をしている。

 鎖椰苛は倭達の元に辿り着くと彼女も彼女で何でこうなっているかよく分からない表情をして口を開いた。


「いや、なんか今日オレのクラスに転校して来たんだけど……ライに会わせろって言うから」


「レイノーラ・ステイブルーよ。昨日はぶつかってごめんなさい」


 少し顔を傾け謝罪するその姿も上品で絵になってつい固まってしまった。昨日のあの場では無愛想に立ち去られたがこうしてきちんと謝罪してもらえた事から悪い人ではないのだろう思った。

 鎖椰苛のクラスに転校して来たということは彼女は高校二年生というわけか。自分と一つしか歳が違わない事に悲しくなってしまった。


「私は黒花倭。よろしくね、レイちゃん」


「えぇ、よろしく。倭さん」


 各々簡単に自己紹介を済ませるとレイはライ厶の方に近付いた。この二人が並ぶと存在感とオーラが凄まじい。


「ライムって言うのね、貴女」


「……な、なんだ」


「そんなに警戒しないで、緑さんも」


「……しょ、初対面だから緊張してる、だけ……」


 何故かここだけピリピリした空気なのはどうしてだろう。まぁ緑の言う通り初対面なのだから打ち解けにくいのはわかるが。


「貴女の姿に一目惚れしたわ。傍で支えさせてほしいの」


「ちょ……!?それってプロポーズやないの!!レイっち!!」


 茜が囃し立てるがその発言は確かに誤解を招きかねないと思う。昨日あの場でぶつかった時にライ厶を見て気になってしまったのだろうか。ライ厶は背も高いし立っているだけでも目立つし凛々しいし好きになってしまうのも納得だ。


「そう取ってもらって構わないわ、事実だもの」


「とんでもない奴に好かれたな、ライ」


「はぁ……」


 ガクリと項垂れるライ厶を鎖椰苛が他人事のようにからかう。だがそう言ってくれたおかげでこの場の空気が穏やかになったのは事実だ。

 所で昨日見たあの夢は、レイと友達になれるという予知夢でもあったのだと解釈し我ながら凄い夢を見たと感心してしまった。



レイが仲間になった!

全員揃ったところでのんびり学園ライフを送っていきます。果たして平凡に過ごす事ができるのか!?


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