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11月25日

 

「どうして貴女が残ったの?」


「説得して一緒に帰るため、ですよ」


 皆がバタバタとこの場を後にして緑はサランを見つめる。

 彼女はどうしても帰る気はないようで冷たく私は帰らないと突っぱねられてしまった。

 だがここまでは想定内。これで呆気なく脱出してくれるならとっくに先程の時点で一緒に帰っていたはずだ。


 緑は鎖椰苛が落として行ったナイフを手に取ると、それを敢えて自分の首元に突き付け横に切った。


「……っ、ちょっ……なにして……」


 予想外の行動にサランが目を大きく開けて動揺している。

 緑の首からは血が溢れ一瞬ふらつくが何とか保った。

 自分自身に()()()()が憑依してくる感覚に襲われる。

 これは今までの戦闘でも度々起きていたアクションで、それを故意的に発動させたのには理由があった。


「……残されたコーク・パブリック達はどうすればいい?貴女に仕えてきたアリーシャ隊の人達は?貴女は彼らの母も同然。サランまで居なくなってはいけない」


「……緑たん」


 サランは緑の口調が変わった事に何かを察した。

 そして気付いて欲しかった言葉を紡ぐ。


「……いや、()()ね。どうして緑たんの中にいるのかは分からないけど、ずっと探していたのよ?」


 そう、緑の中にいるもう一人の人物とはサランの母親だったのだ。

 当初は知らなかった。自分ではただの二重人格が住み着いているだけという感覚だったが、アリーシャ隊と戦闘を交えた後半の頃に正体を告げられたのだ。


「父様はどうしたの?私は……居なくなった母様も憎いけど父様が一番憎いのよ」


「…あの人は私が殺した」


「……え……っ」


 予想通りサランは動揺していた。


「サランはあの人のせいで閉じこもってしまった。私だって許せなかった。愛する我が子に消えない傷を負わせておいて、何の反省もしていない姿が許せなくて殺めた」


「じゃあ、どうして母様は……」


 どうして他人の身体の中にいるんだと聞きたいのだろう。

 その問いに対し、()()()()()()()()と答える。


「正当防衛で刺されてしまった。意識が薄れていく中、魔術を使って魂だけ誰かの身体に住み着こうと探し回り、たまたま入った身体が本条緑のものだった」


「……そう」


 サランは両親が意図的に居なくなったと思い込んでいたが実際は違ったのだ。

 しかし結局はサランを一人にしてしまった事には変わりない。

 腑に落ちない表情をしている辺り、許してはないのだろう。


「どうして魔術を使ってわざわざ魂だけ乗り移ったの…?」


「貴女に本当の事を話してからではないと……死ねないと思ったから」


「……!」


 そう言うと緑の身体が光を放ち、すぅっと身体が軽くなっていった。すると目の前に半透明の人像が現れる。


「……母様!」


「一人にして、ごめんなさい。私を殺して、サラン。貴女の手で」


「……っ」


 緑がサランに先程首を切った時に使用したナイフを差し出す。

 それを受け取るが彼女は震えていた。躊躇っているのだろう。

 しかし、時間がない。建物の崩壊は徐々に進んでいるのだ。

 サランの母親は、彼女に近付くとナイフを握っている手に触れながら目を合わせた。

 サランは涙を流していた。そして母親はもう苦しまないでと言うように微笑んで頷いている。


「これからは、貴女の出来ることで返していきなさい」


 ―――


 雪がちらほらと降る季節になった。まだ積もるほどの量ではないが、気温も低くなりいよいよ冬が来たことに何だか落胆してしまう。

 冬はどうしてか寂しい気持ちになってしまうからだ。


 いつも待ち合わせ場所にしていた公園にライ厶達やアリーシャ隊のみんながいる。


「もう十二月になるのかぁ~……早いなぁ」


 しかしそこに、緑の姿は居ない。当然サランもだ。


「……っ」


 独り言のように呟いた言葉が重く感じたのか、誰もそれに対して言葉を返してはくれなかった。

 泣かないと決めたのに緑の顔を思い出すと涙で視界が歪んでしまう。


 皆とあの館を脱出して帰ってきた日。

 倭達は重たい足取りで緑の家に行き、彼女の母親に事情を伝えた。

 するとその場に崩れ落ち、激しく泣いていた。この事は後で他の母親達にも各自で伝えたが緑同様に泣いていたと言う。

 倭達はごめんなさいしか言えなかった。


「うぅ……みどりん……っひっ、う……っ」


「倭……」


「倭さん……」


 鎖椰苛はそんな倭を見つめて俯いてしまった。肩を震わせていたので静かに気付かれないように泣いているようだ。

 レイが倭を慰めるようにそっと優しく肩を抱いてくれた。


「緑さんは……間違っていなかったわ……」


「あぁ、そうだな……あのままみーが前に出てくれなかったら、我らは時間切れで生き埋めだった」


 その言い方はまるでもう亡くなっているような表現で、凄く胸に刺さった。


「でも……みーたんは、絶対に帰ってくるって言ったのに……」


 茜が肩を落とす。確かにそうだ。

 あの言葉は嘘だったのだ。自分が犠牲になることでみんなを生きて帰すための嘘。


 アリーシャ隊の皆も、誰一人口を開くことなく倭達の会話を聞いているだけだった。

 彼らもサランというリーダーを、結局生きて帰すことが出来なかった。状況は両者同じだ。


「もう、みんな泣かないで?」


「!?!?」


 すると突然倭達の背後から懐かしい声が聞こえた。皆が一斉に振り向く。


「……う、そ……」


 そこには倭、いや皆が会いたかった、もう会えないと思っていた人物、緑が笑顔で立っていた。


「ただいまっ」


「な、んで……?」


「もう、だからあたし言ったでしょ?絶対帰ってくるって」


 そう言って倭を優しく抱き締めた。温かくて懐かしい親友の香りに涙がまた溢れた。

 茜や鎖椰苛達も彼女の生還に大喜びし、皆で抱き合いながら涙を流した。


 しかしそこで一つの疑問が浮かぶ。

 緑が生還したということは、サランはどうなったのだろうか。


「なぁ、緑……サランの奴はどうなった?」


「……サランなら」


 憐れむような瞳をしながらどこか遠くを見つめ黙り込む緑。

 妙に大人びて見えて、たまに顔つきが変わったように見えるのはどうしてだろう。


「良かった、みっちゃん戻ってこれたんだね」


「……サラン様がいないこの世界を、私は……」


 ラヴィッチが嬉しそうに祝福してくれたが、コークは浮つかない表情のままだった。


 そんな彼らの元にも一つの足音が近付く。


「コーク、みんな……久しぶりね」


「……え」


 今度はアリーシャ隊の皆の背後から声がし、振り返るとサランが私服姿でそこに居た。

 呑気にVサインをしながらウインク付きで。


「サラン様~っ!」


「待たせたわね。今度こそちゃんと目覚めて帰って来たわよ」


 やはり彼女の存在感は強大だ。私服だろうがアリーシャ隊のリーダーとしてのオーラが滲み出ている。


「ねぇ、コーク――っ!?」


 サランがコークの方を見ると、コークは素早く近付きサランを強く抱き締めた。


「サラン様……」


「ちょちょちょコーク…!人前で大胆なことは……っ!」


 不意打ちの行動に赤面するサランは珍しく取り乱していた。

 しかしコークの表情を見て固まった。

 彼は泣いていたからだ。


「っほん、とうに……良かった……」


「……ごめんね」


 サランは優しく頭を撫でて抱き締め返した。

 それを見ていたタルクがはやし立てる。


「おーおー!二十一歳がマジ泣きかぁ?」


「お、おい貴様!空気ぐらい読めないのか!」


「いやナイチ、顔赤くしておいて言うのやめてくれない?」


「まぁまぁ落ち着きぃー!でもこれでアリーシャ隊もサランと一緒にいられるんやろ?」


 茜がその場をまとめると、サランはバツが悪そうに頬をかいた。


「うーん、ちょっとみんなと一緒には暮らせなくて……」


「えー!なんでですか!」


「私は私の出来ることをしようと思うの。私の旧友は()の世界の長なんだけど、そこにいる()()()達が悪さしてて助けに行きたいの。ね?緑たん」


「ふふっ」


 サランは無事更生して、自分に出来ることを見つけたようだ。

 緑にウインクをしていたが彼女がサランの説得を必死にして、成功したんだとほっとする。


 突然月の世界だの姫だのと言われて頭がついていかなかったが、とにかくそこにいる悪いことをしている人を旧友と共に正していきたいのだそう。


「あ、ちなみにアリーシャ隊の新しい家なら魔術で作ってあるから自由にしてていいわよ」


「え、んな事出来んのサランって」


「でも、自由にしてていいって言われても暇よ?きっと」


 レイが嫌味のようにそう言うとサランはそうねぇ、と唇に人差し指を当てて考え込む。

 そしてすぐに何か閃いたようで笑顔になった。


「みんな、ラヴィと同じように学校通いなさい」


「えぇえ!?」


「手続きなら私が何とかしておくから」


 淡々と話すサランにアリーシャ隊の皆がポカンとしている。

 というか先程タルクがコークの年齢を口にしていたがその辺は大丈夫なのだろうか。気にしてはいけないのか。


「やま、話があるんだけど…」


「在原ちゃん、白妬もどうしたの?」


「サラン様が僕達の家を用意してくれたから、そっちに行こうと思うんだ」


「……あ……」


 きっとその話だろうと勘づいていた。

 アリーシャ隊と和解した今、ラヴィッチが我が家にいる理由は無くなるからだ。

 本音を言えばずっと居て欲しいが、そういかないことは理解している。

 寂しくなるが皆も学校に通うことになるらしいし、平気だと頷いた。


「……白妬も居なくなるの?」


「……まぁ、私も本来貴様の家族では無かったし戻ることにする」


 白妬まで居なくなるとは更に家が寂しくなる。

 とはいえ普段から会話をしないで生活していたからそこまで変わりはしないのだが。


「……たまに、たまにだったら姉さんの顔を見に帰るから。学校も行くから意味無いかもしれんが」


「……!うん、わかったよ……!」


 前と違って優しくなってくれて本当に嬉しく思う。以前はこうやって人間らしく顔を赤くすることもなく冷酷な印象だったから感情豊かになって姉として誇りに思う。


 そして、倭はライ厶達を呼んだ。

 全員がここにいる。ようやく平和が戻ってきたのだ。


「みんなと会えて良かったよ。色んなことがあったけど、ちゃんとみんなで帰ってこられて良かった!これからもよろしくね!」


「……」


 倭が改まって言うと全員が一瞬固まったが、すぐに笑って返してくれた。


「なぁに急に改まってんねんやまピー」


「ふふっ、本当に…!変な子ね、倭さん」


「こちらこそだよっ!倭ちゃん!」


「照れくせぇじゃねぇか倭!」


「全くだ、クロらしいがな」


 嬉しくて泣きそうになったが、堪えて笑う。

 これからも何があっても皆で乗り越えていける、そんな気がした。


 最高の仲間と一緒ならば、私は強くなれる。



最後までお読みいただきありがとうございました!


次回作は、アリーシャ隊をメインにして物語を書いていこうと思います!

よろしくお願いいたします!

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