10月29日
「レイノーラ・ステイブルー、お前には特別に教えてやろう」
「な……何かしら」
「アリーシャ隊の中で誰がSで誰がMなのか」
「結構よ」
サラン戦の前夜。
アリーシャ隊は何故か倭やライム達それぞれの家に分かれて夜を過ごすことになった。
レイの家にいるのはコークと響という何とも性格が真逆なタイプの二人である。
コークはキャラクター崩壊しているのか本当はエロティック担当なのか分からないけど突然あんなことを言い出すからレイは今日は突っ込み役になるわと覚悟を決めた。
「何故だ?」
「いやそんな真顔で聞かれても……」
「いいから聞け、私が話したいだけだ」
戦闘を交えた相手だとはとても思えない程の打ち解けぶりだ。今ではこうして包帯もせずに目を見せてくれるしあの時感じた恐怖心等皆無に等しい。
真面目に話す彼に、相変わらず顔だけはいいのにと溜息をつく。好きにはなれないが。
「そこまで言いたいのならそこの彼にでも話せば――」
といいレイが響の方を見ると太陽のようにキラキラした顔で笑っていた。
その純粋な顔を見ていると、彼の心を汚してしまうのが嫌になり…。
「…いいわ、私が聞く」
「察してくれたようだな」
渋々聞かされることになった。前夜だとは思えない緊張感の無さだけどある意味ピリピリしていなくて良いのかもしれない。
「まずサラン様だが彼女は私に攻める時もあるがほぼ受け身である。なのでMだ」
「……はぁ」
実体験を元に言われると色々リアルすぎて変な想像もしてしまって反応に困る。
というか今思ったがこんな下ネタ話をしたかったのならレイではなく茜の所に行けば良かったのではと疑問視した。
「ソーラ・クルーは実はMでパーラ・クルーのほうがSだ」
「あんな小さい子にSもMもないわよ!」
ソーラは確かおてんばな方でパーラがお淑やかな方か。
双子だからどっちがどっちなのか分からなくなる。
(というか言わせてもらうけど、どんどん登場人物が増えていって名前を覚えきれないのよ…!)
「来栖真奈は性格上攻めたい側なのでSだが、処女だ」
「ぶふっ……!!!」
その情報は一体どこで知り得るのだろうか。せっかく優雅に飲んでいた紅茶を吹いてしまったではないか。
「そして琴吹響は妹の琴吹明日香に攻めることは出来るが基本M気質だ。無論その妹はMである」
「それは何となくわかるわ…」
言われた当の本人は相変わらずレイ達の話を聞いてはいるが何の話なのか分かっていないようでぽかんと口を開けていた。
「機械人形は見てわかる通りMだ」
「あんな純粋な子までSかMで判別されてしまうなんて……」
「以前せっかく琴吹兄妹が取ってきてくれたお前の血を盛大に床にぶちまけられてな。罰として思い切り踏みつけたらそれはまぁいい声で謝られてな」
物凄く今更だがレイは琴吹兄妹に血を取られていたのだ。
その所在はどうなったか触れていなかったが床に零してなかったことになっていたようで安心した。
しかしハーモニーを踏み付けたのは可哀想に感じたが。
「黒花白妬は見た目的にSに見えるが完全なるMだ」
「あらそうなの、あんな戦闘しておいて想像つかないわ」
「タルク・フォウマとナイチ・コーストはMだ。というか今思ったがMが多いな」
「じゃあ在原君もMなの?」
「誰だ在原とは」
普通に返されてラヴィッチ君よと答える。
偽名を使ってレイ達の学校に通っていることを知らないのだから当然である。
「奴はSだ。自ら公言している」
「貴方達普段からどんな会話してるのよ……」
ギスギスピリピリしている組織だと思い込んでいたが意外と仲がいいようだ。
すると最後にコークはどこか一点を見つめながら得意気に意地悪そうな笑みを見せる。
「そして私……百パーセントSだ。さぁ、攻められたい奴はどこだ?」
「……貴方の本性が見えた気がするわ」
―――
「ほれ、はーもにーちゃん!沢山食え?」
本条家の今日の夕飯は家庭料理の定番、肉じゃがだった。
緑の家にハーモニーが泊まることになったので友達だと称して許可をもらえた。
倭達以外の友達が来たことに驚きつつも嬉しそうな緑の母親はハーモニーに手料理を食べて食べてとグイグイ勧めている。
「えっと~…お気持ちは大変嬉しいのですが~……」
「もしかしてだいえっとか?」
「お……お母さん……この子は看護ロボだから食事ができないんだよ」
ろぼっとなのか!たまげたなぁと驚いた顔をした直後に母親は突然包丁で己の腕を躊躇いなく切った。
「じゃあ、これ治すてみてくんねぇか?」
「なんて命知らずなの!?お母さん!」
「あわわ〜早く治さないと……っ!」
ハーモニーは両手を母親の切り傷だらけの腕にかざすとそこが光り患部がみるみるうちに修復していった。
魔術師だからこそ多少は堪えられる痛みなのだ。
だがいきなり大胆な行動に出るものだから冷や冷やしてしまう。
「あっ、お母様~、頬に血がついてますよ~」
切った時に飛び散った血が頬についていて、それをハーモニーがハンカチで拭ってあげていた。
そのハンカチをすぐに洗面台で洗っていて手際の良さに感心した。
(あれ…?ロボットなのに水触ってる……防水なのかな?)
白妬との戦闘の時も雨が降っていたし、防水機能がついているようだ。サランが作ってくれたと言っていたが割と凄いなと敵ながらサランにも感心してしまった。
―――
「なぁ、あのちびっ子ってアリーシャ隊にいた頃から黒いん?」
「黒い?」
「腹黒のこと!」
茜の家にて。
ラヴィッチと特に仲が良さそうなナイチにせっかくだから腹黒事情を聞いてみることにした。
するとナイチは何かを思い出してあー……と項垂れ嫌そうに口を開いてくれた。
「奴の腹黒さは異常だぞ。貴様らといる時はあまりそうは見えないが」
「腹黒さとあざとさを上手く利用してやまピーを落としたんやからな。本人曰く振られたみたいやけど」
「そんなことになっていたのか、アイツも性格悪いな」
倭から告白して振られたと聞かされた時はさすがに驚いてしまった。絶対ラヴィッチは倭に好意を持っていると踏んでいたからだ。
だけど振られた割にはスッキリしている印象を受けた。振られた事によって仲が悪くなるということは無いようで安心したが。
「アリーシャ隊男子勢に女装を強要してきたり、タルクの頬のマークを剥がしてこいとか、ロリコン野郎と罵倒されたりもしたな。なんの事だかわからんが」
(まぁロリコンはわかるかもしれへんけど)
「なんやかんや言っても好きなんやろ?お互いに」
「な!?貴様、奴は男だぞ」
「そうやなくて、ちびっ子とは長年の戦友やねんな?仲間としてってことや」
一人で変な勘違いをしそうになっていたので訂正させる。別に茜としてはそっちの方面に行ってもいいのだが。
少しからかいたくなったので突っついてみることにした。ナイチの反応がいちいちオーバーなので面白くなってきたのだ。
「……あ、あぁ、そういう意味か。そうだな、付き合いはかなり長いな」
「でも、戦友関係なく好きやろ?ちびっ子のこと」
「はっ!?なななな、な、なにを……!!!」
肯定と受け取って良いような反応をされるので一部の層が喜びそうな展開やな、と自分でからかっておいて面白くてニヤニヤが止まらなくなる。
ナイチは顔を赤くして知らんとそっぽを向いてしまった。
「君みたいな人を俗にツンデレというんやで」
「なんだそれは……」
―――
「おねえちゃんとおふろうれしーい♪」
「……そうだな」
サラン戦前夜、アリーシャ隊は倭達の家にそれぞれ泊まることになっていたが鎖椰苛の家には騒がしい妹の依心がいて休まれないと思い誰も来させなかった。
そんな鎖椰苛は、珍しく心細い気持ちになってしまい依心を風呂に誘ったのだ。普段はうるさいだのやかましいだのと邪険にしていたというのに。
(こんな時だけそばに居たくなるなんてな……)
湯船に浸かり、温かさに身を委ねる。長風呂はあまり出来ないが今日ならしたいと思った。
「おねえちゃん、さいきんぼーっとしてるよ?」
「えっ……」
「いこは、おねえちゃんのことなーんでもわかるんだからね!げんきだして!」
どうやら依心に勘づかれていたようだ。
自分みたいな一般人がどれだけ考え込んでも解決しない事はわかっているが自分には何が出来るか等を考えてしまうのだ。
護身用のスタンガンとナイフはあるから正当防衛は問題なさそうだがサランはきっと強力な魔法を使いこなしてくるだろう。
そうなった時、どうするべきなのか。
(あーもう、今だけは考え込むのやめるか……)
一緒に湯船に入っている依心を後ろから抱きしめ髪の毛に顔を埋める。
「オレ達は……生きて帰らなきゃいけねぇんだ……」
「…おねえちゃん、どこかいくの?」
純粋な瞳で聞いてくる姿が愛おしくてたまらない。コイツに危害が行かないように細心の注意を払わなければならない。
小さく笑って頭を撫でた。
「鬼退治、だよ」
「えー!なにそれー!おにはーそとー!あははっ♪」
―――
「ついにサランと決戦か」
「だな」
タルクがライムの家に泊まることになり、二人で風呂が沸くまでの間、決戦についての話をしていた。
「サラン様、辛い過去があるからさ……。ぜってー話し合いだけじゃ終わんねぇはずだ」
「戦いが避けられない事は覚悟している」
前回の白妬戦の時は倭一人で何とか出来てしまったが最後となると我々能力者が率先して行かなければならない。
「サランの…過去や目的は話せないのか?」
「……わりぃ、オレの口からは言えねぇ。多分サラン様が自分から話してくれるはずだから……ホントわりぃな」
「いや、構わない。いずれ知ることが出来るなら問題ない」
どんな理由であれ奴がやろうとしている事は間違っているのだ。それを我々の力で必ず止めてみせる。
そう決意を固め拳を強く握り締めた。
「お前、いいやつだよな」
「我が?そうか?」
「おぅ、なんか話しやすいっつーか……ほら、オレんとこ濃い奴らばっかりだからよ……」
「それはそうだな」
タルクにそう言われるとは思っていなかったが、確かにアリーシャ隊の面子を思い出すと納得してしまった。
気を良くしたので更に親睦を深めようと風呂に誘ってみた。せっかくならば背中でも流してやろうではないか。
「さぁお前も服を脱げ。共に風呂に――」
「ぶふぉあッ!!!」
ライムが風呂に入る準備の為服を脱ごうとするとタルクが突然鼻血を出して倒れてしまう。そこで、ハッとして気がついた。
「お前男だったか……!すまぬ、忘れていたぞ!」
―――
「やま、一緒に寝ないかい?」
「え……在原ちゃん」
「駄目だッ!!!」
ラヴィッチが枕を持ってよそよそしく倭を誘う。普段から寝慣れているから躊躇いはないが、ああやって頬を染めながら言われるとドキドキしてしまうから勘弁願いたい。
倭とラヴィッチの間に白妬が入って止められた。
「こんな童顔な癖に腹黒のケダモノを姉さんに近付けさせる訳にはいかないッ!!!汚れる!!!」
「白妬……」
「大体貴様…今更だがケダモノといつも寝ていたんだよな!?大丈夫だったのか!?」
倭の肩を掴みながらそんな事を心配される。あまりラヴィッチの悪口を言うと、本人が黙っていない気もするが。
チラッと彼を確認すると、白妬ちゃんと低い声で名前を呼びながら黒いオーラを放っていた。
「ケダモノ?腹黒?こんな奴?」
「う……!だって仕方ないだろ!姉さんが心配になっただけだ!第一貴様は姉さんの事を振ったんだろう!それなのに……!」
「あー、眠くなってきちゃったぁ」
二人のプチ喧嘩を止めるべく、布団にダイブして目を閉じて寝たフリをする。
すると二人は一瞬固まり、馬鹿馬鹿しくなったのか笑い出した。
「僕、やま達の仲間に来て良かったかも。アリーシャ隊にいた頃は仲間同士ギスギスしている感じもしていて全然色んな人と話す機会も無かったから」
「……まぁ、そうだな」
白妬がラヴィッチの話に頷きながら腕を組み考え込む。
「サラン様をどうにかして止めて連れ戻さなきゃね」
「あぁ、必ずな」
「でも、全てが終わったら…僕達はどうすれば――」
ラヴィッチが何か話している会話を最後まで聞き取れず倭は眠りに入ってしまう。
明日はついに決戦の日。怪我をすることは避けられないが、全員で必ず帰ってくると胸に誓った。
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