表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/18

9月21日、9月28日、10月9日

 

 ―九月二十一日― 



 夕飯の買い出しに街を歩いていると、見覚えのある後ろ姿を発見した。

 女性の割には背が高くて細身の、ライムだ。


「ライム!」


「!レイか」


 偶然会えたことが嬉しくて、せっかくなら一緒に買い物なんてどうかと誘おうと声をかけた。

 しかしいつもならすんなりと了承してくれるのだが今日は違った。


「悪い、我はこの後用事があるんだ。また後日埋め合わせするから、すまぬ」


「……あっ」


 そう謝られ、足早にその場から去ってしまった。レイはその様子をぽかんと口を開けて見送ることしか出来なかった。


 翌日になってもライムの事が気にかかって仕方なかったので無理やり家まで押しかけるとやはり適当にはぐらかされまるで避けられているように感じて心の中でモヤモヤが広がっていく。


「およ?どしたんレイっち」


「……茜さん」


 振り向くとこれまた偶然に茜と居合わせた。

 レイはライムのことでどうしたらいいか分からなくなり、茜に助け舟を求めることにした。


「茜さん~っ!!」


「ぅおあ!?ウチは一体どこでレイっちルートを解放したんや!?」


 泣きつくように抱き着いてみると茜はよく分からない事を口走っていたが今頼れるのは彼女しかいないと判断して気にせず事の経緯を話した。


「……なるほど」


「私が話しかけても、用があるとかですぐ居なくなってしまって……。まるで避けられているように感じるのよね」


 思い当たる節は全くない。避けられる前日まで普段通り何気ない会話を携帯のメッセージアプリでやり取りしていたし、当然喧嘩もしていない。本当に突然の事だったから訳が分からないのだ。


「レイっちは、避けられててもライっちが好き?」


「……え?」


「……」


 唐突な質問に恥ずかしくなり思わず、ライクかラブかどっちかしらとはぐらかそうとしたが、茜の表情は至って真面目でつい言葉に詰まった。


「……好きよ、ライムはどんな事があっても揺るがず、傍にいてくれるもの」


 目を閉じて初めて会った時の事を思い出す。遠くで魔術師の気配を感じた先にライムや緑がいて、倭にわざとぶつかってコンタクトを取り、その日の夜に力試しで戦ったあの日を。


「私一度ライムや緑さんと戦ったことがあるの」


「マジ!?」


「えぇ、戦って怪我も負わせたのに、ライムは態度を変えることなく私に優しくしてくれた。本当に優しかったわ……」


 ライムの顔を思い出して思わずふふっと声に出して笑ってしまった。

 それをバッチリ茜に見られて恥ずかしかったが、彼女はまぁレイっちなら大丈夫やと思うでと慰められた。


「自分の想いをきちんと伝えればわかってくれるはずや、ライっちなら」


「…ありがとう、茜さん」


 茜の優しさが身に染みた。

 今すぐライムに気持ちを伝えるべく、急いで彼女の家まで向かった。


 ーーー


「ライム…」


「ん……レイ、か」


 ライムの母親が部屋まで通してくれたのですぐにライムに会うことが出来た。

 彼女は窓際に置いてある机に向かって座っているので後ろ姿しか見えない。

 返事はするが相変わらずこちらを見てくれないので直球で話を切り出すことにした。


「ライムにとって、私はどんな存在……?」


「ん……んー……?」


「……ライム」


「……んー」


「ライム!!」


 いくら話しかけても生返事ばかりでさすがに少し苛立ちが募り、名前を叫んだ。驚いたようでようやくこちらを向いてくれた。


「どうして私の気持ちに…気付いてくれないのよ……。ここ最近、貴女は私を避けてばかりで……」


 レイだけが必死になっているみたいで馬鹿馬鹿しくなる。

 けれどそれでもいいやと思うくらいにはライムが好きなのだ。


「私は……貴女のことが大好きなのに……!」


「す……すまなかった、レイ」


 大粒の涙を流しながら告白シーンかのように訴えかけると、罪悪感からかライムは謝ってくれた。


(全く、化粧落ちたじゃないの)


「……我、ここ最近寝不足でな」


「……え?」


「サランと決戦も近いだろうから、母上と戦闘シミュレーションを練っては戦闘に付き合ってもらってたんだ。それがなかなかハードでな…。なかなか構ってやれなくてすまなかった」


 あまりにも真っ当な理由すぎて言葉が出なかった。

 レイ自身を嫌いで避けていたとかではなくて、戦闘訓練していたから時間が作れなかったのと寝不足…。


(私の勘違いじゃないのよ……!!!馬鹿!!!)


 一人で勘違いして空回りして、これは恥ずかしすぎる。

 一気に赤くなる頬を隠すように手で覆った。なんて茜に説明すればいいのか。


「で、でもな?我だってレイのことは好きだぞ。我にとってレイは大切な友であり仲間だ」


「……」


 相変わらず鈍感なところは健在だがそれがライムらしいと、気が晴れてスッキリした。

 色々と追求したい所はあるが、責め立てすぎて関係が悪くなってもいけないから今日はここまでにすることにした。


 ―――


 ―九月二十八日―


「さやんきーって胸ないよね」


「あぁ!?」


 今日も今日とていつものメンバーが倭の家で遊んでいる。

 鎖椰苛の胸をチラ見しながら思っていた事を素直に口にしてしまい、喧嘩売ってんのかと逆ギレされた。


「てめぇに言われたかねぇよ」


「えー、じゃあさやんきー胸のサイズいくつ?」


「……」


 そう聞くと凄く言いたくなさそうな嫌な顔をされたが倭に顔を近付けてくると耳元でバストサイズを暴露した。

 倭の方が上だったので勝ち誇った笑みを浮かべた。


「二センチ勝った」


「……クソ!別にいいだろ」


「あっちゃんも、やっぱしさやんきーに胸あった方がいいと思うよね!?」


「え、ウチは……」


「いや!言わなくてもそうだってわかってるよ!レイちゃん、さやんきーの胸をおっきくしてあげて!」


 茜の返答を遮って、魔法で胸を大きくしてもらうようにレイにお願いした。

 というかそんな都合のいい魔術があるのかよく分からないけどレイは自信満々にいいわよと言ってくれたので任せることにする。


「貴女も私みたいな胸の大きさにしてあげるわよ……!」


「お、オレは別に良いんだって……ちょ……!!」


 レイは一枚のカードを鎖椰苛に向けて放ると淡い光を放ち包み込んだ。

 明るすぎて彼女の姿を確認できないがどうなってしまったのだろう。


「さ、さや団長……!ウチはそのままの団長で充分や……!」


 今まで黙っていた茜がその光ごと抱きしめようと腕を伸ばすと、光は徐々に消滅していき鎖椰苛の姿が見えてきた。

 期待の目で彼女を凝視するが、肝心の胸はそのままの大きさだった。


「レイ先輩もしかして失敗……?」


「珍しいな、レイ」


「あら、まだ熟練していないから失敗してしまったわ」


 レイは悪びれた様子もなくしれっとしている。

 鎖椰苛は、胸の大きさの代わりに何故か髪の毛が長くなっていた。腰までさらりと伸びていて、更に魔法の失敗のせいか服を着ていなかった。


「さやんきー服!」


「あ……うわぁぁぁ!!!」


 恥ずかしそうに腕で胸を隠すので、隠す必要ある?と茶化すと叩かれてしまった。

 鎖椰苛は機嫌が悪くなったようで倭に詰め寄る。


「レイ嬢はまだ良しとして」


「あら、良かった」


「元凶はてめぇなんだよ倭!!!どうしてくれんだ!!!」


「え、えぇー!そんなぁ~あっちゃん助けて~!」


 今にも殴ってきそうな鎖椰苛から逃げようと茜に助けを求めると、彼女はブツブツとなにかを呟いていた。


「くぁw背drftgyふじこlp;@:「」」


「ちょ、ちょー!あっちゃんしっかりして!」


 予期せぬ鎖椰苛の全裸に興奮してしまったのかテンションがおかしくなって顔を真っ赤にしながら一人で暴れ回った。


「おいレイ嬢あいつなんとかしてやれ」


「私、人を傷付けるのは嫌なのよ」


「じゃあなんで魔術師やってんだよおめぇ」


 鎖椰苛がレイに、茜を止めるように言うがやんわり拒否される。仕方なくライ厶に頼んでみるとすぐに承知したと返事をし、すまないと小さく呟くと茜の腹部に軽く拳を入れ、気絶させた。

 凄くライ厶らしいやり方だと思った。


 それからしばらく茜は気を失っていたが、やっと目が覚めたようで身動ぎをしながら声を漏らした。


「あっかが目を覚ましたよ!」


「さやんきー行ってあげなよ」


「ちっ……レイ嬢、この髪の毛明日には直ってんだろうな」


「……多分」


 レイが自信なさげに言うと、鎖椰苛は茜に向き直り顔を覗かせる。ちなみに服は倭のTシャツを借りている。


「……ったく、心配かけさせやがって」


「……さや団長は……そのまんまの姿が一番……好きや」


「……そうかよ」


 茜は鎖椰苛の姿を確認すると手を伸ばし頬に手を添えて微笑んだ。

 ふわふわ寝ぼけ眼の茜のおかげで何とか事は治まったので一安心した。


「……あたしもあんな風に倭ちゃんとイチャイチャしたいな」


 緑が何か独り言を言っていたがなにか聞き取れなかった。


 ―――


 ―十月九日―


 アリーシャ隊の残りのメンバーがこちらに襲いかかってくる気配もないので、ラヴィッチとナイチと響とタルクで暇だからと外を歩いていた。

 アリーシャ隊にいた頃はこうして外に出ることも少なかったので新鮮に感じる。


 しばらく歩いていると、後ろから小さな足音がぺたぺたと聴こえ、何かと振り返ると何者かがナイチにドスンと激突してきてそのまま倒れてしまった。


「ぐぇ……!!!?」


「あいたっ」


 ナイチにぶつかってきた人は、幼い女の子だった。金髪で長い髪を左にまとめて、パッと見で小学生位の歳だろうか。


「な、何なんだ……この子供は……。って、誰かに似ているような…」


 その少女は誰かに似ていた。

 そんな彼女はナイチの上に倒れたまま、見つめながら口を開けてパクパクしている。


「おーーい!()()ーー!!」


「あ、鎖椰苛ちゃん」


「おぉ、偶然だな」


 後ろから誰かを呼ぶ声がして見ると鎖椰苛が少し息を切らして走ってきた。

 この間真奈から受けたナイフの傷は癒えたみたいだ。元気そうで安心する。


「この子ってもしかして…」


「ん、あぁ、オレの妹の依心(いこ)だ」


「よろしくねっ♪おにいちゃんたち♪」


 響が鎖椰苛に尋ねるとどうやら妹のようで上機嫌に自己紹介をしてくれた。年齢を聞くと八歳のようだ。


「つか、勝手に走ってくな、お前はまだガキなんだから」


「ごめんねおねえちゃん。はいいろのおにいちゃんにぶつかっちゃって」


「ナイチに?悪かったな」


「い、いや……別に構わん」


 ナイチはまだ尻もちをついた体勢でいた。

 依心はナイチに近寄り上に乗ると、頬に手を当てて顔を近付けさせた。


「あのねおねえちゃん。このおにいちゃん、すっごくきれいなおめめしてるんだよっ♪ほら!あおいろ!」


「~っ!!?」


 ナイチはどうしてか顔を赤らめている。いや、どうしてかなんて理由は分かっている。


「ナイチ、アリーシャ隊にいた頃からロリコン疑惑出てるんだった」


 アリーシャ隊にいる双子の女の子によく愚痴をこぼしたりしている姿をよく見かけて周りからもロリコンだなんだと噂されていたのだ。

 そして当の本人は固まってしまっている。少し気持ち悪い。


「でも、みんなかっこいいおにいちゃん♪」


「おっと…」


 依心はナイチから離れるとラヴィッチや響にまで堂々と抱き着いてきた。

 ラヴィッチは別にロリコンではないが、好かれるのはまぁ嫌いではない。


「ふふ、何だか妹ができたみたいで可愛い」


「おにいちゃんたちは、きょうだいいないの?」


「……」


 その純粋な質問に僕達四人は言葉を詰まらせた。

 ラヴィッチとナイチは別に何も無いが、響とタルクにとっては禁句だろう。

 二人とも、それぞれの兄弟を亡くしているから。


「いないよ」


「いないぜ」


「…わりぃ、お前ら……依心が……」


 響とタルクが切なそうに答えた。鎖椰苛がすぐに申し訳なさそうに謝る。

 彼女が気に止める必要はない。

 依心はこちらの事情等知る由もないのだから。


「って、そんなことよりも……。お兄ちゃん達が依心ちゃんに色々なことを教えてあげようか」


「おい、なに教えるつもりだラヴィッチ」


「例えば……この人、実は男の子なんだよ」


「えーー!!」


 試しにタルクの秘密を暴露してみせると疑い深いのか物凄く驚いていた。それはそうだろう。


「あとはね、響お兄ちゃん(この人)は、依心ちゃんと六つしか歳違わないんだよ」


「えー!せぇたかいのにもっとおにいさんかとおもったー!」


「照れるなぁ」


「いやそこ照れるとこじゃねぇよ響」


 なんだかこうして他愛もない話をしたりして笑い合うのも楽しいなと感じるようになった。

 どうせ暇だったから、その後も依心と遊んで時間を過ごしていた。


 後日鎖椰苛から、てめぇ依心にバイ・セクシャルって言葉教えやがったなと怒鳴り込んできたのはまた別の話。



短編です。

評価よろしくお願いします!励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ