9月15日
「……あれは」
学校帰り。いつものメンバー+ラヴィッチといつもの登下校の道を歩いているとふと鎖椰苛が路地裏の通路の方を見て足を止めた。
するとその方向に向かって一人で行ってしまったのでどうしたのか尋ねながら後ろについて行った。
「ちょ……さやんきー?」
「おい!お前、最近学校来てねぇじゃねぇか」
鎖椰苛が誰かに向かってそう言うのでひょっこり顔を覗かせて誰なのか確認してみると茶髪に眼鏡姿、同じ学校の制服を来た知らない女性がいた。
その人は一緒にいたもう一人の背が小さくて幼い髪の色が虹色の不思議そうな女の子と楽しそうに談笑していたが、鎖椰苛に話し掛けられると目線だけこちらを向いて黙ってしまった。
恐らく鎖椰苛の同級生なのだろう。
するとその眼鏡の女性は鎖椰苛の声がけを無視して明るい口調で笑顔で話を振ってきた。
「皆さんこんにちはぁ!あたし、来栖 真奈、高校二年生!サラン様の命令……の前に、そこのピンク頭の優紀さんを殺しちゃいたいと思いまーす♪」
「……サラン……だと!?」
「え……てか、なんでウチ?」
真奈はどこからかナイフを取り出し鎖椰苛にではなく、その後ろにいる茜に向けながら上機嫌に自己紹介をした。
「お前ら二人もアリーシャ隊なのか」
「あっ、はい~!私はハーモニーって言います~。看護ロボなので戦えませんので悪しからずです~」
そう言って真奈さんの隣のハーモニーはお淑やかに名乗った。
どうやら鎖椰苛の同級生がアリーシャ隊のようだ。
しかし、彼女が言っていたサランの命令の前に茜を殺すという意味が分からなかった。
「なんで茜を狙ってんのかは知らねーけど、やらせねぇよ」
「ふん、アンタは下がってなさいよ。あたしは優紀さんに用があんだから」
「ええで来栖はん。よくわからんけど相手になるで」
「えっ、あっか……!?」
真奈の挑発に茜は乗ったのか、先頭に立った。
皆が心配の声を上げるが、大丈夫やウチは空手やってたしと言って下がってくれない。
いくら空手をやっていたとしても相手はサランの下にいた人物。恐らく魔術だって伝授されているに違いない。
「ねぇ優紀さん、潔く死んで?」
「初対面のアンタにいきなり死ね言われても納得行くかい!」
「これだから無自覚は嫌になるのよ……!!」
真奈は突然声を荒らげると茜にナイフを突きつけようと襲いかかった。いきなり過ぎて反応が遅れるも茜は服を掠めただけで避けることができた。反射神経が元からいいからか間一髪だった。
多分あれが倭だったら切られていた。考えただけで足が竦む。
「ギリで服破けてしもうたやないかい!制服やで!?これ」
「……何でそんなにヘラヘラしてんの?あたしアンタを殺そうとしてんのよ?」
「ヘラヘラはしてへんけど、ウチには仲間が沢山いるからかなぁ」
自信満々に答えると真奈はイラッとした表情で大きく舌打ちをした。
「アンタだっていつか鎖椰苛に捨てられるのよ……ッ!!!!」
物凄い形相で茜を睨み叫ぶと真奈の身体から黒いモヤのようなものが湧き上がり一瞬にしてこの場を暗闇に染めた。
「な、なにこれ……真っ暗……!」
「何も見えないのに頭の中に映像が出てくる……」
「あたしの負の記憶よ、よく見ておきなさい」
真奈の術のようだ。視界は真っ暗闇だが脳内に映像がフラッシュバックするように浮かび上がってきた。
そこには学校で真奈と鎖椰苛が仲良く話をしている姿があった。やはりこの二人は同級生で同じクラスのようだ。
『あははっ、だよね~!やっぱ鎖椰苛とは気が合うわ~』
『だな、相性いいかも。昨日テレビでやってたアレも…』
『団長~!!!』
教室で真奈が椅子に座り、鎖椰苛が机に座りながら楽しそうに話をしていると、茜の声がした。
教室の外を見ると茜が大きく手を振って鎖椰苛を呼んでいた。
『あの子誰?』
『あー、今年入ってきた一年のバカ。オレにやたら絡んでくるダチだよ』
『へぇ』
『ちょっと行ってくる。……おい、一年の教室はここじゃねぇけど?』
『ウチは団長に会いたくて来たんやで!』
鎖椰苛は机から降りるとすぐに茜の方へ行ってしまった。二人が話す様子を真奈が遠くから眺めていた。
『団長が寂しい思いしてるんやないかと思って』
『別に寂しかねーよ、お前以外にもダチくらいいるわ』
『!』
そう言うと鎖椰苛は真奈の方を向いて申し訳なさそうに苦笑いしていた。
「初めは何とも思わなかった。仲良いんだーしか思わなかったし、ちょっと羨ましいなって見てた」
現実の真奈がまるでナレーションするかのように話し出すと、次々に鎖椰苛と真奈が一緒にいる光景が浮かんできた。
『団長~!』
『おっ、さや団長はっけーん!』
『さや団長こっち来てくれへんかー!』
『ねぇねぇ団長っ』
『愛しのさや団長~っ!』
しかし全ての情景に茜が割り込んできた。映像の中の鎖椰苛は何だよと嫌そうな顔をしつつ茜の方へ行ってしまう。
「鎖椰苛はあたしを置いて、優紀さんの方へ行った。あたしの方が早く友達になって鎖椰苛とつるんでたのに。優紀さんはズカズカとあたしらの間に入ってきて掻き乱して、仕舞いには学校行っても鎖椰苛とは話さなくなってしまったわ!アンタが常に隣にいたから!」
「……」
「それがムカついて屋上でサボっていたら目の前にサラン様が現れたの。悲しいわねってこんなあたしに同情して声をかけて下さった。自分の仲間になってくれたらあたしに力を与えて邪魔な奴を排除させることができるわよって言うから、手を取ったの」
真奈は友達の鎖椰苛を茜に取られてしまったのが気に食わずついサランの手を取ってしまったようだ。
先程、サランの命令の前に茜を殺すと発言した意味がようやく分かった。
「幸せなのも今のうちよ。アンタだっていつか捨てられる……!でもその前にあたしがアンタを許さないから殺してやる……ッ!!!!」
「……!?」
暗闇だから何も見えなくて推測しか出来ないが多分真奈は今、茜に切りかかろうとした。
茜が息を飲む音を出したので緊張が走ったが次の瞬間視界が元通りになった。
突然明るくなった為、目が順応できず顔を顰めた。
何とか目を開けて状況を確認する。真奈はやはり茜にナイフを向けていたがその刃は喉元ギリギリで止まっていた。
真奈のナイフを握る手ごと掴んで動きを止めていたのは、鎖椰苛だった。
「やめろ、真奈」
「さ、やか……!」
「確かにつるまなくなったのはオレが悪かった。だからってコイツを殺したくてアリーシャ隊に入っちまったことについては許さねぇ」
「っが、は……」
静かに怒りをあらわにする鎖椰苛は、空いている方の左手で自分の手持ちのナイフを握ると躊躇いなく真奈の腹部を突き刺した。
刺された真奈は驚いた顔をしながらその場に崩れた。鎖椰苛が人を刺す行動に出たということは相当怒りが募っているという事なのだろう。
「し、信じらんない……鎖椰苛の馬鹿!!!!」
「……ぐ……っ」
「あ……!?」
真奈が反撃で鎖椰苛に刃を突き刺した。ナイフが刺されたまま、彼女は地面に倒れる。
倭が焦って名前を呼んだが反応がない。
しかし一番驚いていたのは刺した本人の真奈だった。
彼女が殺したかったのは茜であって、鎖椰苛ではないからだ。
恐らく自分が刺されて頭に血が上って衝動的に動いてしまったのだろう。自分の大切な人が目の前で倒れている様を見て膝を震わせていた。
「ちが……あたし……、つい……!」
「安心なさい、来栖さん。鎖椰苛さんはここよ?」
「……え?」
倭の背後でレイが真奈に声をかける。全員が振り返ると、たった今刺されたはずの鎖椰苛がレイの隣に立っていた。
「そこにいる鎖椰苛さんはニセモノよ」
「ど、どういうこと……レイ先輩」
「私の術よ。この戦いできっと来栖さんは我を失って鎖椰苛さんを刺してしまうだろうと踏んでいたから、暗闇になった隙にコピーを作って入れ替えさせてもらったの」
よく見れば刺された方の鎖椰苛は患部から血が一切出ていないことに気が付いた。相手の感情を読み取ってその行動に出るとは流石である。
「思った通り、刺すものだからやっておいて正解だったわね」
「おぅ、助かったぜレイ嬢」
煽るレイにお礼を言う鎖椰苛。真奈は面白くなさそうにその二人を睨みつけた後、茜に向き直り指をさしながら怒鳴り散らした。
「……こいつは、あたしの居場所を奪ったズルい奴なのよ……!!こんなに苦しんでいたのにアンタさっきあたしのこと初対面って言ったわよね?残酷よ本当に。アンタさえいなけりゃ良かったんだか……っ!!?」
真奈がマシンガントークの如く茜を責めるが言葉を途切らせた。怒鳴りつけた先の茜は、ただただ涙を流して泣いていたからだ。
―――
ここはサラン様の部屋。
共にモニターで真奈と魔術師らの様子を観察しながら、サラン様は真奈の話を切り出した。
「真奈はアリーシャ隊に一番最後に入ってくれた子だったから当然他の仲間とすぐに打ち解けられた訳じゃないのは知ってるわよね?」
「えぇ」
「それに……入った理由もあのお友達が理由だったから、ここにいる間も友達が欲しいって言っていたの」
「……だからハーモニーを作られたんですか」
頑張って作ったのよとサラン様は微笑む。アリーシャ隊が全員いた頃より表情が固いのが見て分かる。
心配の声を掛けてあげたいがサラン様が話を続けるのでやめておいた。
「初めは無感情のハーモニーを作ったの。それこそ本当にただのロボットみたいなね。でも真奈はこれじゃあ嫌だと言ったわ。だから鎖椰苛みたいな性格の感情をハーモニーに取り入れさせた」
「……?でも、ハーモニーの性格って…」
鎖椰苛という人物のような性格を取り入れたと言うのならハーモニーはとっくにオラオラ系のヤンキーロボットになっている事だろう。
しかし実際はほんわかした、ぶっちゃけ真奈からしたら嫌いなタイプの部類の性格ではないのか。
そう疑問に思っているとサラン様はポリポリと頬を掻きながら気まずそうにこう言った。
「私が術を失敗ったのよ」
「………………それなら、どうして作り直さなかったんです?」
「ハーモニーに感情を入れてから、真奈は優しくなったの。本当の友達同士に見える程仲良くなっていたから、作り替えるのをやめたのよ」
―――
あの茜が泣いていた。予想外すぎる展開に全員が驚いてしまった。
「な……なに泣いてんのよ……」
「来栖はん…っ、…ごめん……」
そう言って真奈をそっと抱き締めた。頭をぽんぽんと背中も撫でながらごめんと呟く。
「ウチが無意識に来栖はんの居場所を奪ってしもうたんやな……。ウチのせいで、アンタの人生暗闇に陥ったんやな……ほんまにごめん」
「今更なによ……!!うるさいわよ!!」
今になって同情され気に食わない様子の真奈だが彼女からは涙が流れている。茜の言葉が効いているのか。
「勇気なかったんやろ……?もっと自分に絡んで欲しいって言う勇気が……。だから余計近付けなくなったんやろ…。言って良かったんやで……?ウチはさや団長が楽しそうに来栖はんと話してるの見て何か嬉しかったで?」
茜は、さや団長は見た目がああだから自分達以外に友達がいると信じがたかったと言った。
だから自分が傍にいて沢山笑わせて楽しませようと思ってグイグイ近付いたようだ。
「だから……降伏して、さや団長と仲直りしてもう一回友達やり直したらええよ……?」
「……」
一度茜が抱き締めた腕を離すと、重力に任せて真奈が座り込んだ。
茜が、後は鎖椰苛の番だと言わんばかりに真奈から離れていく。
(凄いあっちゃん……話だけで降伏……させた)
倭は茜を純粋に凄いと感動していた。
「……はは、そうね……あたし、勇気……なかったんだ……」
まるで独り言のように小さな声で呟き、俯いた。自分の罪を認めてくれただろうか。これ以上戦う気は無さそうだが。
「……優紀……さん」
「!」
「ありがとう……アンタのおかげで、やっと自分が分かった……」
「それはよかったで」
茜が安堵の笑みを浮かべる。いつものおちゃらけた彼女は何処にもいなくて至って真面目な茜だ。
「真奈様……!」
「……ハーモニー」
真奈は恐らくアリーシャ隊に入ってそんなに経っていないのだろう。
学校で茜が鎖椰苛に絡んでからサランが現れたと言っていたからそこは確かだ。
だからなのか、真奈は先程コピーの鎖椰苛に刺された腹部を押さえながら異常な程汗をかいている。
術を使えはしたが、体力面は一般人と大して変わらないようだ。
「…ねぇハーモニー。…あたし以外にも友達、作りなよ……?」
「そんな……これじゃあ……まるで真奈様が……」
「そうよ…だってあたしなんて一般人と同じようなもんだし。…一回刺されただけでダメみたいだからさ……」
「でしたらすぐに私が回復を―――」
ハーモニーが回復術を唱えようとしたが、倭が瞬き一回した、その一瞬の内に真奈の姿は消えた。
「……あ?」
鎖椰苛の気の抜けた声がして振り返るとそこに真奈がいて……。
鎖椰苛の腹部にナイフが深く刺さっていた。
真奈が刺したとすぐに理解した。
「やっと自分が分かった……そうよ、わかったのよ……。
優紀さんも嫌いだけど、結局はあたしの所に来てくれなかった鎖椰苛が……一番、嫌いだった」
苦しそうにしているからこそ微笑みがより一層不気味だった。ナイフが抜かれると鎖椰苛は地面に思い切り倒れてしまった。
「鎖椰!!!」
「鎖椰ちゃん……!!!いや……!!!」
「私が回復するわ……!鎖椰苛さん…!」
倭も鎖椰苛を抱きかかえ、状態を観察する。
呼吸はしていて意識は何とかあるようで一安心するが腹部からは止めどなく出血しているので予断を許さない。
「…あー、さや団長……ウチもう、限界や」
「……あっちゃん…?」
茜が鎖椰苛の様子を見てから踵を返して真奈に向き直る。
言葉に感情がこもっていない感じがして茜を初めて恐れた。
「…団長に、手ぇ出すな……ッ!!!!!」
「っちょ、優紀さ……重た……ッごぁ!!?」
茜は真奈に馬乗りになると彼女が手にしていたナイフを奪い、それを両手で握ると思い切り振りかざして真奈を刺す。
「……っあ、ぁあ……ッ!!!ぅ、ぐぁっッ!!!!」
あの茜が我を失って真奈の胸や頭や腹や首をひたすらに突き刺す。抉る。捩じ込む。
原型をとどめていない姿になっていく真奈を見て、胃からなにか込み上げてきそうになり嘔吐く倭を緑が抱きとめてくれた。
ナイフが地面に放り投げられ、茜が倭達のいる方を振り向いて泣きながら弱々しく口を開く。
「あかん……やってもーた……っ…もう、許せなくて……ウチ……」
「……いい。ゆうは良くやった…」
ライ厶が茜を抱き締める。返り血が沢山付着していたが構わず受け止めてくれるライ厶の胸に涙を流しながら顔をうずめていた。
「…アリーシャ隊に関係のある人物以外の、来栖真奈に関する記憶は全て抹消される」
「?!」
いつの間にか側まできていたハーモニーが静かに囁くと、ぐちゃぐちゃの死体となった真奈の身体が光り、ゆっくりと姿が消えた。
「……これで身内や学校の人達は、初めから真奈様は存在しない状態になりました」
つまり倭達以外の一般人の記憶から真奈に関する全ての記憶が消えているということになる。この看護ロボは人の記憶改竄も難なく出来るようだ。
「私は……真奈様の為にも生きていくことを誓います。看護ロボットとして皆様のお役に立たせて下さい……」
その後は残されたハーモニーを迎え入れ、レイと一緒に鎖椰苛の治療に携わってくれたおかげで傷は回復し意識も取り戻すことが出来、皆で喜びを分かち合った。
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