9月10日
今日は皆でショッピングに行く予定を立てた。
しかし緑だけ準備に手間取って遅れてしまい、後から合流することになり急いで街に向かっていた。
所が方向音痴なせいで道に迷ってしまい、なかなか合流できず一人焦っていた。
「ど、どうしよう……」
そして機械音痴でもあるので携帯で位置情報を調べたりなども困難でとりあえず彷徨い歩いていたのだがさすがにまずい。
倭に迷ったとメッセージを送ろうとしていたら前から誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ……」
「ぉあ!わりぃ!ぶつかっちまったな!」
「あ……こちらこそ……前見てなくて」
赤い髪をサイドにまとめた女性は過剰に大丈夫だったかと緑を気遣ってくれた。
すごく謝られるが迷子で焦って前方確認せずに携帯を弄っていたからこちらにも非がある。
「なぁ、お詫びさせて?」
「え?そんな大丈夫ですよ…」
「頼むよ!このままじゃ気が晴れねぇんだ」
「は……はぁ……」
断りを入れていたがあまりにもグイグイくるので少しならと承諾した。
こちらも一応迷子の身だからついでに道案内してもらって解散出来ればいいかなと都合よく思っていたからだ。
「っし!じゃあプリクラ撮りにいこうぜ!」
「お詫びがプリクラ……?」
「そ!最近の人はプリクラ好きなんだろ?今日会えた記念に撮ってみたくて」
彼女はそう言うと眩しい位の笑顔で撮りに行こうと誘う。女性なのに鎖椰苛みたいに男勝りで、でもきちんと個性が見えてかっこいいなと素直に思い見蕩れてしまった。
「おい!」
「!?」
「ボケっとして大丈夫か?ほら、自己紹介したんだから次お前の番だぜ」
「あ……」
ついぼーっとして彼女の名前を聞きそびれてしまった。今更もう一回言ってなんて失礼だからやり過ごすことにして、緑は自分の名前を名乗る。
「本条緑か……なんか聞いた事あるな」
「え?あたしどこかで有名なんですか?」
「んー、わかんねぇ!まぁいいや!緑って呼ぶからお前も好きなように呼んでくれよ!あと敬語禁止な」
「わ、わかった……!」
じゃあ行こうぜと手を引かれ、ちょうど近くにあったゲームセンターに入り、プリクラ機を探した。
流れで一緒にプリクラを撮ることになるなんて思わなかった。
というか倭達に連絡しないと心配かけさせてしまうというのに彼女がグイグイ話しかけてくるものだから携帯を弄る暇がない。
仕方なくカメラに向かって笑顔を作り、プリクラを撮る。
「おいおい表情かてぇよ緑ー!もっとやわらかーく!ほらほら!」
「えっ、ちょ……やめ……っあはは……!」
彼女が緑の脇腹を擽ってくるので笑ってしまった。その隙にフラッシュが焚かれ、画面に映った緑は自然な笑い顔になっていた。
「いい顔すんじゃん」
「だってくすぐられたら笑っちゃうよ……」
「そういう顔、もっと見たいかも」
さっき会ったばかりだというのにこんなに打ち解けて話してくれるなんて率直に嬉しく思った。
そう思うと自然と笑顔になって残りの数枚も無事に取り終えることが出来た。
落書き時間になり、ハートのスタンプや文字を書く。
突然お友達になっちゃった♡と書いてみると彼女は笑って、ほんと突然だったよなと目を細めた。
出会った時から不思議に思っていたことがある。
彼女の両頬には謎の紫色の三角の形をしたシールみたいな物が貼られている。
気にしないでいたけれどやはり気になってしまうので思い切って聞いてみることにした。
「あの……頬っぺのそれって……何?」
「ん?あーこれ……ファッションみたいなもんだよ」
何だかはぐらかされた様な気もしたがファッションだと言うならそう受け入れるしかない。
落書きが終わり、出てきたプリクラのシールを半分こして外へ出た。
予期せぬハプニングから新しいお友達ができていい日になったと思う。
「そうだ、緑。誰にも言えないオレのこと、教えてやるよ。
オレは……」
「おーいみどりーん!!!」
「あっ、倭ちゃんたち!」
彼女が何か話そうとした所で向こう側から倭達が歩いてきた。
良かった、とりあえず合流ができて。
せっかくならば彼女を紹介して一緒に遊びに行こうと考えた。
「アリーシャ隊に襲われたと思って心配したんだからね!」
「ごめんねみんな」
「……アリーシャ、隊……」
「もしかして知ってるの?」
緑が彼女の方を見て尋ねるとラヴィッチが、みっちゃん離れて!!と叫んだ。
赤髪の彼女は何か考え込んだ後、ニヤリと笑った。
「……そうか、そういうことか……なるへそ。知ってるかだって?あったりめーだろ?」
「……もしかして」
「オレがアリーシャ隊のタルク・フォウマ様だからな!!」
「……!?」
やっと名前を聞けたというのにショックが大きかった。
せっかく友達になれたかと思ったのに。
急に彼女が遠い存在になった気がして、同時に悔しくて腹立たしくもなって緑は彼女の目の前に立つと変身した。
「みんなは下がってて」
「みー?」
「あたしが止めてみせるから……!!!」
そう叫んで本を開き、適当に開いたページの魔術を唱えてタルクに向かって雷撃を放つ。
「受けて立つぜ……緑」
タルクも自分の武器であろう刀を取り出し雷撃を薙ぎ払って躱した。
「緑、なんであんな必死そうなんだ?それにアイツと一緒にいたし……ん?」
後ろで鎖椰苛が不思議そうにしているが何かに気付いたそうなので一瞬だけ目を配ると先程撮ったプリクラがひらりと風に舞い、彼女の足元に落ちた。
そのプリクラで、何となく察して貰えただろうか。
絶対にあたしが彼女を止めて、仲間にしてみせると緑は誓う。
「でぇえい!!」
「っきゃ……!」
すると目を配った隙を突かれ刀で斬られてしまった。
途端に身体から力が抜けて地面にへたりこんでしまいそうになる。
この感覚、覚えている。魔力が無くなっていく感覚。
「お前の魔力、オレが吸い取ってんだよ」
「あれれ?それちびっこの技やないん?」
「う、うるせーな!昔教えて貰ったんだよラヴィッチに!!」
やはりそうだ。魔力を吸い取られる技は以前ラヴィッチに剣で斬られた時に体験していたものだ。
どうやら伝授してもらった技のようだ。ラヴィッチの時より吸い取られていく速度は遅いが着実に減らされて行っているのは確かだ。
「そいつらと合流する前にさっきさっさと別れてりゃ良かったのにな……っ!」
「ぅあああっ!!」
斬られながら、何も良くないと突っ込みを入れていた。
もし倭達と会う前にタルクと別れていても、いずれアリーシャ隊の一員だったということを知るはずだし辛い思いはどちらにせよすることになっていた。
それとも彼女は最初からこの展開になるとわかってわざとぶつかってきたというのか。
「最初から……っ、知ってたの……?」
「……いや、今日闘うつもりなんて無かったし。お前達の事はまぁ調べてたっちゃ調べてたけどオレ記憶力悪いから名前と顔一致してなくて。ぶつかったのはマジで偶然」
「……」
それを聞いて緑は不覚にも安堵してしまった。
もしもタルクが緑の事をわかっていてわざと絡んできたと言うのなら怒り狂ってしまっていたかもしれない。
彼女は絶対いい人なんだ。それは先程のプリクラの件でわかっている。
だからこそ仲間にしたい。なのに斬られて身体が思うように動かない。
「……っ、はぁ……はぁ……」
「魔力だいぶ無くなってきたろ?遠距離で魔法唱えることしかできないから、お前に勝ち目はねぇよ」
「……!」
足に力を入れタルクに至近距離で詰め寄った。
緑は手に隠し持っていたコインを彼女の顔面目掛けて弾き飛ばすとすぐに後ろに下がった。
その直後に大きな爆発を起こし、タルクは結っていた髪の毛を肩まで垂らし顔や身体から血を流して片膝をつく。
自分だって近距離戦は出来ないことはないのだ。普段からやっていないだけである。
近距離はライム。中距離はレイ。そして遠距離が緑で成り立っていたからだ。
「ち……くしょぉおお……ッ!!!!」
怒ったタルクが緑に向かって刀を横に振り切った。
それは緑の首元を掠り、切れた部分からゆっくりと血が流れ出ていく。
「……!おい!タルクだったか、気をつけろ!」
「……は?なんでオレ!?」
ライムがタルクに注意喚起した所で緑の意識は朦朧として何かに取り憑かれる感覚に包まれていった。
緑が首元から血を溢れさせ前のめりになっている姿を、倭は見覚えがあった。
「……ターゲット、タルク・フォウマ」
確か姫川との戦闘の時だ。あの時も緑は首を切られてから瞳にハイライトが消え、別人のようになったのだ。
緑はじっとタルクを見つめて立ち竦んでいる。
「貴女に問う。何故戦う?」
「……んなの、サラン様のために決まってんだろ」
タルクも突然別人のように振る舞う緑に違和感を感じながらも自分の闘戦う理由を話してくれた。
「あの人、すっげー苦しんでんだよ。だからオレが力になってやりたいんだ。そのためにお前らを殺す……!!!」
タルクは刀を二刀流で両手に持ち、一目散に緑に向かって突きつけようと突撃してきた。
緑は無言で見つめたまま動かない。このままでは刀が彼女の身体を貫いてしまう。
「みど―――」
倭が名前を呼ぼうとしたが次の瞬間事態は一変する。
タルクの左手に握っていた刀は半分に砕け、もう片方の手に握られた刀は緑が刃の部分を掴みタルクの動きを完全に止めていた。
砕けた方の刃は緑がへし折ったようだ。
「無駄。貴女に勝機はない」
「……なっ……」
タルクは力を込めて刀を振り下ろそうとしているが緑は全くビクともせず抑えている。
しかし刀の刃を素手で握っている為、掌から血がどんどん流れていっているのがわかる。タルクが降伏してくれないとさすがに緑の体力が危うい。
「……ただの巨乳だと思ってたのに、お前ナニモンだよ……」
「このままだと貴女は私に倒される。ただし、仲間になるというのなら話は変わる」
「……!」
「…私達の……仲間に、なって……本条緑の……友人に……」
緑がいよいよ辛そうに声を詰まらせた。
というか今、自分の事をわざわざ本条緑と言っていた。首を切られると別人のように態度が変わっていたがもしかして本当に別の人格が潜んでいるのだろうか。
「それと…人を助けてあげたい気持ちはわかる……。しかし間違っている人間に……間違っていると言わずに従い続けるなら……二度と刀を握れない程に貴女を破壊する」
「……はは、怖ぇ奴」
半ば自嘲気味に笑うとタルクは刀を手放した。そのまま緑も手を離し刀は地面に落ちた。
「いいよ、仲間んなる。そしたらお前と友達になれるし、サラン様も助けられんだろ?」
緑の強さに諦めたのだろうか。案外潔く身を引いて眉毛を八の字にしながら仲間になると言ってくれた。
すると緑は力尽きたのか前に倒れ込んでしまいそれをタルクが受け止めた。
「女友達として……よろしくね……タルクちゃん」
「……あ」
「よかったね!みどりん!タルクちゃん!」
仲間になってくれたのを全員が歓迎した。
しかしタルクは、あー、と生返事でなんだかハッキリしない。
「お前ら……勘違いしてる、よな?……オレ、男だぞ?」
「……えぇーーー!?!?!?」
ラヴィッチとナイチと響はもちろんわかっていたようで何も驚いていなかった。どこからどう見ても女の子にしか見えないし、確かに喋り口調は男の子のようだけど。
「え……じゃあ、あたし……男の人と……プリクラ撮ったってこと……あわわわ……」
緑が一番驚いて混乱していた。
「え?え?だって、これ、ホンモノやで!?」
「ちょ、いきなり触んなよ」
茜が躊躇いなくタルクの胸を揉みしだいて確認した。そこは女性特有の膨らみを持っているがどういうことなのだろうか。
「身体は女で心は男なんだよ。ちょっと昔、事故に遭っちまって…」
ざっくりと内容を説明してくれた。
タルクには元々姉がいたらしい。
ある時一緒に出かけている時に車が二人に向かって突っ込んできた。それをタルクが庇おうとしたのだが勢い余って二人は頭をぶつけてしまい、その時にどうやら中身だけが入れ替わってしまったようだ。
その事故で本来の弟だったタルクの方が亡くなって、姉の方が生き残ってしまった。魂だけ入れ替わった状態で、とのことだ。
余りにも奇想天外すぎて色々深く聞きたくなったが姉が亡くなっているのだから追求しないでおいた。
―――
「…………」
また一人、アリーシャ隊から人が居なくなった。
タルクさんがラヴィッチ君達の方に行ってしまう様子をモニターで見ていたサラン様は一言も喋らずに俯いた。
前の陽気な態度の彼女はどこに行ったのだろうと思うくらい憔悴しきっている。
部屋に呼ばれた真奈とハーモニーと、まだ十歳の双子の女の子が心配そうにサラン様を伺う。
そろそろあたしの出番だと思い、いの一番に声をかけた。
「……サラン様、次はあたしが」
「皆……私に、ついてこなくてもいいのよ?ラヴィ達の方に行きたいのなら……それでもいいからね?」
あのサラン様がそのように発言するとは思っていなかった。前に彼女が本当の目的を話してくれた時、あたしは特に何も思わなかった。
あたしはあたしの目的があるし、それが達成できるならサラン様のしたいことなど正直どうでも良かったのだ。
「……ふざけないで!サラン様!」
「……ソーラ…」
双子の内の一人がサラン様を叱るように怒鳴った。といっても幼いので覇気はないが。
「サラン様らしくないよ……あたし達は、カッチョイイサラン様についてきたんだから!」
「……正直、私達の仲間だった人達と戦うことになるのは辛いです…」
「パーラ…」
今度はもう一人の方が切ない表情をして呟く。
「皆さん強いから……怖いけど、サラン様の為に頑張りますから……!」
「……そうね、ごめんね。ソーラ、パーラ。真奈もごめんね、次は貴女に任せたわ」
「……はい」
そう言ってこの場はお開きになった。人数が少なくなったなとこの広い館内を歩いていて思った。
「真奈様~!」
一人部屋に戻ろうと早歩きで帰ろうとしたが後ろから気の抜けた声で名前を呼ばれ振り返った。ハーモニーだ。
振り向いたと同時にハーモニーは躓いて床に倒れてしまった。
「あいたたた……」
「……全く、何やってんのよハーモニー」
「真奈様に追いつこうと一生懸命走っていたら転んでしまいました~」
相変わらずの鈍臭さに内心イラッとしたが、そういう所がハーモニーという感じがして、彼女だけは変わらないでいて欲しいなんて柄にもない事を考えてしまった。
手を伸ばして起き上がらせてあげると間延びした口調でありがとうございますと礼を言われた。
「ハーモニー、作戦立てするわよ」
「!」
「あたしの部屋、行こう?」
次に奴らと戦うのはあたしと、ハーモニーだ。
あたしはラヴィッチ君達のようなバリバリの能力者ではないから、看護ロボのハーモニーを同伴させてもらうことにした。
「はい~!」
「ついにあの優紀茜を潰せる時が来るのね……楽しみだわ」
どうやって残酷に殺してやろうか考えるだけでゾクゾクしてくる。
鎖椰苛の目の前で必ず見せつけてやると意気込んで部屋に入った。
戦闘が軽い!
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