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8月28日

 

「クジを引いて書いてあるもののコスプレをしようゲーム~!」


 倭の部屋にて。

 大きくハテナと書かれた箱にコスプレの名前を書いた紙を人数分入れ、それを皆で引いてコスプレして遊ぼうという企画を倭は急に立てた。

 何故急にそう思い立ったかというと、倭の親戚の枯那(こな)に友達が増えたと話したら嬉しそうにコスプレをプレゼントしてくれたのだ。


 ナイチだけは嫌そうにしていたけれど、ラヴィッチが有無を言わさない笑顔で何とか説得してくれたようで各々がクジを引いた。


 まずは倭。お題は浴衣だったので可愛いピンクの浴衣に袖を通し帯を締めた。


「なんか付属でチョコバナナあるんだって~」


 何だかお祭り気分になれて楽しい気持ちになれた。今は八月だが夏らしい事がなかなか出来ずにいたので尚更そう感じる事が出来たのだろう。


「はいよ、やまピー」


「?ありがとあっちゃん……」


 茜が私をその場に座らせると目の前に立ち、チョコバナナを手に持ったまま食べさせようとしてくる。

 よく分からない体勢だがお祭り気分を味わいたかったので気にせず食べることにした。茜が手に持っているので倭は手を使わず咥え込むようにして口を開けて齧り付いた。


「っはぁ……ん、んん……」


 倭が一生懸命食べている最中、誰一人として言葉を発さずにその場を見届けていた。特に緑が顔を真っ赤にさせて悶えていたが何だかめちゃくちゃ恥ずかしい。


 何とか食べ終えることが出来たので口を離す。

 茜が感想は?と聞いてくるので素直に甘くて美味しかったよ?と口の端についたチョコレートを舐め取りながら答えるとザワついていた。


 ―――


 次はライ厶。

 着替えて部屋に入ってきたライ厶は、首元にリボンを付け、フリフリの黒いワンピースに身を包んでいた。

 お題はゴスロリのようだ。スラリと着こなす姿はゴスロリなのに正装のように見えて流石としか言えない。


「ライム……似合いすぎよ……!」


「ふはは!!ひれ伏せ愚者共よ!!」


「ライさん……キャラが……」


 腕を組んで仁王立ちするが、何をしても様になっている為つい従って跪いてしまった。

 ラヴィッチがライさんってこういうの着るとなりきるタイプなの?と不思議そうに尋ねた。

 今までこんな風に遊ぶことは無かったので意外と好きなのかもとライ厶の新たな一面を垣間見た瞬間だった。


 ―――


 次は緑。

 黒と白の修道服に身を包み、優しく微笑んでこちらを見ていた。


「みどりん……似合いすぎてる……」


 本職なのでは?と疑うくらい馴染んでいて愛読書の聖書を持てば完璧だと思った。


「倭ちゃん……いや、黒花倭さん」


「ほへ?」


 倭の前に静かに座るとそっと手を握られる。自然な仕草に無意識にドキドキしていた。


「あたしと永遠の愛を誓ってくれますか……?」


「誓いまーーす!!!」


 そう乗ってあげるととても嬉しそうな表情をしてあたしもだーーーいすきーーー!と抱き締められ、せっかく役にハマっていたのに素の緑に戻ってしまい苦笑いした。


 ―――


 次は茜。

 お題はスクール水着。胸元に大きく”あかね”と名前を掲げ膝には何故か絆創膏が貼られていた。


「膝の絆創膏思い切り剥がしてやるか」


 鎖椰苛がよからぬ事を企み、茜に近付き物凄いスピードで絆創膏を剥がした。自分がやられたらと思うだけでゾッとした。

 だが茜は…。


「いやぁああん…♡」


 誤解を招くようなちょっぴりえっちな声を出して誘うように脚を擦り合わせていた。


「もぉ……さや団長……っ、もっとゆっくりして……?」


「……」


 鎖椰苛はドン引きしていた。顔が文字通り死んでいる。


「あ、でも……気持ちよかったで…?もう一回してもええよ……?」


「ひゅーーー!」


「ひゅーじゃねぇよ!!!」


 面白かったので囃し立てると鎖椰苛に叩かれてしまった。


 ―――


 次は鎖椰苛。

 猫耳を生やし、首輪には鈴、尻尾を伸ばし、なんと服は胸元と下半身を薄っぺらい布で隠しただけの大胆なコスプレだった。お題は猫だった。


「…………っ」


 当然本人は、お腹も腕も脚も見えてしまっているこの格好が気に入らないようで不機嫌そうに何処かを睨み付けていた。


「可愛げのない猫やなっ!鳴いてくれへんのか?」


「ねぇねぇ、にゃーって鳴いてみてよ!鎖椰苛ちゃん!」


「……にゃあっ」


 茜と響がそうリクエストすると嫌々ながらもしっかりと鳴き真似を披露してくれた。彼女もライ厶と同じで意外と好きなのかもしれない。こういうノリが。


「今の録音したから毎晩聴いてから眠ることにするで~」


「…茜…っ、てめぇ殺す……ッ!!!!」


 ―――


 次はレイ。

 小さな角を頭に生やし、胸を強調させる際どいネグリジェのような格好の彼女のお題は小悪魔。


「レイ先輩が悪魔って……しっくりくる…」


「似合いすぎて凄いな……」


 緑とライ厶が褒め称える程、レイのその姿は完璧だった。妖艶に微笑む姿が魅惑的で扇情的で同性の倭も息を飲んだ。


「ふふ……貴方、私のこの姿に欲情したのかしら?」


 何処か別の方向をカメラ目線にし、厭らしく煽る。


「いいわ……私が貴方に色々な事を教え込んであげるわ…♡もちろんその身体に、ね♡」


「レイ嬢が一番ノリノリじゃねぇかよ」


 うっとりした表情で艶めかしく誘うレイがとても楽しそうでなによりだなと率直に思った。


 ―――


 次は響。


 なんと男性陣の分もコスプレが用意されていて、響はスーツ姿にタイトスカートを履いて佇んでいる。ちなみに眼鏡も装着。


「女装や……!」


「お題は女教師、らしいわね」


 響はどうすればいいかよく分かっていないようで無表情のまま硬直状態だった。


「奴は純粋だから言えば何でもやってくれるんじゃないか?」


 ナイチがそう言うのですかさず何かを言わせたい茜が響君に詰め寄り作戦会議をしだした。

 すると彼は服を乱し、肩をあらわにさせながら先程のレイとまではいかないが妖艶に囁いた。


「先生が特別授業をしてあげる…♡ほら……まずは脱いで?」


「あーー!!響が汚れていくーー!!!!」


 まさか本当に言ってくれるとは思わなかった。ラヴィッチがダメだダメだとストップをかけて響先生の特別授業は中断された。


 ―――


 次はナイチ。


「おい……!この服、下がないぞ!!」


「あ、それそういう仕様だよ」


「ナイチ~早くおいでよ~」


 響に引っ張られ、出てきたナイチはサンタクロースの格好をしていた。赤を基調とした服だが彼は下を履いていない為生脚が晒されている。

 多分女の子用でワンピースとして着るものなのだろう。ナイチが着るとかなりミニになって色々とすごい。見えそうだ。


「く……くそぅ……!屈辱だ……」


 必死に下を見られないようにと服を伸ばしているがかなりギリギリだ。


「ナイチ……男でそれは引くよ」


「だから嫌だったんだ!!!俺はくじ運ないからな!!!」


 ラヴィッチに咎められ赤面しながらナイチは着替えに行ってしまった。


 ―――


 最後はラヴィッチ。


「……!!」


 全員がハッと驚いた。彼はふわふわの白のワンピースに頭には輪っかを付け、にっこり笑っていた。

 お題は天使。まさに文字通りである。


「すごい在原ちゃん……!サイズもピッタリだし似合ってるよ!」


「そう?女装なんてした事ないから何だか気恥ずかしいな…」


 女性物のサイズのはずなのに何故かピッタリなのは突っ込まないでおいた。

 するとナイチがじっとラヴィッチを見ると冷たく鼻で笑い、言い放った。


「ラヴィッチには似合わないな」


「え?なんか言った?ナイチ」


「…いや、…何でも似合うな」


「だろ?さすが僕って感じだよね」


 ラヴィッチがまたもや有無を言わさないような言葉の圧でナイチに返すと、恐れた彼は言葉を撤回して褒めた。


 ラヴィッチはたまにこういう腹黒い面があるなと最近よく思うことがある。

 そこが彼の魅力でもあるのだろうけど。


 ラヴィッチ達は戦闘の鍛錬をしてくると言い、ナイチと響を連れてどこかへ行ってしまった。服装はそのままで。

 倭の部屋には女性陣が残り、茜が倭に話しかけてきた。


「…なぁ、やまピーとちびっこってどういう関係なん?」


「へ?」


「あっ!気になるわそれ!私も聞きたかったのよ」


 レイも興味深そうに話に参加してきた。倭はきょとんとして普通に返した。


「どういうも何も……普通だよ?お友達というか」


「はぁ?冗談だろお前…アイツと住んでるんだろ?」


「意識しないのか?異性として」


 鎖椰苛もライ厶も納得がいかないようなリアクションをしている。住んでるとはいえ親もいるから特別何かある訳でもないと思う。


「そりゃ男の子だもん多少はするけど~…」


 確かに彼が居候してから少し経つが、特に何も無い。というか何かある方が変ではないのか。ラヴィッチとは友達として関わりあっている。ただそれだけだ。


「お母様は……一緒に住むことを許可してくれたのよね?」


「うん、てっきり断られると思ったんだけど。お母さんイケメン好きだから即オッケーしてくれたんだ」


 ラヴィッチが言葉巧みに母親を説得したあの最初の日を思い出した。

 居候することを許してくれて、その後に…。


「そうそう、その日に一緒にお風呂に……」


「倭ちゃんその話詳しく教えてくれる、よね?」


「えぇ?!みどりんなんか怖いよ……!」


 緑が話を遮り、倭の肩を強く握りながら怖い顔で訴えかけてきた。よく分からないけど付加疑問文で聞いてくるあたり彼女らしいなと思った。


 話をしないといけない雰囲気にさせられたのでアバウトにだがあの日のお風呂での出来事を話してみる。

 頭を洗いっこしたこと、身体も洗おうとしてきて慌てて滑ってラヴィッチに押し倒されたような体勢になったこと、綺麗だと言われたこと。


「ふふ……ふふふ……」


「だ、大丈夫だよみどりん!何もされてないし在原ちゃんは仲間として好きなだけだからね!」


 緑がフラフラ身体をよろけさせながら不気味に笑っている。それを茜が支えながら、他にもエピソードあるんかと聞かれたので朝の出来事を思い出し話した。


「この間朝起きたら…いつもは別の布団で寝ているはずの在原ちゃんが私の横で寝てて…びっくりして起こしたら謝りながら、どうしてかやまと一緒に寝たくなったんだって言われた!」


「えぇーーー!!!」


「それもうあかんやん朝チュンやんー!!!」


「あ……みーが気絶したぞ……!!」


「えーっ!みどりんしっかりして!」


 そのエピソードが凄まじかったのか全員が驚いた声を上げ緑が気を失ってしまった。


「で、でもホントに寝てただけみたいだし…別にそれだけっていうか…」


「倭さん、ご自身の気持ちに気付いていないの?」


「ど、どういう……」


「直球で聞くわよ?在原くんのこと、男性として好きじゃないの?」


「……」


 倭はラヴィッチのことをどう思っているのか。考えたこともなかった。

 時々大胆な行動に出るからそういうことに関してはドキドキさせられていたけれど。

 響達と戦闘した日、ラヴィッチが倭を第一に守ってくれた時は、違う意味でドキドキした?


「……わかんないよ、好きとか……異性に恋したことないもん……」


「まぁすぐに結論出す必要もないだろう。さ、我らも戦闘訓練してくるか」


「えぇ、行きましょう」


 とりあえず今日はこれでお開きにすることになった。

 緑は変わらず気絶しているのでライ厶に背負ってもらって家まで送ってもらうように頼んだ。


 ―――


 倭の家から帰る道中。先程話していたラヴィッチへの恋について皆と話していた。


「クロは伊吹のことを好きになるのだろうか」


「ああいう子は最後の最後で好きって気持ちに気付くものなのよ」


「せやで。だからもう少しやな」


 あのようにラヴィッチの話題を出してあげたのだからこれから先、彼のことを意識するようになるに違いない。

 好きだと確信するのも恐らく時間の問題だろう。


「レイ嬢も茜もこの手の話題には詳しいな」


「我には難しくてわからぬ」


(貴女方が鈍いのよ……!!)


 レイの心の叫びは茜さんとハモっていた自信がある。


(早く気付きなさいよ!私の気持ちに!なんて恥ずかしくて言えないけど)


「倭があいつを好きだと意識して、問題は緑だな」


「せやなぁ、みーたんには辛い思いさせてまうかもやなぁ」


 ライムに背負われ眠っている緑を隣で見つめる。

 彼女も彼女で真っ直ぐに倭を好いているから色々複雑になってしまいそうなのだ。

 ラヴィッチと倭が結ばれれば緑が悲しんでしまう。頭を悩ませる案件だ。


「どちらを応援すればいいのかしらね……」


 まずはお膳立てをしたのだからこれから先どう倭が気持ちの変化に応需していくかだ。

 しばらくは見守っていようとこの先の展開に期待をした。


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