欲という魔物をさがして
一つの言葉に対する解釈は人それぞれなのかもしれない、というお話。
欲というのは、目に見えない魔物です。
可愛いお姫様は、そう言いました。
お姫様の家庭教師である私は、こう言いました。
「欲が無ければ、人は無気力になります」
それを聞いたお姫様は、では欲は活力なのね、と返しました。
「そうですね。そうとも言えるかと思います」
それなら、わたくしは活力のないお人形さんですわ、とお姫様がポツンと言いました。
「では、欲を探してみてはいかがですか?」
私はそう励ましました。
なるほど、とお姫様は言いました。
ある日、家庭教師が可愛いお姫様のもとを訪れると、そこはがらんどうでした。
私は驚いて、お姫様に聞きました。
「どうなさったのですか?」
私の言葉を聞いて、お姫様は目を輝かせて言いました。
わたくしは、欲を探してとうとう見つけたのです、と。
「それは、何ですか?」
と私が問うと、にっこりと微笑んでお姫様はこう言いました。
自由です。
しばらくすると、可愛いお姫様はすべてを捨てて、どこかに行ってしまいました。そのことを知った私は、「ああ。お姫様はとうとう自由を手に入れたのだ」と思いました。
私はまたある日、別の綺麗なお姫様に出会いました。
そのお姫様はきれいな衣装を身にまとい、毎日あれがほしい、これがほしいと我がままを言っています。
私はお姫様にたずねました。
「何でも持っていらっしゃるのに、まだ欲しいのですか?」
そのお姫様は不思議そうに言い返しました。
欲はあとからあとからあふれてくるの。欲は生きる活力なのでしょう?と。
なるほど、と私は思いました。
「では、すべての欲を手にしたお姫様は幸せですか?」
私がそう聞くと、お姫様はポツンと言いました。
幸せかしら。自由がないのに。
お姫様は、とても悲しそうでした。
その時、私はふと自由を手に入れたお姫様のことを思い出しました。
「私は、自由になって幸せそうなお姫様を知っています」
そう言うと、お姫様は首をかしげて聞きました。
どうやって、自由になったの?と。
私は頷いて話しました。
「すべてを捨てたのです。自分自身以外のすべてを持たず、自由になったのです」
なるほど、とお姫様は言いました。
ある日、家庭教師が綺麗なお姫様のもとを訪れると、そこはがらんどうでした。
私は驚いて、お姫様に聞きました。
「どうなさったのですか?」
私の言葉を聞いて、お姫様は目を怒らせて叫びました。
あなたの言うとおりすべてを捨てたら、わたくしはたった一人になってしまったのよ!これは自由じゃない、孤独よ!ああ…なんて可哀想なわたくし…。
とうとうお姫様はわあわあ泣き出してしまいました。
やはり欲は魔物か、と私は思いました。
終
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