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RAINBOW  作者: Mizuki
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第1話 ついに開けた道

 RAINBOW。直訳すると「虹」であり、日本では7種類の色鮮やかな色達が繰り広げる美しいアーチを指す。ところが世界全体で見ると、決して虹の構成要素が7色である訳ではなく、国や地域によって様々である。もちろん、個人個人での虹に対してのイメージも違うだろうし、人によっては虹が単に色彩の織り成すアートであるだけではないだろう。私にとっての虹、それは...



 いつも通りの朝の目覚め。いつも通りの一日の始まり。

唯一いつもと違うことと言えば、今日は大学入試の合格発表の日だということ。その点からすると、昨日はほとんど眠れなかったので、いつも通りとは言い難いかもしれない。

 まずは私の自己紹介から始めようか。私の名前は虹丘詩音、現在20歳である。。こう書いて、「にじのおかしおん」と読むのだが、初めて名前を読む人からは大概「にじおか」と呼ばれる。というか私もそれでいい気がするのだが、なぜ私の先祖は「の」を読み仮名に入れてしまったのか。理解に苦しむ...。ちなみに家族構成は両親と2つ下妹の4人家族。至って普通の家庭だと思う。

 いつも通り朝ご飯を食べ、テレビを見ながらゆっくり過ごす。ニュースでは新型ウイルス感染症の話題ばっかりだ。医薬品登録販売者資格を持っている私の勝手な考えだが、感染力が強いとはいえ、症状はインフルエンザ並程度であり、殺菌・消毒で十分対策することができるのに、世間は何をそんなに慌てているのだろうと思う。熱殺菌にめっぽう弱いことも分かっていたので、家では私の主導の元、家族共用のものなどはできる限り熱殺菌、できないものは消毒液を用いて殺菌するなど、考え得る限り万全の対策を行っている。そのおかげか、毎年誰か一人がインフルエンザでダウンするのに、今年は誰一人としてインフルエンザに感染していない。

 そんな考えを頭の中でぐるぐる巡らせながらテレビをぼーっと見ていると、母親に「あんた今日10時から歯医者でしょ!?何ぼーっとしてるの??」と一喝され、時計を見る。時計の長針はすでに8を回っている。「わっすれてたあああああ!」と叫びながら急いで支度し、いつも以上に入念に歯を磨く。そうだった、入試結果ばかりに気を取られて完全に忘れていた。いつもより入念に歯を磨き、保険証や診察券を持たずに家を飛び出し、母親に呼び止められて家に戻ってリスタート。ほんとに何やっているんだが。

 家から走って歯医者に向かう...のだが、準備が早く終わったのもあり、時間的には歩いても十分に間に合う時間だった。それは頭でもわかっていたし、腕につけている時計を見て「十分間に合うのでは」と思っていた。それでも足が止まらない。胸の鼓動も激しくなっていく。何に対して急いでいるのか自分自身でもわからない。それでも私は歯医者へ急ぎ続けた。

 歯医者についたのは予約時間の5分前。歯医者の入り口にたどり着き、時計を見て無事についたとほっとしたのも束の間、5分後に訪れる避けがたい現実があることを思い出してしまう。再び、胸の鼓動が激しくなる。この鼓動はさっき走っているときと同じ鼓動だ。そうか、さっき走っていたのはこの鼓動をかき消すためだったのだろうか。今年の大学入試は私にとっては最後の入試となるだろうし、それだけプレッシャーがあるのは自覚していたつもりだった。自分の無意識の領域では、それ以上に重要なこととして認識されていたらしく、鼓動は速くなる一方である。そんな自分の心を「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせながら、歯医者の自動ドアを開ける。なるべく笑顔で歯医者に入ろうと努力した。



 「お待ちしておりました。虹丘さんですね。顔色が優れないようですが、本日はどうなさいました?」

受付の医療事務の方には、私が取り乱していることがバレバレだった。それもそのはず、この方には小学生のころから10年以上お世話になっており、私の体調を察することぐらい、彼女には容易であった。さっき取り繕った笑顔を崩しながら、私は受付をして本音をぶつけた。

「実はこの後10時から大学入試の合格発表なんですよねー...考えただけで緊張してしまいまして。」

「あら、それは緊張しますよねー...もう後は神のみぞ知るという感じですけど、私も合格しているよう、お祈りしておきますね!」

「あっ、ありがとうございます。」

「では、待合室でお待ちくださいね。」

 おそらく気休めか、あるいは励ましてくれたのだろうと思うが、私はその言葉を聞いたとき、妙に自信を持つことができた。彼女が祈ってくれれば、合格するかもしれない。そんな他力本願などうしようもない考えを頭に巡らせながら、私は待合室のソファに座り、スマホで大学のホームページを開く。歯医者に入る前から鳴り響く鼓動が、いまにも緊張でどうにかなってしまいそうな私の意識を何とか保ってくれている。そして、合格発表のページへ移動し、そこに書いてある文字に目を通そうとした。そこには、


「合格者の入試番号は10時半ごろに掲載する予定です。」


との一文だけ記されていた。

 私の体の中で何かがプチンと音を立てて切れた。すかさず写真に収めた入試の手引きを見るも、そこには発表は10時と記されており、自分が間違っていないことはすぐに確信できた。おそらく大学側の都合だろうが、こうも無駄なエネルギーの消費をしたことがかつてあっただろうか。私は疲れ切った様子でソファでしばらくぼーっとすることにした。



「...さん!虹丘さん!!」

 小説ではよくある、誰かの呼び声で目を覚ます光景。そう、私は知らない間に眠りに落ちてしまっていたのだ。順番が来たらしく、私の名前が呼ばれている。私は体を起こすと、待合室から診察室の入口へ足を進めた。いつものように治療を受ける部屋番号を聞き、その部屋へ入る。さっきまでの鼓動は胸を潜め、心臓は静かにとくとくと音を立てている。

 その部屋では、私の顔なじみの先生が待っていた。

「遅かったじゃないか詩音くんー。危うく次の患者さんを呼ぼうとするところだったよー」

「すいません!昨日あまり眠れなかったものでつい居眠りを...」

「そっかそっか、じゃあ歯を診ている間は寝ててもいいよ。口さえ開けてくれれば、ね。」

この人も小学生の時からお世話になっている人で、不思議と心を許してしまう雰囲気がある。歯医者の後はよく長話をして、医療事務の人に怒られたこともあったっけ。

 私は体を椅子に預け、リラックスして口を開けた。私は時々歯磨きをすることを忘れるのだが、私の歯は丈夫なのか、虫歯になったことがほとんどない。そんな歯を持つ私にも、先生はちゃんと歯を磨くように厳しく指導していた。今は小さいころほど厳しく言われることはなくなったけど。

 そのまま、口の細かいところを様々に検査され、その間も世間話を振ってくるので寝る暇もなく終わった。

「少し歯石がたまってきてるので掃除の準備をするから待っててねー」

と、先生は言い残して奥の部屋へ。私は椅子に座ったまま、壁にかかっているテレビを眺めていた。

「また新型ウイルスの話か...」画面の外に視線を動かそうとしたとき、画面の左上に書いてある数字に目が止まってしまった。

 イチ、ゼロ、コロンを挟んでニ、ハチ...その並びの意味を理解した瞬間に、私の心臓はまた激しい鼓動を打ち始めた。早い時間の流れに置き去りにしていたが、あるいは心のどこかで忘れたかった自分がいたのかもしれない。

そのようなことを考えながら、合格発表のページを開く。そこには合格者番号を記載したPDFが掲載されていた。

落ち着け、おちつけ、と自分で言い聞かせながらPDFをタップし、ダウンロードする。私の中のポンプは今にもオーバーワークで故障しそうなぐらいずっとハイスピードで血液を押し出している。それにつられてどんどん息も速く、荒く。頭では落ち着かせようとも、もはや体は言うことを聞かなかった。

私の入試番号の下3桁は001。つまり、一番最初に記載されていなければおしまい...そう考えた私は、PDFが開かれた瞬間反射的に左上を手でおおってしまった。右下から、合格者総数と合格者番号を1つずつ確認する。

残り5人、残り4人...これ以上は体が壊れそうなぐらい緊張が高まる。残り3人の時点で合格者番号は005。あと3人の枠を001〜004の4人が取り合う形となった。実際にはもう合否は決定しているので今更、という思考に到底到達できる訳もなく、75%をとってくれと必死で祈ることしか出来ない。

そして、次の番号を隠している手を少しずらす。


そこには、「003」と記載されていた。

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