はい、こちら天界相談室です!転生者のご利用をお待ちしております。
―――チリリリリリン!
「はい、こちら天界相談室!どんな些細なこともお伺いいたします、皆様の良き相談相手ラフィーナでございます!」
『ちょっと、どういうことよ!折角ヒロインに生まれ変わったのに、悪役令嬢も転生者なんだけど!原作通りにストーリーが進まないなんて、そっちのミスじゃないの!?しかも、あの女、王太子狙いとか、ふざけんのもいいかげんにしなさいよ!』
「大変申し訳ございません!すぐに現地調査いたします。恐れ入りますが、お客様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
『はあ?名前なんて言わなくてもわかるでしょうが!私は選ばれて転生したのよ!いいから、さっさと調べなさいよ!』
「…かしこまりました。お時間いただきますので、また改めてご連絡いたします。」
『早くしてよね!こっちは忙しいんだから!まったくもう、使えないんだから―――』
ブツッ!ツー、ツー、ツー。
ふぅ――――。
えーと、着信履歴から調べないといけないから、番号を控えて、後で転生事務局に申請して、と。
あ、もうお昼休憩一時間も押してる。今日も食堂は閉まっちゃうなあ。ああ、おばちゃんの作るカレーライス食べたかったよぉ。今月ピンチだから外食したくないのに。お腹空いたはずなのに、一周回って何も胃に入らない気がする。
―――チリリリリリン、チリリリリリン、チリリリリリン!
「おい、新人!電話はワンコールで取れ!できないなら、もっかい人間界で徳積んできて、やり直して来い!」
「はい、すみません!ただいま!」
「おい、頼んでた書類どこにやった?はあ、まだ取りに行ってない?お前のその羽は何のために付いてるんだ、さっさと行ってこい!」
「室長すみません!例のクレーマーからまた電話入ってます!」
「ぎゃーーーー!私の羽が円形脱毛症に!」
「―――またのご利用をお待ちしております。ありがとうございました。」
「ぼーっとしてんな!羽むしり取んぞ!!!」
「申し訳ございません!」
「はい、こちら天界相談室!どんな些細なことも――――」
▽△▽△▽△▽△▽△▽△
「忙しすぎる!!!!!」
ダンッとビールジョッキを叩きつける。
「荒れてんねー。そんなに忙しいんだ、相談室?」
「忙しいってもんじゃないよ!なんであんなに問い合わせが多いの?しかも、どれも苦情の電話ばっかり!残業のオンパレードだよ…。同じ世界にいる転生者なんてお隣同士仲良くやってよぉ。」
「隣人問題こそ一番の難関でしょ。ああいうのは、第三者が間に入ったほうがいいのよ。」
「やだ!あったかいご飯が食べたい。もう携帯食はいや!職場の人も、プライベート削ってまで働く仕事人間しかいないんだ…」
「おー、おー。だいぶキテんねー。でも、あたしらが天使なの忘れないでよ。このおバカさん。」
おでこをツンツン突かれる。地味に痛い。あ、やばい、泣けてきた。この涙もソフィアが私のおでこを突くからだ。
「うう、戻りたい。みんなで仲良く研修してたあのころは楽しかったなあ。なんで私だけ相談室に配属なんだろう。絶対、新人が来るところじゃないって…」
「ラフィーナだけだもんね、同期で相談室行ったの。そういえば、この前、研修が一緒だったミゲルに会ったけど、アイツも相当キテたよ。」
「あー、ミゲルって観察課だっけ。そりゃこんだけ転生者いたら、レポート書くのも大変だよねぇ。」
「いや、なんか仕事量より内容のが精神的にクるって言ってたよ。しょっちゅう『ふっ、おもしれー女』とか『暗黒微笑』とか書かないといけなくて、ストレスがマッハらしい。」
「王道じゃん。いやいや、それダメだったら観察課無理でしょ。」
「本人曰く、イケる気がしたそうよ。」
すいませーん、このフライドポテトもお願いしまーす。あ、私ポテサラ食べたい。はあ?芋ばっかじゃん。別にいいけど。あ、やっぱり、生も追加で。私も!
ぐだぐだ愚痴りながら枝豆を食べる。む、塩かけ過ぎだわ、これ。しょっぱい。
「だいたい、何で最近は転生が多いんだろう。」
「俗世の流行らしいよ。聖女転生とか悪役令嬢転生とか。今月発表されてた、転生したい先ランキング上位だし。」
「なんだよー、みんなちょっと前までは、テニス部とかバスケ部がいいって言ってたじゃん!最強愛され主人公をみんな目指したのに!」
「あったあった、懐かしい。海賊とかマフィアになりたい人も多かったわ。時代だねー。」
「世界観バラバラで転生事務局の子とか、半分おかしくなってたもんね。覚えることいっぱいで大変そうだったなぁ。私は必須履修科目だけで精一杯だったもん。」
お互いにケラケラ笑いながらビールを流し込む。
「「はあ」」
「ごめん、私ばっか愚痴っちゃって。ソフィアも話してよ」
「えー、うちのところは相変わらず上が仕事しないからなー。この前もいきなり『トラ転させちゃった☆』とか言ってきたから。あれほど急に転生させるなって言ってるのに、また事務局に怒られてさあ。転生させるのは勝手だけど、事後処理で申請出すのはこっちなんですけど、みたいな!」
「おうおう、溜まってるねぇ。上の直属ってのも、エリートだけど大変なんだねぇ。」
「残業しなかったのなんて遠い昔よ。定時退社させたいなら、ギリギリの時間に案件増やすなって何回言えばわかるのかしら!」
「それな」
お待たせしましたー。こちら追加注文になりまーす。ご確認くださーい。
癖の強い店員からジャガイモを引き取る。
ぱくり。美味い。ごくごく、ぷはぁ!
「やだやだやだ、もう辞める!!絶対に辞める!今度こそ、マジで辞める!!!」
「はいはい。あんたそれもう百回は言ってるわよ。田舎に帰っておとなしく家業でも継いどきな。」
「ソフィアが冷たい…」
ぺちゃりと頬をテーブルに寄せる。冷たくて気持ちいい。もうなーんにもやる気が出ない。あーあ、どっかにいい仕事転がってないかな。
ぃらっしゃーせーと、覇気のない声が新しい客を呼び込む。ぼうっと眺めていたが、衝立の奥から見えた姿に慌てて姿勢を直す。やばい。どうしてこんなところに、室長が!
「室長!お疲れ様です!」
「お疲れ様。ラフィーナ君、今はプライベートなんだからそんなに気負わなくても大丈夫だよ。オフは楽しまなきゃね。それとも、僕ってそんなに怖いかな?」
「いえ、そんな滅相もない!」
「そう、よかった。」
にこっと手を軽く挙げて挨拶すると「じゃあ、僕奥の席だから」と颯爽と去っていく。はわわわわわ。室長の私服初めて見た!オシャレ!よっ、爽やか眼鏡!あんたが大将だ!
「やーん、職場以外で会えるなんてラッキー!オフの室長もかっこいいー!」
「はあ。あんたホント俗っぽいわね。」
「別にいいじゃーん。今の仕事の癒しは室長しかいないんだよぉ。仕事もできてかっこよくて優しいなんて完璧すぎる。好き。」
「…その大好きな室長があんたのこと今の部署に引っ張ったらしいって聞いたけど、」
「えー!聞こえなーい!」
「むしろ諸悪の根源じゃないの。」
「なんのことかなー。ラフィーナ難しい話わかんない!」
「………」
「その話は勘弁してください…」
「チーズ三種盛りに赤ワイン。」
「はい、ただちに!」
賢い子は好きよと、ソフィアの真っ赤な唇が弧を描く。シュバッと勢いよく手を挙げて店員さんを呼ぶ。さっきまでのやる気のない店員じゃない、元気で明るい子がすぐに注文を取ってくれた。ふむ、生ハムも追加注文しとこ。あと野菜食べたい。これも頼んじゃお。
ちらっとソフィアを伺うと、にこにことご機嫌の様子だったので、このチョイスは正解らしい。よっしゃ!
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「お会計お願いしまーす!」
「はーい!お待たせしました!」
「へっへっへ。今日は私が出しますよ、ソフィアさん。」
「いや、悪いわよ。なんだかんだ私も結構食べたし。」
いつも通り割り勘しとく?と、お会計の金額を見れば0円。んん?飲み過ぎて目がおかしくなった?
え?私たち、ちゃんと食べたよね?幻?
ぽかんとした私たちに気付いた店員ちゃんが笑顔で教えてくれる。
「あ、お客様のお代は奥の男性からいただいておりますので結構ですよ。またのお越しをお待ちしております。ありがとうございましたー!」
え、それってもしかして…!
バッと勢いよく振り向くと丁度こちらに気付いた室長と目が合った。慌てて二人でお礼を言いに行こうとしたのに、ひらひらと手でいなされる。くぅ~~~!かっこいい!!!いっぱい好き!!
「室長、一生ついていきます!!!!!」
「あんたってホント現金なやつね。」
呆れたようなソフィアのことなんて知らん。私は室長一筋で生きていくんだいっ!!!
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ここは天界にあるお悩み相談室。どんな些細なことも、専門スタッフがお伺いいたします。
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「はい、こちら天界相談室!どんな些細なこともお伺いいたします、皆様の良き相談相手ラフィーナでございます!」