表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/18

8.状況把握(2)



「ママ?おやすみしてる……食べていい……」

「食べちゃダメ」

「じゃあ……パパ?」

「"じゃあ"じゃありません。パパでもありません」


 突然ロゥレルが気絶したため、比較的清潔なスペースを見繕って彼女を運ぶ。と言っても、寝かせる場所などないため内壁を背に座らせただけだが……。

 怪我をしている訳でもないので、下手な治療魔法は控える他ない。


 彼女が自然に目を覚ますまで待つしかないか……。


「食べて、いい……」

「だからダメ」

「じゃあパパ……」

「だから……あ~もう……!」


 ロゥレルに加えて、この子の面倒も見なくちゃいけないし!

 さっきから食べる、パパ。食べる、パパ。食べる、パパ。の無限ループ……これは何の苦行ですか?


 それに会った最初から思っていたが、この子は剰りにも幼い。見た目の話ではなく、言動がだ。

 いや、幼いと言うより、『貧弱』だ。顔色とか痩せ細るとか、特に健康状態は問題無いと見えるのに、さっきから話せる言葉は同じ。『ちじょーのもつれ』とやらだけは例外だけど……これらの言葉以外からっきしだ。


 幼女といっても、顔つきや骨格(上半身のみ)はあの街の兄妹と同程度に見えるし……このおぼつかない言動は何なんだ?


 亜人だから?

 ロゥレルが言っていたように、ずっとここに籠って体力を温存していたから?

 他者との関わりがなかったから?


 ……この廃屋に居たことも含めて、分からないことが多すぎる。

 だけどこの子話さないし、ロゥレルは気絶してるし……なんで俺はこんな状況に巻き込まれてるの?


「パパ……食べる……」

「あぁもう!どんだけお腹空いてるの!分かった、何かあげるからそれを食べててね……!」

「服は……いやぁ」

「服じゃないから……ん、これでいいかな?」

 

 あの麻袋から取り出したのは、いつかサブ・クエストを達成して得た追加報酬のそれ。



 アイテム名は確か……《深淵海竜の大肝(オオキモ)



 懐かしいのが出てきたなぁ……これまた大層な名前だし、幻の食材とか素材では!?と商業ギルドに行ったら、"生ゴミ"って言われたんだよなぁ……。

 それで俺を見る商人の目も、生ゴミを見る目だったなぁ……。


 うん。どうせ使わないし、海鮮食材ってことでこの子にあげて……いや待て。

 そんないらない物をあげるとか、人としてどうだ?それに布に包んでいただけだし、素材が傷むどころが腐ってるのでは?

 麻袋に眠っていた一品だぞ?

 

「それ、食べたい……!それしか、食べる、食べるぅ~……!あ~ん……」

 

 ……まあ、本人が食べたがってるからね。その場から動けないのか、上半身を乗り出している。可愛らしくヨダレまで垂らして、もう……

 あげない方が可哀想ってものだ。


 と言うことで、包装を解いて彼女の小さい口へ。

 驚いたことに、大肝は当時手にいれた時と変わらない透明度と鮮度を保っているようだった。

 

 さすが深淵海竜……大層な名前だけあるね!知らないけど!!


「ん、あむ……んにゅ……」

「……どうだ?」

「おいしぃ~……」


 目尻をとろんと下げ、頬を緩ませて溶けるような笑みを浮かべる。

 この子と会って数分、まともなコミュニケーションも取れず、彼女の素性は何も分からない状況だが……


 まあ、こんな可愛い笑顔になれるのだ。悪い子ではないと思う。


「……な、俺にも一口とか……」

「ん、でゃめ」

「そうですか……」


 うん、悪い子ではない……な?






「ん、うぅ……あれ?私いつの間に寝ちゃって……」

「あ、やっと起きたか」


 少女とのやり取りが一段落ついた所で、ロゥレルが目を覚ました。

 虚ろな目で俺と少女を交互に見る。しかしそれも一瞬で、またさっきと同じような世話しない彼女へと戻る。


「そ、そうだ……私、あり得ない光景を見て……それで」

「大丈夫?ほら、散らばったの集めといたから……」

「っ!!?……っ、んん……っ!!」

「……また気絶しないでね?」

「……大丈夫っ、気合いで、なんとか……っ!」

 

 気絶って、気合いでどうにか出来るものなのか……?

 俺は夢中で大肝を頬張る少女を尻目に、今度はロゥレルの世話へと移行した。














「……この宝石がSSランク!?それも古代に消失したはずの遺物!?」

「えぇ……間違いないわ」

「いや待って!商業ギルドは鑑定不明で、見たことも聞いたこともない石だと……!」

古代遺物(オールド・アイテム)……それもSSレアとなれば、最上位の鑑定スキルが必要なのよ。並みの人にはその価値も、正体も分かりはしないわ」


 嘘でしょ!?そんな幻レベルのアイテムだったの!?

 

 だから彼女は、そんな存在しないアイテムを有している俺を追いかけて来たのだと言う。

 俺を知ったのも、保護財団『五芒星』の同僚による情報。何処かで俺が古代遺物らしきアイテムを持っていると知り、彼女に連絡したのだ。


 いや、何でその見かけた人が俺に声かけないんだ……!?


「古代遺物の中にはその希少性だけでなく、危険性からSSレアと認定された物も少なくない。だからそれを誰彼構わず明け渡しているあなたを、こうして追いかけたの」


 誰彼構わずではないけども……。


「それで?やはりフェークは……この秘宝石と同じように、古代遺物もしくはSSレアのアイテムを配り歩いていたのね?」

「いや、そんなボランティア精神は……」

「……」


 沈黙された。

 どうやら回答がお気に召さないようだ。


「……に、二・三回だったかな?」

「……」

「あー……も、もしかしたら五回くらい?」

「……」

「……少なくとも、三十回以上です……後は覚えてません、はい……」


 これが本音だ。

 だってずっと喋らないもん、この人!と言うか、何で俺ばかりこんな目に会うのさ~……!

 善行のつもりで譲渡していたそれが、実は危険かもしれなくて?幻級のアイテムを銅貨一枚で買い取られて?


 いやいや、俺も泣いていいでしょ!


「……私たちの目的は定まったわね」

「え、何いきなり?」


 おもむろにロゥレルは立ち上がり……




「世界中に散ったであろうSSレアのアイテム……そして古代遺物を取り戻すのよ!!」




 ……と、高らかに宣言した。


「……いやいや、一度人様に差し上げた物を取り戻すとか……ちょっと人としてよろしくないかと……」

「それで世界が滅ぶのと、どっちがよろしくないって?」

「世界が滅ぶ方だね、うん」


 誰が聞いても、世界が滅ぶ方がよろしくない。

 何せ世界に存在しない様なアイテムが出回っている訳だ。それを巡って戦争とか……世界の危機である。


 で、その責任の一部は俺にある訳で……協力しない選択肢はあり得なかった。


 あ、ちなみに責任の一部以外は天使クローバーだね。サブ・クエストのスキルを介してしっかり伝えてよ。洒落になってないから。



「……それで、まずは何をする?」

「そうね、まずはフェークが配り歩いた全アイテムの確認をしたい所だけど……それよりも最初に聞いておくわ」



「……『五臓六腑』は、流石にばらまいてないわよね?」


 

 ……五臓六腑?アイテム名?

 そんな厳ついアイテム名は覚えがない。と言うか、この世界で聞いたのが初めてかもしれない。

 そんな難色を示した表情を見たロゥレルは、大きく溜め息を吐いた。



「古代……人間ではなく、魔物が台頭していた時代に各々の種族を率いていた十一の魔物……

 その身体の一部を総じて示した総称が、『五臓六腑』。その身体の一部に魔物の長が封印されているのよ」



 知らなかった。

 まあこの世界出身じゃないし、そんな話を聞ける毎日でも無かったけれど。


 しかし太古の魔物の長が封印された、身体の一部ね……五臓六腑なんてアイテムが無かったのは確かだから、無自覚にばらまいたなんてことはないだろう。


「あぁ、ばらまいてはいないね」

「……ふぅ、それを聞いて安心したわ。何せ古代の魔物の長……それが復活したなんてなったら……」

「まあ、そうだとしても何とかなるさ」

「強気ねぇ……例えば『夢魔王』が復活したりしたら、正しく悪夢なのよ?」

「ははっ、そりゃ怖いな。『夢魔王』ね……」


 



 ……あれ?


 

 『夢魔王の核心臓』……?



 え、『夢魔王』?



 あれあれあれ??





「……」

「フェーク?大丈夫?汗が凄いけど……」

「い、いや!?ちょっと汗を出したい気分だったから、出しただけだよ!?」


 おおお、落ち着け俺!!


 そ、そうだよ!そんな大層な魔物が簡単に復活する訳ないじゃん!ピュッと行ってピュッと回収すればいい話だ!うん!!




 ーそんな決心を決めた時ー


 ー曇天の空が光輝いたー




「な、何!?今のは!?」


 ロゥレルと共に、外を確認する。

 林に遮られ、見えにくいが……クラウデッド街の方向に揺蕩う暗雲が、膿んだように毒々しい紫色へと変化している。


 あー……これは……あれだね……


「……ねぇ、フェーク……?」

「……大丈夫、銅貨一枚だったから」


 やばい、俺も何言ってるか分からなくなってきた。








        あ、ロゥレルが気絶した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ