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6.箱入り娘



「街から出たら、今度は雨とか……ホントついてない……!」


 装備や麻袋が水を吸って重いし、動きづらい。重苦しい鎧じゃない、布地を基調とした軽装なのに、これじゃ本末転倒だ。

 特に追加報酬のアイテムを収納している麻袋が濡れるのが怖い。ただでさえ扱いが分からない代物だ。下手に濡らしたくない。


 とは言え、目的地であるシフィア王国はまだ先だ。

 中継地点である途中の村落でさえ、しばらくかかる。


「木の下でも何でも、何処かで雨宿りを……ん?」


 街道から反れた、雑木林の中。

 周りに人影もない、こんな中途半端な場所に小屋がポツンと佇んでいる。


 ……随分と荒れてるな。

 木材は腐って変色。窓も扉もその役割を果たしておらず、最早穴が空いていると表現した方が正しい。


「雨ざらしになるよりマシか……」

 

 どう見ても人が住んでいる気配はない。

 魔物がいれば……申し訳ないが、退去願うとしよう。


「お邪魔しま~す……って、中も酷いな」


 丁度一つの家族が生活できる程の広さはあったのだろうが……奥には進みたくない。

 台所、それに他の部屋も幾らかあるように見えるが、ボロボロだ。それに虫やら小動物やらが新しい楽園を築いているらしい。


 雨風は入り口近くでも、十分防げる。

 ここで収まるまで大人しくしていよう……。


「"火柱"……火力抑え目」

 

 細い線状の火柱を照らし、服を乾かす。特に麻袋は慎重に。

 いい加減、収納スキルが欲しいよなぁ……でも毎日サブ・クエストのせいで時間とられるし、習得すらままならないんだよ。

 こういう時こそ、追加報酬の高ランクアイテムで『無限収納ボックス』とか『空間収納スキル指南書』とか報酬にすべきでしょ。


 誰かさんの心臓とか求めてないわ。至極丁寧に包装して返却するから、代わりに収納ボックスをくれ。頼むから。


 はぁ……ボックスボックス……宝箱?



「……あれ、宝箱?なんでこんなボロ小屋に」 


 

 ダンジョンでもないのに、珍しい。

 と言うかこれも色褪せ、傷が入ってボロボロだ。穴が空いたりしていないから、どうにか宝箱だと判断できるレベル。


 だが、悲しいかな。

 人という生き物は宝箱という存在を見たら、どれだけボロボロでも開けずにはいられないのだ。

 身体が引き付けられるというか……


 それにほら、ここまで色々ついてなかったし?放棄されたみたいだし、自分へのご褒美ってことで……


「はい、オープン……うえぇっ!?」


 声が甲高くひっくり返ってしまった。

 いや、しかし……これは予想外と言うか……!



「す~……ん~……」

「……お、女の子?」

 


 "女の子"だ。どう見ても女の子だ。

 こんな荒れた場所の宝箱、加えて施錠もされていない……だから大した物はないか、空っぽかなんて思ってはいたが……まさか女の子が入ってるなんて誰が思う!?

 

 と言うかこの子、何も着てなくない!?

 

 いや、見た目は人間の女の子そのものだけど……


「まさか"亜人"?いや、そんなことは……」

「ん……眩しい……だぁれぇ……?」

「っ!」

 

 俺は跳ねるように、その女の子……亜人から距離をとり、いつでも屋外に出れるよう出入り口で構える。

 

 こんな廃屋で、ボロボロの宝箱に放置された女の子。本来なら即座に保護し、状態や経緯を確認するべきなのだろうが……

 人間と魔物の間の子……"亜人"となれば話は別である。

 しかし、人間とは異なる雰囲気を纏ってはいるものの……亜人、なのか?だとしたらミミックと人間の子供?そんなの聞いたことないが……


「ん……人間……?」

「……そうだが、君は?」


 俺の思考を遮るように、女の子は眠気にまどろんだ瞳を向ける。

 見た目は完全に幼い少女だが……油断はできない……!


「……んにゅ、開けてくれたの……じゃあ……はい」

「……はい?」

 

 まるで抱っこをねだる子供のように、腕を広げる彼女。

 ……え、何?どういうこと?


「おいで、食べるから」

「行かないよ!?」

「……じゃあ、もしかしてパパ?」

「"じゃあ"って何!?あとパパじゃない!」

「……おやしゅみ……」

「待て待て待って!」


 話が通じるようで通じない!あぁ、蓋閉めて閉じ籠らないで!

 と言うか、亜人なら人肉じゃなくても腹は満たせるだろう。それに意志疎通が出来るなら色々と事情は聞きたいし、亜人は極力助けたい。

 

 まず第一に服!何で裸なの!?


 ぴょんぴょんと跳ねた癖っ毛があるものの、長いストレートな黒髪だったから胸元は隠れてるけど、女の子がその格好はよろしくないよ!?


「ほら。俺の上着だけど、まずこれを……」

「や。服は美味しくないから、いらないぃ~……」

「食べ物じゃないから!てか食べたことあんの!?いいから早く着てくれ、亜人とは言え女の子なんだから!」

「やあぁあぁ~……まじゅいの~!」

 

 まさに子供のようにヤダヤダと首を振り、俺の上着を押し返す。以外に力強いな、この子!さすが魔物の血が混ざってるだけある……!

 

 と言うか、何この状況。

 これじゃまるで、嫌がる女の子に俺が無理やり不埒を働いているかのような構図が出来上がってるんじゃ……。


 い、いやまあでも、こんな場所に来る人なんている訳……!




「ねぇ、何か大声が聞こえたけ……ど……」

「……どうも」

「ん~……!やあぁ~……!」




 ……そう、今日はとことん運の無い日だったね。






 あ、それと初めまして。赤髪のお姉さん。

 とりあえず、その振りかぶってるピッケルを仕舞ってくれるとありがたいな。


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