5.追跡者
各国の物流の中継地点として、人も物も入り乱れる街……『クラウデッド』
数時間前にフェークがその街を後にしたからといって、何が変わることもなく大きな賑わいを見せている。
そしてまた、新たな人物がその街へと足を踏み入れた。
「ここに古代遺物がある……例の人も……絶対に見つけ出さないと……!!」
その昂る心と同調するように紅の髪を風に揺らし、使い古され黄ばんだ本を閉じる。
軽装で動き易さを求めた装備……その肩には盾を背景に、五つの星が疎らに並んだ紋章を縫い付けている。
まさに、探検家といった様相。
彼女は探す。彼女が求める物と、者をー。
「もういない?」
「は、はい。数刻前に冒険ギルド直属の宿を引き払われましたので、もうクラウデッドを発たれたかと……」
「……行き先は?」
「申し訳ありません。そこまでの把握は……」
受付嬢の返答を聞いて、思わず歯噛みする。
数刻前まで確かにいた。情報は正しかったという喜びと、すれ違いになってしまった歯痒さがない交ぜになる。
さっきまで居たってのが、余計悔しいわね……。
まだ遠くには行っていないはず。誰か行き先を知っている人を見つけないと……!
「あの、君たち。少しいいかな?」
「んぁ?誰だ、あんた」
「その肩の紋章……まさか保護財団『五芒星』!?」
手近な冒険者一党に声をかけたはいいけど、騒がれちゃったわね……まあ、遺物とは縁遠いこの街にいるのだから、しょうがない。
それにこの紋章を隠しちゃったら、融通も効かなくなるし……って、そんなことはどうでもいいわ。
「フェークという青年を探しているのだけど……ご存知?」
「あはは!フェーくん!?あの詐欺師に!?」
……詐欺師……?
「なんだ!?遂に指名手配でもされたか!?笑える!」
「まさか保護財団に目を付けられているなんて……いや、ある意味希少ですね、動いて喋るゴミですから」
「ちょ、ちょっと!そんな言い方は……」
クスクス、あはは、ゲラゲラと笑う三人。
大剣を背負う戦士らしき女性は彼らを抑えようと慌てているけど……。
……ここにも、無知で軽薄な輩がいたものね。内情など知る由もないが、よくもまあ、ここまで他人を見下せるものだ。
とにかく、理解した。
彼らに用などない。
「……時間を取らせたわね、失礼するわ」
「不味いわね……足取りすら掴めないなんて……」
どれだけの時間が経ったかは分からないけど、刻々と経っているのは事実。それなのに、街を出た以外の情報が無い……!
先の連中のように、彼を『詐欺師』呼ばわりする人がそれなりにいたけど……そんな奴らの話など聞くに耐えない。
「はぁ、どうしよう……」
打つ手無し。
歩みを止め、何気なしに近くの広場を見る。子供たちは楽しそうにはしゃいでいるのに、私の心は雨模様だ。
まあでも、子供の朗らかな笑みは癒されるわね。
「お兄ちゃん、私にもその鎧見せてー!」
「いいぜ!あ、こら。その石は大切に仕舞っとけって……」
あの二人は兄妹かしら?
ままごとか、騎士ごっこか分からないけど、随分と本格的な鎧に、綺麗な……石……?
「……え?」
……嘘でしょ?私の見間違い、よね?
まさか、そんな。あんな幼い子供がSSレアの古代遺物を持ってるなんて、そんな。ままごとに使ってるなんて。
い、いや。あり得ない。あり得ないでしょ?
「ね、ねぇ君たち!その石と鎧、お姉さんにも見せてもらえないかなぁ!?」
あぁ、ダメだ。考えと行動が一致しない。
「いいよー!あ、でもあげないからね?」
「え、ええ勿論よ。ちょっとだけ、見せ……て……」
八つの綺麗な石……いや、宝石が私の手のひらをコロコロと転がる。
少年には一回り大きい、その異様な存在感を醸し出す鎧に触れる。
ー鑑定スキル、発動ー
・SSレア:古代スルク王国の秘宝石×8
・SSレア:龍殺しの鱗鎧×1
……あり得ない。あり得ないあり得ないわ!!
どうして消失したと記録されているこの鎧が存在している!?どうして、この世界に一つとされている幻の宝石が八つもあるの!?
信じられないなんてレベルじゃない。あり得ない!こんなこと、あってはならない!!全ての記録が、そして歴史が覆る代物じゃないの!!
「ね、ねぇ君たち!!これ、どこで見つけたの!?もしかして誰かに貰ったとか!?」
後者であって欲しい……けど、そうであって欲しくない!
だってこんな、世界がひっくり返るようなアイテムを幼気な子供に渡してるとか、信じたくないわよ!?
「え、えっと……白い髪のお兄さんだったよ。ヨレヨレのバック背負って」
「私たちが喧嘩しないよーにって、くれたんだー!シフィア王国に行くんだってー!」
「ありがとう!!」
がむしゃらに駆け出した。
あの子たちの古代遺物は、五芒星の他の保護員に連絡して対応を頼めばいい!まずは彼だ!!
「まさか、他でもこんなことしてないでしょうね……!?」
だとしたら、優しいのか馬鹿なのか!!
今までこの世界で"それ"とされたきたことが、存在が!全部ひっくり返るわよ!!
ー下手したら、世界が終わる!!ー




