4.天使の心遣い
「残念だけど、もうこの街にはいられないな……」
この街の外門へ気だるい足を運びながら呟く。
詐欺師として流布された俺、そして元パーティーとのやり取り……あれだけ騒ぎを大きくすれば、最早この街に俺の居場所はない。
それに、あのパーティーも今や実力派集団として名が通っている。
俺が逐一否定して回ったところで、どちらがより信頼されるかは明らかだ。明らかな脅迫や殺意を向けられる前に、身をくらませた方がいいだろう……。
「だあぁ、せめて不要な素材はどうにか処分したかったんだけどなぁ……」
肩にかけていた、使い込まれて形が歪になったバックを確認する。中には相変わらず、用途不明・出所不明・原料不明の追加報酬が敷き詰められていた。
……大丈夫かな、何か腐ってたりしないかな?突然、悪魔の手が出て貫かれたりしないよね?
見た目綺麗な宝石とかも売れなかったし、重いし……いやほんと、どこかに廃品回収業者とかいませんかね?
「あいつらに、今までのお詫びとか言って押し付けた方が良かったか……?」
「あんな阿呆どもにくれてやる必要ないですよ」
「……びっくりした。いきなり出てくるなよ、クローバー」
ふわりと風が吹いたかと思えば、俺の隣に天使がいた。
いや、比喩表現とかバカップルのつもりは一切ない。純白の翼に黄金色の長髪、絹衣を纏った本物の天使だ。
「せっかくのスキルに、重宝されるアイテム。そして君……それらを食い潰す口汚い害獣から解放されたのです。むしろ私は安心しましたよ?」
「そうは言うけどな……元はといえば、訳の分からない達成条件と、訳の分からないアイテムを報酬にしたクローバーが原因だからね?」
『達成条件:炎、風、水、雷の順に属性攻撃を受けよ』
意味分からないよ!こんなことしてたら足手まとい甚だしいわ!!
終いには『対象の魔物に背中を見せながら討伐せよ』とか常軌を逸した条件もあったからね!
王様ゲームの方がまだましで、もう少し優しいよ!?
「まあまあ。それを差し引いても、彼らの言動は目に余りました。ゴミ扱いしながら、ちゃっかり装備やアイテムは持っていくなど、共に行動する価値はありません」
「それは、まあ……」
「それに彼らの現在の地位や実力は、あなたの追加報酬があってこそ。追放がなければ、あなたは未だ都合良く使われていた。
糞どもに感謝してやりましょう。あなたには、私が付いていますよ」
俺の手を取り、優しく微笑むクローバー。口は悪いが、彼女は天使なのだ。多分。一応。きっと。
この『サブ・クエスト』というスキルは、彼女が俺に与えたものだ。
付いていると言うならば、もう少し使いやすくしてくれ。せめてアイテムのレア度が分かる位には。
「はいはい、ありがとう」
「素っ気ないですね……では私も他のお仕事がありますので、失礼しますか……不用意に報酬アイテムを捨てることなきように」
伝えたいことだけ伝えたのか、光の粒子を撒いてさっさと消えてしまう。周りに認知されないからって好き放題だ。
えぇ~……。
売れない、捨てれないとかどうすりゃいいの?やっぱり調理の具材にするしかないの?心臓カレーは食いたくないなぁ……。
「他に使い道は……ん?」
『わぁぁ~ん!お兄ちゃんが私のおもちゃ壊したー!』
『お前だって、俺が作った鎧壊したろ!?』
兄妹、かな?
子供たちが遊ぶ、ちょっとした広場。
その一角で言い合う二人の足元には、ままごとに使いそうな小道具と木材で出来た子供用の鎧が転がっている。
「……ちょいと狡いが、これも人助けだよな」
~アイテム消費~
・古代スルク王国の秘宝石×8
・龍殺しの鱗鎧×1
「綺麗な石……!本当に貰っていいの!?」
「すげぇ、カッケェ!ありがとう兄ちゃん!」
うん。
捨てるよりも、必要な人が使った方がアイテムも救われるな。