2.追放
ブラッド・プラントを討伐し、今日のサブクエストも無事達成……だけど、街中を歩く俺の足取りは重かった。
スキル『サブ・クエスト』の報酬品である、"夢魔王の核心臓"。
いつも通り、その価値も用途も分からない。つまり持っていても仕方がない!加えて何かヌメヌメしてるし微妙に動いてるしで気持ち悪い!あぁっ、収納していたバックから液体が染み出てきた!
結論。よし、売ろう。
捨てるよりかは、最低でも銀貨一枚くらいの価値はあるでしょ。大層な名前だし。
そして赴いた商業ギルドにて、俺と商人との、頭脳戦溢れる値段交渉が巻き起こったーー!!
『銅貨一枚』
『マジですか』
はい終わり、交渉成立。
いやこれ成立してるの?頭脳というか、考える暇さえなく終了しちゃったよ。そして今の俺の手中には、銀貨の十分の一の価値である、銅貨一枚が煌めいていた。
ちなみに煌めいているのは、あの核心臓のぬめった液体が付着したからである。うん、汚いね。
『いやフェークさん、レアとは言うけどさ……その根拠は何だい?私の鑑定スキルじゃ"鑑定不能"になるし、こんな得体の知れない素材は見たことないし……
うちはゴミ収集はやってないのよ。今回は騙されてやるけど、次に同じような嘘吐いてゴミを押し付けようって言うなら、衛兵に突き出すからね』
高ランクでレアという情報の根拠は、サブ・クエストのスキルが発動したときの説明でしかない。だから『スキルが言ってました!』なんて話したところで、説得力は皆無だった。
加えて、彼の鑑定スキルが"鑑定不能"と判断したのも痛い。
商業ギルドの指標として、全てのアイテムには下から『C、B、A、S、SS』の五段階に希少価値が別れているけど、まさかCにすらならないとは……。
そりゃ確かに、ゴミにレア度なんて存在しないからね……。
ん?てことはそれに銅貨一枚でもくれたあの人、ホントは凄い優しかったんじゃね?
「はぁ……せっかくサブ・クエストと、ギルドで受けたクエストの内容が同じで、手間も省けて良い気分だったんだが」
商業ギルドで受けた、今回の扱い。実はそれも初めてのことではなく、むしろ毎度のことだった。
『サブ・クエスト』のスキルは、提示された条件を達成すれば、通常では手に入らないような報酬を得ることができる。
このスキルを授かった最初こそ、滅茶苦茶に喜んだ。何せ、普通は入手出来ない代物がザクザクな訳だから。
だけど現実は甘くなくて……
『おもちゃですか?』
『この詐欺師め!』
『衛兵さん、この人です!』
『素敵なゴミをありがとう』
持ち込んだ素材は、ことごとく拒否された。何なら取引しようと入った商業ギルドに衛兵が待ち伏せしていたこともあった。
いくらスキルで高ランクのレアだと語られたところで、彼らには伝わらないのだ。
と言うか俺にだって分からない。なんだよ、"夢魔王の核心臓"って。それを具材にカレーでも作ればいいんですか?
せっかくスキルがあっても、人に伝わらなければ意味がない。それにこのスキル、使うに当たって他にも色々と弊害が存在している訳でして……
そんな中、一番の存在意義である報酬が役立たないって……。
「はぁ……どうしたもんか……」
更にその足を遅くする。
だがそこへ追撃するように、俺の足を止める集団が現れる。
「よぉ詐欺師様!またゴミ漁りしてたのかよ!?」
「だったら、うちのゴミも回収して下さらない?今なら無料で差し上げますよ?」
「ははっ!ペールちゃん、やっさしー!!」
「……ははは」
思わず、乾いた笑みが溢れた。
その集団は冒険者の一党、パーティー。剣士を筆頭に、術士や戦士、医術士で編成された四人組。
そして……フェークが所属し、追放された一党だった。




