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4.奴隷レンタル(2)


「ご主人さま~、お水をどうぞー♪」

「ご主人さまー、おしぼりどーぞー♪」

「あ、ありがとう。助かるよ」


 妖精メイドが代わる代わるに水やら布巾やらを持ってくるから、中々落ち着けない。彼女らの大きさだから、一匹が持ち運べる物も量も制限されるため仕様がないのだが……。


 それでも鬱陶しさを感じないのは、妖精特有の裏表のない性格だからこそだろう。 

 何かほっとけないというか、それでいて心安らぐというか……奴隷とは思えない程に本来の姿を見れるのは新鮮だ。


「フェーク、顔がだらしないわよ。一体何を考えてるのかしら」

「いやこれは、自然とそうなると言うか、無邪気な子供を見る心境というかで……」

「私知ってる。"せーりげんしょー"って言うんだよ」

「そんな生々しいものでは断じてない」


 うん、ミミには言葉の勉強をさせよう。これから困るだろうし……俺への風評被害も怖い。


「それにしても……こんな奴隷商会は初めて見ました」

「それが当店の強みですからね。特殊な性格でもない限り、人間というのは好意を求め好む生き物です。無理強いした強制的な奉仕や接待よりも、好意から来るそれの方が奴隷にもお客さまにも満足頂けるのですよ」


もはやここの奴隷は奴隷と呼べない。全員が喜々として接客に当たり、その客も奴隷を無下に扱う様子を見せない。

 奴隷商会の屋内も、それとは思えないほどに清潔感があり、穏やかな雰囲気が流れていた。軽い食事のとれる飲食店だと言われれば信じてしまうだろう。


「でも彼らは奴隷ですよね?誰か特定の飼い主を持ったりは……」

「しますよ。レンタル制ですが」

「……レンタル?」

「そうです!よくぞ聞いて下さいました!」


 おおう、何だいきなり立ち上がったぞ。

 反射的に聞き返してしまっただけなんだが……。


「今の奴隷制度は古いのです、非効率で時代遅れなのです!なぜ商品とも言える奴隷を劣悪な環境下で扱うのか。なぜ不清潔に檻に閉じ込め、まともな食事も与えないような商品の価値を下げる愚行に出るのか!理解に苦しむ!そうでしょう!?」

「そ、そうですね?」


 バレッジは止まらない。奴隷の心境なのか、檻に閉じ込められたようなジェスチャーなどを交えて、言動やかましい力説を繰り広げる。


「加えて私の取り扱う奴隷が外で妙な扱いを受けようものなら、私の商会のネームバリューが傷付くのです!商品にも限りがあり、商品の価値向上の資金も無駄に出来ないご時世だと言うのに、なぜお客様が商品を傷付けることを良しとしなければならないのか、ですよ!!」


 そこで思いついたのが、奴隷レンタルのシステムだと言う。


 最初から奴隷を客に売るのではなく、お試し期間として奴隷を提供。奴隷、飼い主双方が良い相手だと分かり合い、かつバレッジが奴隷を提供するだけの安全性があると認めれば、見事その飼い主専属の奴隷となる訳だ。

 確かに毎度奴隷を殺されては供給が追い付かなくなるし、斬新な方法だと思うが……それって”お見合い”と変わらないのでは……?


 もはや『バレッジ結婚相談所』に改名しても良いと思う。


「ということで、気に入った奴隷はおりますかな?それに当店ではいらない奴隷のお引き取りも行っておりますので、ぜひぜひご相談を……」

「私とかどーですかー?小さいですけど、その分普通は出来ないご奉仕しますよー♪」

「わ、私も大きくてお邪魔かもしれませんが……力には自信ありますし、締め付けるのも得意です……!」


 何だこれ何だこれ。

 妖精やら蛇人(ラミア)やらが焦ったようにアピールしてくる。君たち、その姿は完全に婚期を逃した女性のそれだからね?奴隷ってこと忘れてない?


 あとアピールが何か卑猥に聞こえるのは、俺の頭が悪いからですかね?


「……いい加減にしてくれるかしら。私たちは客ではないと言ったはずよ、セールストークは他所でやって」

「……これは失礼しました。あなた方は私に御用があったのでしたね。いやはや、奴隷のこととなると自らを抑えられない質でして。君たちも他のお客様への対応に戻りなさい。それと、ネイルを連れてきてくれ」


 助かった……。

 ロゥエルの冷めた一言でどうにか開放される。漸く本題に入れるというものだ。


「……何で残念そうなのかしら」

「ちょっと?やっと本題に入れたのに、そこ蒸し返すの?」

「言っておくけど、奴隷を買うなんて絶対に許しませんからね。ただでさえミミがいるんだから」


 お母さんみたいなこと言うな。そんな我儘言ってないでしょうに。

 ロゥエルが話を進めてくれると思っていたが、このジト目を見るにダメそうだ。仕方なしに、俺は本題へと切り込む。


「実は、あなたがあるアイテムを購入したという話を聞きまして……不躾ながら、今回はそれを譲ってもらいたいなと」

「アイテム、ですか」

「ええ、それなんですが……」

「五臓六腑の一つ。『幻妖精の腸』ですね」


 ……やはり、知っていたか。遠回しに聞き出そうと思っていが、まさかこうも正直に話してくれるとは。

 俺とロゥエルの視線が、睨むように細くなる。


「知った上ということね……ならば私たちも遠慮なしに聞かせてもらうわ。なぜあなたは、五臓六腑の一つを買ったのかしら?」

「それに関しては、彼女に聞いた方が確実ですね。私は仲介人に過ぎませんから」

「すみません、お待たせしました……!」

 

 また新しい、一匹の妖精が俺たちのテーブルへと近づいて来た。

 ウサギの耳に、露出が多めな……バニーガール姿の妖精だ。一体この店はどこに向かっているのか分からなくなる。


「君は……?」

「ネイルって言います。えっと、その……『幻妖精の腸』なんですけど、それを買うようにお願いしたのは私なんです……」

「妖精が?何でそんなことを……」


 いよいよ分からない。

 幻妖精と付く程だから、ネイルのような妖精族と関わりのある物なのだろうか。何にしろ、意図して買ったのならば、何が目的で……


「えと、あなた方は先日の妖魔を撃退した方々なんですよね!?」

「間違ってはいないが……それよりも何で君が五臓六腑の一つを」

「お願いします!私たち妖精族を……魔族の皆を止めて欲しいんです!!このままじゃ、戦争になってしまうかもしれないんです!!」


 ……色々言いたいことはあるが、とにかく一つだけ。




 俺の話を聞いてくれ。


 


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