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3.奴隷レンタル



 奴隷商会。



 多くの国々で奴隷制度が認められているからこそ存在するその組織は、別段珍しいものでもない。


 さて、この世界の魔物は人間の物差しにより、主に四つに分類される。


 意志疎通が叶わない……魔物。

 人間との意志疎通が可能な……魔族。

 人間と魔物、または魔族の子供……亜人。

 そして人間と同等の権利、立場を有する……魔人。


 人間と同等の権利を持つという証明……"人の会"に属する『七種族の魔人』以外の、魔物や魔族が奴隷となるのがこの世界の常識だ。だから人間の奴隷なんていないし、人の会に属する鳥人(ハーピー)森人(エルフ)も奴隷にはなり得ない。

 ……魔物は意志疎通そのものが難しいし、奴隷にする人は稀だけど。


 そして奴隷は基本、その飼い主の所有物であるから、何をするもその人の自由だ。家族として扱うも、労働力にするも飼い主の自由。


 そう、自由だ。


 だから奴隷商会が商品である奴隷をどう扱おうが、自由……なんだけど……


「えと、ここが"バレッジ奴隷商会"なんだよな……?」

「……間違いないわ。店名もでかでかと書いてあるもの」


 いや分かってる。さすがの俺も文字を読み間違えはしない。

 だけど、これは……


「何ここ、喫茶店なの?何処かで聞いたメイド喫茶とか言うやつなの?」

『お帰りなさいませー!ご主人さまにお嬢さまー!!』


 いやご主人さまじゃねーし。それに俺初見だから。初めて来たから。


 空いた口が塞がらない。

 何せ奴隷であるだろう妖精(フェアリー)妖樹(アルラウネ)がふりふりのメイド服を着こなし、笑顔で接客に勤しんでいるのだから。

 

 いや確かに奴隷の扱い方は飼い主の自由だが……こんなの初めて見たぞ。

 自然な笑みと活気に溢れた魔族奴隷の、何て健康的なことか。確かに家族のような厚待遇を受けれる奴隷も存在するだろうが、一般的に奴隷は道具という認識だ。

 それが自然な笑みに、健康的な体つき。奴隷特有の嫌悪感や絶望感など微塵も見られない。


 しかもここは大通りに面した場所だ。

 奴隷商は認可された商売であるから、こそこそ隠れる必要はないが……その性質上表立つことはない。


 それがこんなオープンに!外付けの席の客に飲み物出したり、通行人にバレッジ奴隷商会の紹介ビラとか渡しちゃう!

 しかもキラキラと良い笑顔で!俺もう十枚はビラ貰っちゃってるから!


「何なんだここは……今までの、どのダンジョンより謎だ……」

「こんにちはー!バレッジ奴隷商会をよろしくでーす!」

「あぁどうも」

「フェーク、あなた何枚受けとるつもり?」


 あの笑顔なんだからしょうがない。

 と言うかあの笑顔で少しも動じないロゥエルにびっくりだ。


 取り敢えず、貰った紙はミミの宝箱の中に入れされてもらおう。さすがに食べないだろう……食べないよね?


「私だって衝撃的だけど……それよりも五臓六腑の行方よ。責任者のバレッジに会わないと」

「分かってるよ……ちょっと、そこのアルラウネ?」

「はーい!只今席にご案内を」

「いや、俺たちは客なんだけど客じゃなくて……ここの責任者のバレッジさんに会わせてほしいんだけど」

「オーナーに?因みにあなた方はどちら様で……」

「保護財団『五芒星』の者よ」


 ロゥエルのそれを聞いた途端、そのメイド・アルラウネは数本の腕触手を驚いたように、ビンと空に向けた。

 

「ちょ、ちょっとだけお待ちを、下さい!!」


 妙な言葉遣いを吐くと、倒れた丸太のようになっている下半身を滑らせるようにして、奴隷商会の屋内へと入ってしまう。

 ……屋内も飲食スペースが広がっているのだろうか。だとしたら外にいる奴隷メイドは軽く十匹はいるし、けっこうな奴隷数になりそうだ……奴隷商会だから当たり前だけど。


「何か随分焦ってたな……五芒星って、奴隷から恐れられる存在なのか?」

「そんな覚えはないけれど……」

 

 だとしたら魔族が五芒星を恐れているのか……五臓六腑とか、古代とは言え魔物の長が封印されたアイテムを集めてる訳だし。

 だけど五芒星の活動内容は公にされていないとロゥエルは言っていた。


 むう、だとしたら……


「奴隷商人のバレッジが、五芒星を恐れている……?」

「五芒星の人間が来た際に、すぐ連絡するようにでも奴隷たちに命じていたのかしらね……他の奴隷も妙によそよそしくなってるわ」


 ロゥエルの言う通り、他の奴隷メイドの視線が明らかに変わった。嫌悪感などではないが……"気になります"といった具合に距離を取られている。

 

「五芒星に知られちゃ不味いことが?だったら何で五臓六腑を手に入れた時点で、この街から退こうとしないのか……」

「それは本人に聞いた方が早そうだ、ロゥエル」


 商会の奥から、一人の男が姿を現した。

 隣にはその男に隠れるように付き従う、先程のアルラウネ。間違いなく、この男がバレッジだろう。


 歳は三十代前後か。顔付きも年相応だが、二十代青年のような若さも感じ取れる。

 金髪の髪を短く切り揃え、黒スーツできちりと完成した風格に出で立ち。奴隷商会の責任者らしい。


「初めまして、お待たせして申し訳ない。私が責任者のバレッジでございます」


 ……多分、奴隷商人ってこともあるんだろう。

 けどそれを差し引いても、その服装と営業スマイルは……


「以後、お見知りおきを。五芒星に、英雄の方々?」



 俺の第一印象。

 うん。この人、怪しいぞ。




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