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1.保護


「フェーク、あなたを財団の保護下に置くわ」

「……は?」



 夢魔王キュリアスの騒動から一夜空け……朝。起き抜けに、ロゥレルは至極真剣な顔つきでそう言った。


 ……えと、どうして部屋を分けて泊まったはずなのにここにいるのか。

 なぜ俺を押し倒す形でベッドにいるのか。紅い髪がちょこちょことくすぐったい……色々と聞きたいことはある。


 だがそれよりもだ。


「え、なに保護下って」

「言葉通りよ。あなたを保護財団『五芒星』の名の基に保護するわ。身辺の安全を確率して、絶対に傷付けさせない……」


 嘘、キュンとしちゃう……じゃなくて。


 何でそんな過度の庇護対象になってるの?そんな心配かけるようなことしてないじゃん。

 先日だってキュリアスを圧倒して見せたのに。ロゥレルも感嘆していたはずだ。


「はぁ……あなたは自身の立場を分かってないわ。私も全て理解出来たつもりはないけれど……分かる。

 あなたはこの世界唯一の存在。そしてこの世界に……私たちに必要な人なのよ」


 ロゥレルがベッドから降りて、まるで敬虔な信者のように手を伸ばす。

 

 ……随分と評価を買われたものだ。

 彼女が語るに、やはり重要視しているのは、俺のスキルの存在……《サブ・クエスト》だと言う。

 

 条件を達成するだけで、存在しない夢物語と同等のSSレアのアイテムが、水が溢れるように手に入る。

 それは奇跡以上の奇跡。世界をより新たな未来へと運ぶ。


 そして、それ以上にこの能力は……


「世界に混乱と、破壊をもたらす力を秘めている」

「……」


 存在しない異能。古代に消え失せた道具の数々。


 それを、さも当然のように出現させる存在……それが俺であると。

 今までは、運が良かっただけ。そのアイテムの存在意義を知らず、特に問題が起きていないことが奇跡だった。

 しかし……これから先にその奇跡は有り得ないと、ロゥレルは警鐘を鳴らす。


「あなたが『五臓六腑』を含め、無自覚に幻のアイテムの数々を世界に散らしてしまったことは、もう仕様がない……だけど同時に、それらを扱え御せるのもフェークしかいないの」


 彼女はきっと、キュリアスを一方的に封じてみせた手腕を言っているのだろう。

 スキル《サブ・クエスト》の効果は主に四つ。


 


 一.一日に一回、掲示される条件を達成すれば貴重な追加報酬が手に入る

 二.追加報酬がスキル保有者に害を与えることはない

 三.追加報酬の扱い方を知っていれば、無条件にその効果を使用できる

 四.七日間の内に達成出来なかった条件が三回に至った場合、ペナルティの罰が発生する。


 


「俺なら五臓六腑による害も受け付けないし、加えて使い方を知っていれば簡単に制御下に置くことができるな……だがその理屈なら、俺が保護対象になる必要はあるのか?」

「あなたは唯一の存在だと言ったでしょう?つまり……」


 SSレアのアイテムではなく、俺そのものを狙う輩が現れる。


 理屈は分かるけど……最近パーティーを追い出されたばかりで、詐欺師呼ばわりされていた程だからなぁ。

 全く実感が沸かないが、俺のスキルの有用性と絶対性を知る者がいるとしたら。それを利用しようと躍起になる連中もいるのだろう。


 何せ、世界を変えてしまう可能性があるのだ。

 脅威とされて処分される、私利私欲のために利用される……うわぁ。ろくな理由で追い回されかねないな。

 

「しかし、俺だって冒険者だぞ。身の安全くらい自分で……」

「そこは心配していないけど、万が一もあるわ。それに一番の理由は……あなた、散り散りになった古代遺物をどうやって見つけるの?」


 またも大きなため息を吐かれる。そんな、保護しようって相手にため息吐かなくても……。

 

 しかし、痛い所を突かれた。

 何せ俺は、その古代遺物やSSアイテムに対して全くの無知。だからこそ必死に売ったり、他者に譲渡してしまった訳だが……。

 

 俺には、古代遺物やSSアイテムを"それだ"と認識する知識も鑑定スキルもない。探そうにも探せないのだ。


「だから私も付いていくわ。私は『五芒星』の一員としてあなたを守り、持ちうる限りの能力であなたをサポートする。

 SSレアのアイテムは最上位の鑑定スキルがなければ、その名称さえ知ることは出来ないのよ?私は絶対にあなたの役に立てる」


 自信に満ちた笑みで、折り畳んでいたツルハシを掲げてみせた。


 確かに古代遺物やSSレアの道具に関して、彼女ほど頼りになる人もいないだろう。

 使い方が分かれば、俺は自由に行使できる。加えて保護財団『五芒星』という大きな勢力と権利の援助も見込める……。


「……分かった。保護されるってのは気持ち悪いけど……改めて協力をお願いしたい」

「当然よ!何せ世界の危機なんだからね。改めて、よろしく頼むわ。フェーク」

 


 ふぅ……たった一日の間に、とんでもない話へ展開してしまった。

 と言うか、今すぐクローバーに文句が言いたい。何だよ世界を一変させるアイテムって!

 どう考えても事細かな説明が必要だったろ!レア度すら分からないとか、放任主義にも程があるぞ!


 次はいつ出てくるか分からないが……会ったら羽の一本でも抜いてやろうか。


「さて、そうと決まればやることは多いわよ!」



 保護財団『五芒星』への連絡。

 俺が今持っているアイテムや装備の確認、サブ・クエストの詳細な説明。

 古代遺物が何処に流れたかの情報収集。

 その種類や数の把握、リスト化。



 ロゥレルが淀みなく、手帳へと書き込んでいく。


 しかし、何よりも大切なことを彼女は忘れていた。


「なぁ、ミミは当然連れていっていいんだよな?」

「んにゅ……パパ、ご飯……?」

「おはよう。ご飯はちょっと待ってな」


 ベッドの傍らにあったボロボロの宝箱がぱかりと開き、ミミが眠そうに顔を出した。


 結局、今回の騒ぎのせいで彼女の事情はさっぱりだ。

 当人も記憶が曖昧なのか、伝える言葉を知らないのか……何か聞き出せる様子もない。

 だからこそ、ここで放置と言うのはあまりにも……。


 それにどうしてか、こうして寝泊まりを共にする程に懐かれてしまった。余計離れづらい。

 ……それが俺への食欲でないと信じたいが。


「……私としては反対よ。彼女は今回の事件に巻き込まれただけ……私たちの旅に連れていく理由がないわ」

「あー理由ね……」


 しまった、露骨に目を反らしてしまった。

 いやだって、これ言うと確実怒られるからなぁ……。


「何?まさか可哀想だから、なんて言わないでよ?これからの旅に連れ回す方が……」

「多分この子に、五臓六腑の一つを食べさせてるんだよねー……」

「」


 ……あ、ロゥレルの時間が止まった。

 

 そう、あのミミと出会った廃屋で。

 彼女が気絶していた間に。

 

「《深淵海竜の大肝》って、五臓六腑の一つだったよな……?それを、その……食べたいってねだるもんだからさ……?」

「……連れていきましょう」

「ご飯食べにいくの?私もいくぅ~……!」

「安心しなさい……もう意地でも連れていく他ないから……!」

 


 ……こうして、俺に新しくできたパーティーの一党。



 俺を紙も切れるような眼光で見つめるロゥレル。

 無邪気に喜びながら、俺の首にガジガジ噛みつくミミ。


 

 ……あれ、俺って保護対象だよね?

 せめて前回のパーティーよりは精神的な負担がない環境を、提供してほしいな……

 

 

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