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1.今日のサブ・クエスト



「息子を放して!誰か、助けてぇっ!」

「いやぁっ……お母さん!!」

 

 こんなことになるなんて、思いもしなかった。


 いつも通り野草を集めに行き、付いてきた息子が先に見つけて、無邪気な笑顔でそれを見せつける。母親も優しく微笑み、偉いと言って頭を撫で、手を繋いで帰路に付く。

 いつも見れた日常の光景。

 

 それが、簡単に壊された。


『シィィー……!』

「うぅっ……放してっ!」


 泣きじゃくりながらも力任せに抵抗するその子を嘲笑うように、魔物の触手の一本が涙をベロリと舐め取った。


  ーブラッド・プラントー


 その名の通り、血のように赤い植物系統の魔物。

 衰弱したり力尽きた生物から、体液を養分として吸い上げる。そのため普段は森林の奥深くで生息すると知られている奴等に襲われた親子は、本当に運が無かったと言えるだろう。

 それも、四体。勝ち目どころか、逃げ場もない。

 

「いやっ……いやあっ……」


 ブラッド・プラントの一体が、勝ち誇ったように子供を天へと掲げる。

 そしてゆっくりと運び、行き着く先は……四方向に割けた蕾の奥、腹の中。

 

 子供の身体など、丸のみだろう。


「お母さん……お母さん……っ」

「お願い、止めてぇっ!誰か……!!」


 自然の掟……生存競争が親子の命を摘み取る……。




 しかし生存競争は決して、喰う喰われるでは終わらないのだ。




「食らえっ!」

『シギィィッ!!』


 そこにいる誰もが知らない声が響いたかと思えば、何かが重なっていたブラッド・プラント三体の腹を貫いた。

 それは一本の大矢。魔物の体液を撒き散らしながら飛翔するそれは、魔物の断末魔を追い風に大木へと突き刺さった。


 何が起きたのか。

 それを理解しているのは、木陰から飛び出した一人の人間だけ。勢いを殺さずに駆け抜け様、子供を持ち上げる触手を短刀で切断する。

 

「わぁっ……あいたっ!」

『シィッ!』

 

 自由……という割には乱雑に投げ出された子供は、訳も分からず地面に寝そべった。

 せっかくの獲物を逃がした最後のブラッド・プラント。しかし食欲よりも怒りの情動が勝ったそれは、狂ったように残りの触手を動かし、突然の乱入者へと襲いかかる。


 二人の親子から離れた。それで十分だった。

 ブラッド・プラントを拒絶するように手の平を見せつけ、グッと握り締める。


「燃えて……"火柱"!」


 激しい業火が立ち上ぼり、ブラッド・プラントを飲み込む。

 悲鳴はない。熱せられた空気がなくなる時には、地面に焼け焦げた後が残るだけだ。


「わ、あ……」

「……ふぅ、()()()()()()は無事達成と。そこの二人、お怪我はありませんか?」

「は、はいっ!何とか……」

 

 解放された息子を我も忘れて抱き締めていた母親は、思い出したかのようにこくこくと頷く。

 

「ごめんな、受け止める余裕が無かった……この薬草を使って下さい。かすり傷程度なら、すぐに塞がります」

「あぁ……ありがとうございます、ありがとうございます!あなたは命の恩人です……!」

「お兄ちゃん、ありがとうぅ……!」


 ひたすら頭を下げ続ける母親に、泣いて喜んでと忙しい子供。

 流石にこの状況じゃ離れられないな……そう判断した青年は、魔物の素材や使用した射出機、大矢を回収しながら、二人が落ち着くのを待つ。


 それにしても、森林の奥深くで生息するブラッド・プラントが街道近く、それも四体も現れるとは……。

 

「結果的に運が良かったけど、災難だったな……」

「ねぇねぇ!さっきのバーって炎の魔法、凄かったね!あれで全部倒しちゃえば、服も汚れなかったのに……」

「エッ」


 確かに、青年の無難ながらも衛生的な服は、魔物らの体液や返り血で所々に斑点を作っていた。大矢の一撃は凄まじかったが、その分の後始末が酷い。


 少年の純粋な意見通り、残りの三体も魔法で難なく始末出来た。


 んー……どう言い訳しよう……?


「私たちを巻き込まないよう、最善の策を取って下さったのですね……」

「え?」

「一本の大矢も、確実に残さず仕留めるため……誰よりも私たちのことを考えて下さって、接近するリスクまで……本当に勇敢な方。ありがとうございます……!」

「……イエ、ソレホドデモ」


 またも涙ぐんで頭を下げ始めた女性。子供もよくは分かっていないだろうが、凄い凄いとはしゃぐ。


「じゃ、じゃあ俺はこれで。魔物の気配はありませんが、気を付けて」

「本当にありがとうございました……!」

 

 お礼がしたいとの申し出をどうにか丁寧に断り、青年は親子を見送る。

 子供は今回の件で強い憧れを抱いたのか、冒険者になると元気に語って、二人は去った。

 

 お兄ちゃんのように、恐れず、落ち着いた、誰をも救える男になる……と。


「ふっ、俺のようになる……か」


 







 

   ならなくていいよぉっ!勘違いだから!!



「ぐおぉ、俺は最低だ……めっちゃ勘違いされた挙げ句、否定も出来ずにあの子の夢を……!!」


 親子のことを考えて魔法を使わなかった?

 勇敢に肉薄攻撃を仕掛けた?

 

 全然考えてなかったよ、そんなこと!思いっきり私利私欲で動いてたよ!




 だって今日のサブ・クエスト……

 《魔法を使わずにブラッド・プラントを三体討伐する》なんだもの!




 これじゃ無かったら、全部"火柱"で燃やしてたから!


「ま、まあとりあえずサブクエスト達成……それで追加報酬は……」



 ~アイテム入手~

  《夢魔王の核心臓×1》




 ……いや、あの。だからさ……?

 良いんだよ?名前からしても、すっごい珍しいものだってのは分かるんだけどさ……?


「使用用途も出所も分からないアイテムを、報酬にするなぁー!!」

 

 


 『スキル:サブ・クエスト……指定された条件を達成することで、高ランクの追加報酬を得ることが出来る。』

 



 そして俺は、手にいれたアイテムの用途が分からず、めちゃ貯めんこでいる現状なのである……。


 つまり無意味です。はい。



「誰か、使い方を教えてくれぇ……!!」



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