災い、転じて悲劇となれ!
いつも通り、頭は空っぽで暇つぶしの為にどうぞ。
休眠中でしたがふと思いついてしまったので。
「ふぅん……キミ、随分と惨めじゃない」
急に現れたそれは、惨めと言いながらその声色に同情は無く、目を開けてみれば、哀れみではなく心底愉快と言わんばかりに愉しげな笑みを浮かべていた。
幾ら食事に仕込まれた毒のせいで朦朧としていようが分かる。彼女は妖精だ。たまに遊びに来る花の妖精や水の妖精たちのような朗らかさや暖かさはないけれど。妖精、と呼ぶには余りにも禍々しい。
そこでふと、思った。もしかして彼女は、夜更かしする子供を寝付かせる為に親が使う、悪い妖精だろうか。
彼女(もしくは彼)は、夜更かしする悪い子を拐って殺して食べてしまうと有名だ。多分、好奇心で近づかないようにという注意事項がいつの間にか子供への脅し文句になったのだろうけど。
なにはともあれ、夜寝静まったこの時間に起きている僕の前に現れている事や、毒で死にかけている時に現れているので、悪い妖精か、死神のどちらかだろうな。
どう考えても良くない状況なのはわかっているけれど、心細い僕にとっては手を伸ばしても決して話しかけてもくれない"良い妖精"たちより余程、目の前の"悪い妖精"のほうが美しくて優しく見えた。
そう思うとおかしくて笑ってしまった。
「……何よ」
「っ、けほっ、……は……。……ょ…っ、げほっ……!」
「……私、あんたの親たち嫌いなのよ」
一体何を言ってるんだろう。やっぱりこの間産まれたという腹違いの妹の祝いの席に呼ばれなかった事に苛立ってるのかな。
「言っとくけど、嫌がらせだから。あんたの事助ける為にやるわけじゃないから」
その言葉が聞こえた後、冷えていくばかりだった身体が暖かくなっていって、僕は眠ってしまった。
目が覚めると朝で、身体は毒を盛られる前よりも楽になっていて、入ってきた黒服の使用人が僕を見て腰を抜かした。
父親と義理の母がやってきて、遠くからでも少し、顔を歪めたのがわかった。
あの"悪い妖精"の言っていたことを思い出して、何となく、そういう事かと納得した。
それから、成人となるまでの2年半、同じような事が続いた。回数を重ねる度に毒はどうやらより強力に。"悪い妖精"が私でもこの毒並みの魔法かけた事はないといって呆れるくらいだったから、相当だったと思う。
ついでに、僕が毒を日常的に摂取させられていたせいか、かなりの耐性が付いていて、解毒剤がある毒では多分死なないレベルになってきているとも"悪い妖精"は楽しそうに言っていた。
曰く、それすらも嫌いな奴らへの嫌がらせになるらしい。……相当嫌いなんだろうな。僕も嫌いだけど。
あと、楽しそうな顔が可愛くて、毒耐性のお陰で手当てされながらやっと話せるようになった時に、いつもありがとうと、大好きと言ったら、一瞬何を言われたのか分からなかったのか「え?」と首を傾げたので、可愛いねと追加した。
彼女はやっと何を言われたのか理解したらしく、みるみる顔を赤くした。そして慌てたように喋り出した。
「かっ、かわい……!?ばばばばっかじゃないの!?あ、あんたの為に助けてやってるわけじゃないんだからねっ!嫌がらせのためなんだからねっ!?」
……なんだろうね。この可愛い生き物。
まあその後も毒が効かなくなった僕を別の方法で始末しようと、様々な陰謀と策略があった訳だけど、
ある時は夜中に忍び込んできた暗殺者が翌日手足を拘束され気を失ったまま王座に飾られていたり、
またある時は飛んできた弓矢が突然の大風で飛んで来た方向に返って行ったりと、結局僕は五体満足で成人した。
因みに、妖精さんは毒が効かなくなってきた辺りから姿を見せなくなっていた。
それから暫く年月は過ぎて、なんやかんやで僕が信頼できる側近達を従えて王座に座り、そろそろ年齢も年齢だからさっさと結婚しろと石頭(宰相)に言われ始めていた。
それなりに栄えている国の独身の国王。その肩書は美味しいのだろう。国内のみならず周辺諸国の姫達を含め見目麗しく権力のある令嬢達を紹介されたが、どれも違う。
僕がいう事には迎合して、不満は買い物とかで発散して、また上っ面の笑顔で僕の隣に立つ。もしくは、より良い案を提示しつつも僕の意見を尊重してと、王妃としては出来た令嬢もいたけど、正直な話、それも違う。
後者を娶るなら後者だし、それに異論はないよ。所詮政略結婚。感情がなくても王と王妃にはなれるのだから。
けれど、僕は最初から、結婚する気はなかった。嫁は1人でいいし、隣にいるのは1人だけでいい。そしてそれは、間違いなく、どこかの国の王女でも、国内の有力貴族の令嬢でも、不思議な力を持つ少女でもない。
ロマンチスト、非現実主義と罵られようが、僕はあの愛すべき天邪鬼な妖精とずっとそばにいたかった。
国王になって唯一叶わなかった願い事だ。
他が叶ったのなら良いだろうって?強欲だけど言わせてもらうよ。
「僕はあの妖精が欲しいのであって、
王座など、それに比べたらそこらの空気より軽い」
ああ、石頭達が慌て始めた。
え?彼女、あの薔薇の森の奥に住んでるの?近々腹違いの妹に死の魔法をかけに来る?
へーえ。ふーん……そう。僕には会いに来ないのに、義妹には会いにくるんだ……そっか……。
「こ、国王?会いに来るのではなく、殺しにくるのですよ?」
「え?あ、そうだね。でも私じゃなく義妹のところに、だろう?」
「……は、はい」
正直、呪い殺したいほど羨ましい。
「ねえ宰相?」
妖精から魔法を取り上げる方法。知ってるよね?
その後、僕は漸く欲しいものを手に入れた。
魔法が使えなくても天邪鬼でかわいい人なんだ。
捕まえた当時、彼女は魔法を失って、とうにそんな力はないとわかっているのに全力で、こう叫んだ。
「災い、転じて悲劇となれ!」
まあもちろん、災いのわの字も無いほど国は安泰。僕は死ぬまで彼女を愛でて暮らしました♪
めでたしめでたし〜。
「めでたしめでたし!じゃ、ないわよっ!!
悪い妖精を封じ込めるって言って監禁する馬鹿がどこにいるわけ!?朝から晩まで私にべったりくっ付いてるってどういう事よ!仕事しなさいよ国王っ!」
「え?心外だなあ。本当は閉じ込めるどころか君の首には僕のものって分かるように噛み付いて国民にすぐにでもお披露目したかったのに、あの石頭(宰相)がどうしても呪い封じのチョーカーをつけて暫くは監禁で我慢しなきゃダメって言うから、つけて1人で愛でてたんだけど……。外していいの?」
「そんな目をキラキラさせてきかないでちょうだい。というか離して。外して欲しいけど噛みつかれるのは御免よ!!」
「……お披露目はいいの?」
「え……」
「かわいいなぁ。婚姻式で魔封じをしたらチョーカーは外して、沢山痕をつけて僕のものって大々的に宣伝してあげるね?私の可愛い悪戯妖精さん」
(妖精はとうとう言葉を失いました)
めでたし、……めでたし?
ありがとうございました!
おとぎばなしの悪役シリーズとか書きたい…。