第九話
ところで、ドラゴン種族というのは各種類以外にも、大きく二つに分けられます。
ワイバーン、カオスドラゴン、カイザードラゴン等、好戦的で、野生の強い戦竜、『ウォードラゴン』。
シルバードラゴン、ゴールドドラゴン、フェアリードラゴン等、高い知能を持ち、魔術等を主に扱う古代竜、『エンシェントドラゴン』です。
後者はほとんど伝説の存在なのですが、数年に一度くらいで目撃例もあったりします。噂では、人の姿に化けて生活しているとも言われており、今日も様々な憶測が飛び交っています。
対して前者のウォードラゴンは、遭遇することは稀ですが、ワイバーン等は各地に生息していますし、カイザードラゴンも竜の巣に行けば死ぬほど見られます。というか死ぬと思います。
で、何故こんな話をしているかというと。
「た、たすけて……っ」
森の中。少しひらけた空間に、尻餅をついてこちらに助けを求める少女と、漆黒の鱗に身を包んだ巨大なドラゴン……カオスドラゴンがおりました。
「……いやー、昨日カイザードラゴンで、今日はカオスドラゴンですか」
「リリィ、何かドラゴンに恨みでもかってるの?」
「さすがに、昨日の今日だとあまり驚かないよね」
「ちょ、ちょっと、見てないで助けて下さいっ!」
私たちが吼えるドラゴンを見ながら各々感想を述べていると、少女が非難の声を上げます。まったく、それが助けを求める人間の態度でしょうか。
「よっし、カオスドラゴンなら腹ごなしには丁度いいし、おねーさんにまっかせなさい。リリィはあのコをお願いね」
「あ、はい」
「俺は休んでていいか?」
「は? いいわけないでしょ? ホラ、とっとと食べられなさいよ。その間に倒すから」
「エサ!? 俺はエサかっ!?」
バカを言いながらも、サニーさんとラファードさんはカオスドラゴンへと駆け出しました。
カオスドラゴン。百戦錬磨の戦士であっても躊躇すると言われる相手に、まったく怯む様子すらない二人。これでお二人の実力を見定めることができそうです。
「大丈夫ですか?」
お二人が少女とカオスドラゴンの間に入ったので、私はまだ座り込んでいる少女へと駆け寄りました。
……む。美少女です。フワフワの金髪に澄んだ湖面の青の瞳。旅人を思わせる黒いローブを身にまとっています。歳は私と同じくらいか少し上でしょうか。地面に投げ出された足から血が滴っています。
「あ、足が……」
「ちょっと、じっとしてて下さい」
私は少女のローブの裾をまくり、傷口を見ます……特に深い傷でもないのですが。私は少女の顔を見ます。ドラゴンに対する恐怖と、私たちが現れたことへの安堵の浮かんだ表情。そして……何というか、違和感。
この傷、ドラゴンに攻撃された傷ではありません。逃げて転んでできた傷、に見えないこともありません。何にせよ、人の寄り付かないこの森にいる時点で怪しいわけですから。私は少女にも警戒しながら、回復呪文でわざとゆっくり治療しつつ、サニーさんとラファードさんを見物……もとい見守ることにしました。
「……ちっ」
キュオ! それはラファードさんが放ったナイフが、虚空で闇に飲まれて消滅した音です。
「やっぱり、やっかいよねぇ、あのブレス」
サニーさんが面倒臭そうに呟きます。
カオスブレス。なんの捻りもない名称で呼ばれるそのブレス。ブレスと呼ばれるものの、その形状は闇色の球体で、何かに触れた瞬間に、その対象を消滅させながら周囲に破壊を撒き散らすという迷惑なシロモノ。
対処法としては、ラファードさんのように、距離をとりながら何かをぶつけて回避するくらいしかありません。いくらお二人が常人離れしていようとも、消滅までは避けられないでしょうし。
「ラファード……いくよ?」
「ああ。任せろ」
二人は視線を交わして頷き合えば、左右に別れてカオスドラゴンへと駈け出しました。
さて、私も一応援護くらい……
ゴオォォォォォォォッ!!
……というわけにもいかないようですね。
「あ、ああ……」
座り込んでいる少女が、私の背後に視線をやりながら、恐怖に表情をこわばらせています。
振り向くと同時に風切り音。
「……ふぅん」
頬に熱。触れれば指に鮮血。
見上げた先には、五つの頭。カイザードラゴン。首の二つに痕があることから昨日のドラゴンのようです。さすがドラゴン。見事な再生力です……しかし。
「珍しいでっかいトカゲごときが、私の顔に傷をつけるなんて……」
おっと。思わず笑みが浮かんでしまいます。
「そんなに消し炭にされたいなんて……いい覚悟ですねぇ」
背後で少女が離れていくのは、ドラゴンから逃げるためでしょうか。それとも……私からでしょうか。




