第六話
日もすっかり暮れて、セントリノ・シティを闇が包む頃。
街の中央を走る大通りから少し外れた宿屋兼酒場は喧騒に包まれていました。
お酒のにおいと料理のにおい、人々のざわめきの混じる中、私とサニーさん、そして見た目が良いだけにちょっとしたことが評価を下げる代表のラファードさんがテーブルを囲んでいました。
え、何がラファードさんの評価を下げたかですか?
「だからさぁ、アンタ一人で旅してるんじゃないんだから、女の子二人がいるのに、何でこの宿を選んじゃったわけ?」
「す……すいません」
サニーさんに冷たい視線を浴びせられながら、テーブルの下で鈍い音を発しているラファードさん。どうやら蹴られているようです。ちなみにサニーさんの靴は鉄板で補強してあるのだとか。
この宿。そう言われたこの宿は、どうやら宿というより酒場としての需要が多いらしく、それなりに大きな一階の酒場のフロアは人で溢れかえっています……屈強な炭鉱夫さんで。
……美少女には、非常に似つかわしくない場所だということは、言うまでもありません。
「な、なんか、この街の近くの炭鉱から街に帰ってきて一番近くの酒場がここだったらしくてさぁ」
「そういう情報は、付近住民からちゃーんと聞き込みしておくのが常識でしょ?」
「そ、そうです。そのとおりだだだだだだだっ!」
テーブルの下から、かなりエグイ音がしました。ラファードさんの顔色が随分悪くなっています。
あ、この宿、値段の割には部屋も広く、シンプルですがなかなかしっかりとした良いお宿です。まぁ、面白いので、お二人には言っていませんが。
「こーんな、可愛いリリィが泊まる宿なんだから、フワフワキラキラのお姫様ベッドのホテルを取るのが普通でしょうが!」
「そ、そりゃそうだけど、何か今日に限ってどこも満室で、もうここしか空いてなかったんだよ!」
「そんなわけないでしょ! 別に何か盛大な催しをやってるわけでもない普通の街で、なーんでここしか空いてないなんて状況になるの!?」
……ここしか、空いてない?
私はスープを口に運ぶ手を止めて、首を傾げました。
確かにサニーさんの仰るとおり、この街は決して小さいわけではありませんが、目立って観光地があるわけでもない街です。人口はそれなりでも、旅人が特別訪れるような街ではないでしょう。
では、何故?
「まー、ご飯が美味しいのはいいけどさー」
サニーさんはひとしきりラファードさんを蹴って気が済んだのか、テーブルに広がる大量の料理を貪り始めました。並み居る肉を、パンを、千切っては喰らい千切っては喰らい。
どうやらかなり燃費の悪い身体構造をなさっているようです。というか、結構細身の身体のどこにそれだけの物が入るのか。あ、一皿完食しました。
「それにしても、その剣凄いよね……俺もそのレックスさんのところ行ってみようかなぁ」
「ダメよ。明日は朝から黒賢者ヨキに会いに行くんだから。行くなら一人で行くか、帰って来てからにしてよね」
「それに、これみたいな剣はさすがにもうないみたいですよ」
「え、そうなの?」
骨付き肉を骨ごと食べているサニーさんに続けて私が言うと、ラファードさんは首を傾げます。
「ええ。良い剣はたくさんありましたけれど、多分ラファードさんの剣とそこまでの差はないと思います」
「そうなんだ……にしても、何でその剣だけ。しかもショートソードで」
「なんでも、これ、原料が普通の金属じゃなくて、レックスさんが使っていた『ワールド・エンド』っていう伝説の斧を潰して作ってるらしいんです」
「ぶっ!」
ラファードさんが食べていたローストビーフを吹き出しました。間一髪で私を射程範囲から外したのはさすがです。まぁ、このあと肉片まみれのサニーさんに凄いことされるんでしょうけれども。
「で、最初はロングソードを作ってたらしいんですけれど、どうしてもこれ以上の長さには鍛えられなかったんですって。剣っていう形状に不向きな素材だったみたいです。素材は不明ですけれど」
「なるほど……でもそれなら、リリィちゃんが石台を両断したっていう話も頷けるなぁ」
そう言って頷くラファードさん。どうぞどうぞ。そうやって誤解していてくださいませ。
確かにこの剣は素晴らしいです。でも、この剣の本当の力はそんなものじゃありません。
この剣に触れた私だから言えることですが、これはきっとレックスさんも気づいていなかったでしょう。レックスさんは魔術を扱わない戦士だったようですから。
この剣の素材。私の感覚が間違っていなければ、アレだと思います。
数々の伝承や物語に登場した、あの恐怖の石。
……もしヨキさんに会えたら、これのことも相談したほうがよさそうですね。
私は怒りの表情をしながらも、食欲が怒りを勝り、怒りを食べ物にぶつける様に食べまくるサニーさんと、気楽にニコニコと食事をするラファードさんを見ながら考えます。
噂にならない魔王。
街道に現れたカイザー・ドラゴン。
素材不審の、元伝説の斧のショートソード。
「……面倒ですね」
私はなかなか剥がせない大きな海老を、二人に見えないように頭から丸かじりしながらため息を吐いたのでした。




