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第五話

 ちょっとやりすぎました。

 もう少し手加減するべきでした。でないとサニーさん達に私の戦闘能力がバレてしまって、あまり楽ができなくなってしまいます。というわけで、言い訳をしましょう。

「あ、いえ、父から剣の技術を少し学んでまして、試し切りだとこういうこともできるんです。もちろん、この剣でなければ台なんて切れませんでしたし。実戦経験なんてほとんどないものですから……剣術の試合なんていつも負けていましたし」

 私たちは店主さんのお店から奥の居間の方に移動して、店主さんの奥様も加えて四人でテーブルを囲んでいます。奥様の入れたお茶が凄く美味しいです。ほのかにレモンの香りがいいアクセントになっています。

「それにしても、その歳で大したもんだ。そのうちダグドよりも強くなるかもしれないな」

 そう、店主さん。名前はレックス・バーナーさんといい、なんと私のお父さんと昔旅をしていた方でした。

 二十年前に起きたという『白銀の魔王戦争』で、お父さんと共に魔王軍を壊滅させた方々のうちのお一人で、『神の斧』の二つ名で知られていたそうです。

 戦いの後、魔王達との戦いでの怪我が元で一線から退き、奥様と結婚して、こうして鍛冶師となったのだそうです。人に歴史あり。世間は狭いものです。

「それにしても、リリィちゃんはお母様似なのね。もう少ししたら、もっと美人になるわねぇ」

 ふいに、奥様がニコニコと言いました。確かに美少女が成長すれば、美女は間違いないのですが。

「……母をご存知なんですか?」

「ええ。最近は忙しいみたいでなかなか会えないのだけれど、以前はよくお茶をしていたわ。リリィちゃんの自慢話ばかりしていたから、一度会ってみたかったの。だから会えて嬉しいわ」

「えっと、母がなんだかすみません」

「ふふ、気にしないで」

 どうも私の両親は、私のことを広範囲で自慢しまくっているようで、こういうことが多々起きます。

 内容は全くの事実なので問題ないのですが、やはり多少恥ずかしいものがあります。

「ふーん、じゃあ、リリィのお母さんも美人なんだ?」

 隣からサニーさんが覗き込んできました。出されたクッキーを片っ端から食べている様子は、良く捉えれば無邪気。悪く捉えれば馬鹿っぽいという感じでしょうか。まぁ、美人さんですから、許されるのでしょうが、口の周囲に散らばった欠片がなんだか不憫です。

「美人、だと思います。ブルーエルフとのハーフだからかもしれませんけれど」

「……ああ、それでリリィもっ!」

 サニーさんは合点がいったという風に、大きく手を打ちました。

 ブルーエルフとはアルファンド大陸の西にあるといわれる『エルフの森』に住む、水の加護を受けたエルフ種族のことで、特徴は水中でも生活できることと、髪と瞳が蒼いことです。

 そう。私の瞳と髪は、薄い青。ブルーブロンドといった感じでしょうか。エルフのように耳が尖っているわけではないので、それ以外は……超美少女ということ以外は普通の人間と変わりありません。

「お母さんはどちらかと言えば人間の血のほうが濃いみたいなので、エルフの特徴はあまりないんですけれどね。私の方がエルフに近いのかもしれません」

 私はなんとなく、ふわりとウェーブする自分の髪に指を通しました。私が剣術よりも魔術を好むのも、ひょっとしたらエルフの血のせいなのかもしれません。

「ところで、また『魔王』が現れたっていう話だが、確かなのかい?」

「……えっと、どういうことですか?」

 ふいに訝しげに尋ねてきたレックスさんに、私は首を傾げます。

「いやな、もし魔王なんてものが現れれば、そいつの強い弱いは別として、俺の耳になにかしら情報は入ってもいいはずなんだよ。昔の繋がりもあるからな」

 確かに、レックスさんの言うとおりです。いくら国王が魔王の存在を公表していないとはいえ、噂の一つも流れるはずです。ましてやお父さんの仲間だったレックスさんが知らないというのは、ちょっと考えられない話です。

「っと、ここで考えても仕方ないことだったな」

「いえ、仰るとおりだと思います……一度、父の話も聞いたほうがいいかもしれません。国王にも、もう一度確認してみようと思います」

 何となく、嫌な予感がしました。具体的にどうというわけではないのですが、こういう予感には従っておいて損はしません。

「ああ、だったら、ヨキさんの所を訪ねてみてはいかが?」

「ヨキさん?」

 奥さんの言葉に私は首を傾げます。

「ああ、それがいい。俺たちの昔の仲間で……『黒賢者』の名前なら聞いたことがあるんじゃないか?」

「……っ!」

 レックスさんの言葉に私たちは目を丸くしました。

 『黒賢者』

 常に黒いローブを纏っていることからそう呼ばれた、過去に四人しか呼ばれたことのない『賢者』称号を持つ一人です。

 二十年前の戦争を境に消息を絶ったといわれていたはずですが。

「アイツは変わってるからな。手紙を書いてやるから行ってみるといい……機嫌がよければ、会ってくれるからよ」

 ……どうやら、一筋縄ではいかない人のようです。

 私は何ともいえない微妙な表情のレックスさんを見ながら、こっそりため息を吐いたのでした。


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