第四話
なんて思春期の乙女みたいなことを思ってみましたが、こんな姉がいたら御近所から後ろ指さされて引っ越したくなるかもしれません。いえ、なります。
そんなこんなで辿り着いたのは、大通りから路地を少し入った鍛冶屋兼武具屋さん。それなりに大きな店構えで、風に運ばれる焼けた鉄の臭いが良い雰囲気です。ちょっと期待できます。
「こんにちわー」
「いらっしゃい……おお、これは凄い美人さん達だ。悪いけれど、飾り物は置いてないんだよ」
店に入ると奥からお父さんと同い年くらいの男の人が出てきました。ゴツゴツした身体つき、特に指が岩を削りだして作ったような指をしています。まさに職人の指です。
店内は大きな木から切り出した無骨なテーブルとカウンターがあり、壁には一面に多種多様な武器がぶらさがっています。壁沿いに置かれた棚には鎧などの防具も並び、奥には試し斬り用と思われる空間もあります。
たまたま見かけたお店でしたが、どうやら当たりのようでした。
「ええと、ショートソードを探してるんです。私に丁度良いくらいの」
「おや、旅の人だったか……ちょっと、両腕を伸ばして広げてくれるか?」
「こうですか?」
私は言われるままに、肩の高さで腕を広げます。すると店主さんは真剣な顔で私を上から下までゆっくりと見ていきます。これを普通のおじさんがやると気持ち悪いだけですが、この人がやると空気が張り詰めたようになり、自然と背筋が伸びます。
「……こりゃ驚いたな……お嬢ちゃんには、並みの剣じゃ無理だな……ちょっと待ってな」
店主さんは目を丸くして、苦笑まじりにそう言うと、奥へと姿を消しました。
「あのオヤジさん、ただ者じゃないね……確かな目を持ってる」
「そ、そうですね」
感心したように笑顔で言うサニーさんに、私は曖昧な返事をしてしまいます。
私の能力を見ただけで把握した店主さんにも驚きましたが、その言葉が出てくるサニーさんにも驚かされます。私はまだ、サニーさんの前で一度も自分の能力を使ったことはないはずなのに。
世界は広いとは、よく言ったものですね。
「……待たせたな。これでどうだい?」
「おぉ……」
「……すごい」
店主さんは戻ってくると、一振りのショートソードをカウンターの上に置きました。
長さは私の腕の長さくらいでしょうか。鈍い銀色に輝く両刃の刀身には一点の曇りもなく、僅かな歪みすら存在しません。飾り気のない鍔と柄でしたが、剣の力を最大限に引き出す形状と重量なのだということが見て取れます。
「あんたら、ただ者じゃないみたいだな。見ただけでこれの力がわかるとは」
店主さんは嬉しそうにそう言って、私に剣を差し出しました。私は反射的に受け取ります。
……凄いです。これは本当に凄いです。
柄を持った瞬間に、身体に震えが走りました。手に吸い付くような感覚。身体の一部となり、剣先まで神経が通ったような錯覚を起こします。
「あ、あの、試し斬りしてみてもいいですか?」
「ああ、いいとも」
私ははやる気持ちを抑えながら、奥に置かれた石造りの台と、その上の丸太の前に立ちます。
丸太の大きさは小さな子供ほど。まき割りをするならば多少手こずりそうな大きさです。
ふっ。
私は短く息を吐きながら、ほんの少しだけ力をこめて、頭上から剣を振り下ろしました。
キィィィィン
甲高い音が店内に響きます。目の前には剣を振るう前と全く同じ状態の丸太が存在しています。
「リ、リリィ……アンタ、ちょっと……」
サニーさんの声が震えています。
「あっはっはっは! こりゃまいったなぁ……これはお嬢ちゃんに使ってもらわないと、鍛冶屋を名乗れなくなっちまう」
豪快に笑う店主さんの言葉を聞きながら、私はそっと丸太に触れました。
ガゴォン!
触れた瞬間、丸太の中央に線が入り……そのまま石造りの台座ごと真っ二つになり床に崩れ落ちました。
……まさか、こんなところで、こんな素晴らしい剣と出会えるとは思っていませんでした。
「すみません。これ、いただけますか?」
私がニッコリと言うと、店主さんも笑顔で頷いてくれます。
まったく、神様はどういうおつもりなんでしょう。
こんな完璧な美少女に、幸運までお与えくださるなんて。




